2月13日『銀行強盗の日』のショートショート
「うちの大金庫は侵入開錠不可能、難攻不落!どんなプロの金庫破りが来てもヘッチャラだもんね~!かかってこんか~い!」
頭取が挑発的に豪語するもんだから、やって来ました泥棒3人組。
全身黒タイツの信楽焼福狸みたいな親分、貧相な子分、そしてアトムみたいなチビッコ少年ロボットだ。
親分「よ~し、銀行には侵入できた。番号!イチ!」
子分「ニィ!」
ヌスット「プ!」
・・・
子分「親分、ロボットの声、おならみたいな『プ』だけじゃないですか。喋れなくてもせめてカッコイイ音で返事してほしかったなぁ」
親分「金庫破りとしての性能を重視するあまり、発声装置まで手が回らなかった。さあ、早速金庫破り開始だ!ヌスット1号、発進!!」
ヌスット「プ!」
子分「・・・ヌスット1号・・・その安直なネーミングもどうだろう・・・ややや!!」
ヌスット1号、お腹からセンサーコードを取り出して巨大金庫のダイヤルに装着、ほんの数秒ダイヤルを右へ左へクルクル回して、ややや!!という間に大金庫開錠だ!
子分「すごいぞヌスット!たいしたもんだヌスット!」
ヌスット「プ!」
親分「おいおい子分、ヌスット1号に向かってヌスット呼ばわりはないだろう。さあ、入るぞ!!」
・・・ステンレスの冷たい光沢の壁、床、天井・・・だだっ広い金庫の内部はガラ~ンとしています。いや、ありました、ありました!奧の隅にプレハブ倉庫大の金庫が!
親分「金庫を開けても、中にまた金庫!そういうオチか~い!!」
・・・
子分「親分、誰に向かってツッコんでるんですか?これもヌスット1号に開けてもらえばいいじゃないですか」
親分「よし、ヌスット1号、ご褒美に充電を2倍してあげるぞ!発進!」
ヌスット「ププ!」
子分「ややや!」
・・・という訳で、さすがは金庫破りのために開発されたスーパーロボット!スーパーテクニックであっという間にプレハブ金庫を開錠だ!
親分「お宝拝見!!」
プレハブ金庫に入ってみると、またまたなんとミカン箱大の金庫が入っています。ふざけやがって~!!
子分「ヌスット!やっちまいなぁ!!」
ところがヌスット1号、金庫のダイヤルがシャツのボタンみたいに小さくてつまめません。泣きそうな顔で「プ~」
もはや、もはやこれまでか・・・
低くイヤらしく親分が引き笑いです。
「グククククク、こんなこと想定内なのだよ。ヌスット1号の真価はこれだ!」
(ロボットアニメ風の勇壮なBGM)
カシャン!カシャン!カシャン!
ヌスット1号は全身タイツを脱ぎ捨て、お腹の真ん中から真っ二つ、中から小型のヌスット2号が登場!!
おまえはマトリョーシカか!!
45センチフィギュアのヌスット2号はまたも見事な手さばきでミカン箱金庫を開錠!さぁ、いよいよか?
中を覗くと、そこにはタバコ箱大の金庫が!イヤ~ン、どこまでやるの?
親方「ヌスット2号、目に物見せてやりなさい!」
・・・という訳で、ヌスット3号がお腹の中から登場します。もはや親指大です。
親方「どんなもんだ!あきらめろ、金庫!」
・・・
子分「う~ん、なんかスゴいって言えばスゴいんだけど・・・もう諦めた方がいいんじゃないでしょうか?タバコ箱の金庫に入っているお宝ってたかが知れてるし・・・いや・・・タバコ箱くらいならここで開けなくてもポケットに入れて持って帰れるんじゃ?・・・」
親分「おバカ!!!」
親分、子分に強烈ビンタです。
親分「おまえは何にもわかっちゃいねぇぜ!『ヴァキナVSメカヴァキナ』という怪獣映画が『東映夏休みこどもまつり』で上映されていたとしよう。勝負をつけずに映画が終わって子供たちは満足できるかい?金庫VSメカ金庫破り、この勝負、途中で終わっちまってそれでいいのかい?」
子分「俺たちガキじゃねぇやい!」
親分「だからおまえはだめなんだ。テクニックを駆使して大金庫をパックリ開いて小金庫を露わにし、さらにその奥の秘部を求める・・・それが男のロマンなんだよう!男がここで萎えちゃあいかんぜよ!」
子分「親分、何となくわかった気がします・・・金庫が米粒大になっても、ヌスットがナノサイズになっても、おいらついていきますぜ!」
親分「よくいった!おまえは今アウフヘーベンによって新たなステージへとジャンプしたのだ!平たく言えば人間的に成長したのだ、子分」
二人は手に手を取り合います。
子分「・・・金庫破りを続けることが成長かなぁ・・・?」
・・・
まあ、とにかく、こんなそんなをグダグダやっているうちに、とっくに銀行は警官によって十重二十重と包囲されているんだけどね。