366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

長崎は今日も雨だった

2012年02月16日 | 366日ショートショート

2月16日『天気図記念日』のショートショート



苗場のフジロック会場は今年も快晴。ここ何年も雨が降ったことがない。
なのに・・・
僕の大好きなロックグループYouTooのコンサートが始まって間もなく、黒雲が空に湧き始めた。
そして、雨粒がポツリポツリ・・・
「ありえない!そんなこと・・・大切なイベントのときには雨が降らないはずなのにぃ~!」
「気象管理局の怠慢じゃねぇの?」
観客達が空を見上げ口々に言う。
ああ、やっぱり。ずっと家で隠れているべきだった。でも、我慢できなかった。スタジオ録音専門のYouTooが前代未聞の野外コンサートをやるんだから!僕一人なら何とかなると思ったのに。
僕は、雨男。
演奏は中断され、ボーカリストから政府気象管理官がマイクを奪った。
「この会場に、雨男がいる!全員、その場を離れるな!管理官が来たら気象履歴カードを見せろ」
気象履歴カード・・・
個人の過去の気象情報が記録されているカードだ。人生の大切なイベントと、その時その場所の天候が自動的に記録されていくカード。入学式・・・卒業式・・・遠足・・・初デート・・・ことごとく雨が降ってきた僕の記録も。
10年前・・・雰囲気で政権を握った政党が、適当なマニフェストで気象管理局を設立した。そして、日本国中の雨男、雨女を拉致して九州へ連行した。逆に九州の晴男、晴女は本州へ。
政府の見込みでは、本州のイベントの時には晴ればかり、九州では雨ばかり・・・になるはずだった。だが、実際にはそうならなかった。それを国民が非難すると、政府は、隠れ雨男や隠れ雨女のせいにした。かくして、雨男雨女狩り専門の気象管理官がイベント会場に現れるようになったのだ。
雨がザンザン激しくなる。雷さえ鳴り響いた。
僕は思わず震えながら、観客の中を後ずさりしていく。
「止まれ!そこのお前」
見つかってしまった・・・
「カードだ、気象履歴カードを見せろ」
もう、逃げ道はない・・・
「雨男を発見したぞ!」
アナウンスをした管理官がステージで叫んだ。
ステージの上で管理官数名が取り押さえている・・・YouTooのボーカリスト、それにギタリストを。
そうか、彼らも雨男だったのか!それでスタジオ録音ばかり!僕も一緒だ、雨男バンザイ!
「あ、僕だって雨男です。逮捕してください」
僕は、自ら両腕を差し出した。ガチャリ。手錠がかけられる。
観客の間を通って僕は連行されていく・・・
観客達が口々に僕を見ながら、囁き合っている。その声が僕の耳に届く。
僕の足から力がどんどん抜けていく・・・そんな・・・
僕の顔を濡らすのは雨水ばかりじゃなくなって・・・

「かわいそうに」
「長崎に最近、収容所ができたらしいぞ」
「収容所で一人残らず処分してるってよ」
「雨を降らしたんだから、当然の報いさ」
「それで日本中どこでも晴れたらいいね」
「♪あ~した、天気になぁ~れ♪」