366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

Love Machine

2012年03月04日 | 366日ショートショート

3月4日『ミシンの日』のショートショート

「先生!蘊蓄斎先生!」
「おお、これはオシエロ君とオネダリちゃんじゃないか。久しぶりじゃのう。なんじゃ?今日も今日とて自己解決を放棄してあなたまかせの他力本願かね?」
「先生、どうしてミシンはミシンって言うんですか?」
「おやオシエロ君、小学生らしい質問じゃな。英語の『Sewing Machine』を訳して『裁縫ミシン』と呼んだのが略されて『ミシン』になったのじゃよ。和製英語というわけじゃ。ちなみにアメリカで『Machine』と呼べば、普通は自動車のことじゃよ」
「さすがは蘊蓄斎先生だわ」
「お前たち、ミシンを発明したエリアス・ハウが見た夢の話を知っているかね?投資家に、ミシンの開発を依頼されたハウは、従来の縫い針と同じ構造で作ろうとしたがうまくいかない。苦心惨憺の日々、ついに追いつめられたハウは、『ミシンはまだできないのか~』と叫ぶアフリカ原住民に襲われる悪夢を見たんだ。目が覚めたハウは、原住民たちがふりかざしていたヤリの先に穴があったのを思い出した。これだ!ハウは、ミシン針の先に穴を開け、ついにミシンを発明したんだ」
「へ~、大発明のアイディア、ボクも夢の中で教えてほしいなぁ」
「単細胞生物かね、君は!ハウは偶然夢を見たんじゃないぞ。四六時中、ミシン開発に心血を注いだからこそ、閃いたのじゃ。膨大な努力の果てに、直感を得たということじゃよ」
「勉強になるわ~」
「じゃろう?しかし実は、同時代ほんの少し前にミシンを発明した者がおる。ウォルター・ハントという男じゃ。このハント、実はすんごい発明家なのじゃ。安全ピン、万年筆、連射式銃、石炭ストーブ、砕氷船等々、さまざまな発明をしておる。ところがハントはミシンの特許申請をしとらんかった。ハントはハウを訴えて裁判を起こしたが無駄じゃった」
「例の夢の話って、アイディアはオリジナルだって正当化するための、ハウの言い訳みたいねぇ」
「かもしれん。とにかくハントは特許の重要性がわかっとらんかった。きっと歯がゆかったろうよ。特許をとったハウも、商品化したシンガーも、瞬く間に億万長者になったのじゃから」
「そうねぇ。ハウのこと、呪い続けたかもしれないわ」
「そうじゃな。夢の中に現れて『アイディア料、よこせ~』なんつってな」
「え?アフリカの原住民が?」