366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

ものすごくかけはなれて、ありえないほど遠い

2012年02月26日 | 366日ショートショート

2月26日『咸臨丸の日』のショートショート

空間モニタに恒星間巡航艇が浮かび上がる。
生徒たちが見守る中、ぐるりと一回転、その全容を披露する。
「ずいぶん旧式な船だなぁ」
「これってカンリン号でしょ?」
「え?地球人が初めて、地球人だけの力で恒星間航行に成功したっていう、あの?」
「こんなんでアメリゴ星まで二千光年の旅を?無理だよう」
先生が微笑む。
「昔の地球人はこのカンリン号で37日間かけてアメリゴ星のランフサンシス港に到着したんだよ」
生徒たちから感嘆の声があがった。
「みんなはカンリン号について、どんなことを知っている?」
「カッツ船長!」
「そう、カンリン号の船長はカッツ船長だったね。それから?」
「ユキーチ!」
「そうそう、ユキーチも乗っていたね」
「ジョンマーン!」
「宇宙で遭難してアメリゴ星人に救出されたジョンマーンもいたね」
「地球人だけで初めて恒星間往復航行に成功!」
「うむ、実はそれは違うんだ。カンリン号を実際に指揮したのはアメリゴ星人のブルックだ」
「えー!カッツ船長は?」
「カッツ船長は宇宙嵐と連続ワープの船酔いでほとんど船室にこもったままだった。他の地球人も同様のありさまさ」
「なーんだ」
「まあ彼らのおかげで地球人の能力をアピールできたし、アメリゴ星人の優れた技術や文化を学ぶこともできたわけだ」
地球人がランフサンシス港で歓待を受けている写真が次々と紹介されていく。
ユキーチがアメリゴ星人の美女とツーショットの写真もあった。
授業終了のビープ音が鳴った。
「よし、今日はここまで」
挨拶を済ませた生徒が次々と消えていく。
最後の生徒が消えると、先生はメイン配線を切り仮想教室を閉じて立ち上がった。
そして書斎の窓辺に寄って空を見あげた。
アメリゴ星人の大艦隊が空一面、西へと連なっていく。近く太陽系付近でも大規模演習がおこなわれるのだ。
確かにアメリゴ星人と友好を結んで地球は豊かになった。
だが、地球の陸地の20%がアメリゴの基地となり、他の異星人からの侵略を牽制している。
果たして地球はあの当時より平和になったんだろうか?