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昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

奇天烈 ~赤児と銃弾の併存する街~ (三十)

2025-04-12 08:00:21 | 物語り

「山本さんは、糖尿病もわずらってみえますね。
糖尿病ののことは、ご存じですね? 合併症がこわいですからね。
はいそれでは、眼底検査をさせてもらいますよ。
だいじょうぶですよ、なにもこわいことはありませんからね。
光を当てて、なかの様子を見させてもらいます。
まぶしいでしょうけれど、辛抱してください。
まばたきしたくなっても、できるだけ我慢してくださいよ」

 じつに優しく低い声でささやききかけられると、目のなかをのぞき込まれるという恐怖感も薄らいでくる。
いっそわたしのこころのなかも覗いてみてください。
家族に見放されたあわれな、この老人です。
ひとり住まいがこころ細い、独居老人です。
どうぞ気にかけてやってくださいな、女神さま。
あなたさまならば、多少の苦行にもたえられます。

 しかし実際は、そんな生易しいものではなかった。
まぶしさを通りこして、痛みすら走った。
まばたきをしようとすると、かならず「がまんして、ガマン、我慢!」と、声が飛ぶ。
〝できるだけじゃなかったの? 先生。辛抱できないときは……〟
 はからずも涙がでると、こんどは「男でしょ! 泣かないの!」と、またもや叱咤のことばが飛んできた。
 泣いてるのじゃないんです、先生。
目がかわくから出てくる生理現象だと思うのですが。

「ああ、白内障ですね。これは、手術しかありません。
とりあえずお薬で進行をおさえますが、それで治ることはありませんから」
 いとも簡単に手術だとおっしゃる。
なおらないと、冷たく言いはなつ楊貴妃の再来。
〝わたしの都合など、いっさい聞かないのですか、先生〟
〝分かったぞ、そうだった。医者という人種は、総じてサドなのだ〟
〝分かっていたはずなのに、歯科医で思い知らされていたはずなのに〟
〝見目麗しい女医先生のお姿に、見事に……〟



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