しかしそんな孝男が、女児が生まれたとたんに変貌した。
こと娘にたいしては盲目的愛情をしめす孝男で、長男や次男に接するときとはまったくちがう表情や態度をみせる。
長男にたいする接し方については、おのれの実子ではないからと思えないでもない。
しかし次男は、まぎれもなく実子なのだ。
名前にしてから、道子には納得ができない。
はじめに長男と付けたから、第2子は次男でいい。
いや、でなければおかしいだろうと、まるで他人ごとのように言う孝男だった。
ほのかの折には、まさか三女と書いてミナ…不安になった道子だったが危惧におわった。
道子がおそれた名前ではなく、ほのかと名付けてくれた。
「どうだ、良い名前だろうが。ほのかに香る…だ」
得意満面にかたる孝男は、新婚とうじの孝男そのものだった。
あんどする半面、不安なおもいもよぎった。
あまりにもの変貌ぶりが気になる道子だった。
そしてその不安は、すぐに的中した。
ほのかにたいする愛情のそそぎかたが尋常ではないのだ。
孝男の偏執ともおもえる愛情のそそぎかたは、道子に重くのしかかっていた。
長男そして次男にはけっして行うことのなかった授乳やら湯浴みやらを、嬉々としてほのかにはおこなっている。
当初こそほほえましくみていた道子だが、泣きごえひとつ逃さない孝男だ。
銀行マンとしてつちかわれた、動物的勘とでもいうのか、「ひっ」という、声とも呼吸音ともつかぬのに、すぐに飛び起きる。
なのでほのかの泣き声は、孝男が在宅時にはひとこともない。
「病院なの?」、「実家にいってるのかと思ったわ」と、翌日に声をかけられた。
しだいに懐疑の目をむけるようになった。
そして不用意にもらしたシゲ子のひと言が、道子を失意のどん底におとしこんでしまった。
「孝男ったら。あの娘さんを、まだ引きずっているのかねえ。
たしか、鈴木ほのかさんだったわよねえ」
不用意なのか、それとも道子にたいする意趣返しなのか…。
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