トンサンの隠居部屋

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「小説らしきもの」 むかしトンサンが書いたもの 「ボク」

2022年03月26日 01時00分47秒 | マック鈴木家

「ボク」

バクという動物がいます。
バクは夢を食べる動物です。
ある家にボクという動物がいました。
ボクは夢を作るのが得意な動物でした。
ボクはいつもああでもない、こうでもないと一人空想にふけるのが好きでした。
ですから食事の時などでも、母が何か言ってもボクは聞いてないで「ウンウン」と空返事をし、後で、「今なんて言ったの?」と聞き、母をウンザリとさせてしまいます。

ボクはギターが好きでした。8年も前からギターを買ってきて弾いていました。
そしていつも歌手のようにうまく引けたらなあと思っていました。
でも一人で弾いているとなかなかうまくならず、すぐ放り出してしまうのでした。
ギターの学校へ行って習おうかなあと思いました。
ギターの学校を覗いたら、クラシックギターばかり習っていました。
ボクはフォークソングを弾きたかったのです。
ボクはあきらめて帰ってきました。
そのうち友達が遊びに来て、ボクがギターを弾いているのを見て友達もギターを買ってきました。
ボクには仲間ができました、一緒に教本を見ながら習いました。
友達は指がずんぐりで短く、なかなかうまくなりませんでした。
でも歌がすごくうまいのです。味があるのです。
ボクはいつもこの友達と歌うのが楽しみでした。

やがてボクは、ガールフレンドにしたいと思っていた女の子と一緒にギターを弾けることになりました。
ボクの家のすぐそばがその女の子の家なのです。
家の前を通ると女の子がギターを弾いていました。
一緒に弾かないかと誘ってボクの友達と三人で弾きました。
そのうち女の子が友達を誘ってきて四人で弾きました。
でも女の子たちはすごくうまいのです。
おまけに自作の歌もバツグンにいいのです。
ボクたちはとても一緒に練習できないなと思い、いつの間にかギターを弾くのはやめてしまいました。

でもノートの回し書きだけはやっていました。
このノートの回し書きはボクが友達と二人でやっていたのですが、女の子二人が加わったわけです。
でもこのノートの回し書きも3ヶ月くらいでやめてしまいました。
女の子の頭と男の頭は違うんだとボクは思いました。
ボクには女の子の方が大人っぽい考え方をしているんだと言うことがわかりませんでした。

ボクはさびしくなってまたギターを弾き出しました。
その時ボクが女の子に負けたくないと思ってギターを一生懸命習えばうまくなっただろうに、ボクはそんなこと考えませんでした。

やがてボクの卒業の時が来ました。
ボクの友達は浜松の会社に就職し、ボクと会えなくなってしまいました。
ボクも会社に入り、しばらくはギターとお別れしていました。
ボクが学生時代から文通していた年下の女の子から毎月手紙が来ていました。
ある時その手紙の中に女の子が作った詩が入っていました。
ボクはその詩を見て、前の女の子の歌に比べるととても幼稚だなと思いました。
けれどもその中学生の女の子の作った詩がとてもかわいく思えました。
ボクはさっそく詩に曲を付けました。
ギターを弾きながらメロディを作り、音符に直しました。
ボクの弟がその歌にコードを付けました。
ボクはその歌を女の子に送ってやりました。
女の子はとても感激していたようでした。

ボクはそれから一曲作りました。
作りながら作曲って大変だなあと思いました。
何でもホイホイ作ってしまう作曲家がうらやましくなりました。
そうしてボクは一人で河原などへ行って時々ギターを弾いて歌うのですが、あまりうまくなりませんでした。
ボクは弟の使っていたガットギターが欲しくなり買いました。
でもうまくなりませんでした。
ボクは弟の使っているフォークギターも弾きました。
けれどもガットギターより難しかったのでやはりうまくなりませんでした。
ボクは会社の先輩が持っていたエレキギターを買いました。
でもうまくなりませんでした。
こうしてボクという動物は、いっこうにうまくならないのを気にもせず、いつもうまく引けるようになることを夢見ていまでも時々ギターを弾くのです。
読者の皆さんは真剣に練習したらボクだってうまく弾けるようになるのにと思っていらっしゃるでしょうね。
でもボクはだめな動物なのです、なぜってボクは浮気性の動物なのですから。

ボクは絵を書くことも好きでした。
中学生の時に写生大会で三等をもらってから、ボクは絵の才能があるんじゃないかと密かに思っていました。
特にイラストを書くのが好きで、女の子の漫画雑誌を見て女の子の絵も書きました。
喫茶店に入っては「ああこんな絵が書けたらな」といつも思っていました。
ある時新聞にイラストの通信教育の宣伝が載っていました。
ボクはどうせやるなら本格的にと思って始めました。
でもなかなか進みませんでした。
ボクは前に速記の通信教育もやっていました。でも途中で止めてしまったので、今度こそ卒業したいと思い、期間を延長してもらいましたが、やはりくじけてしまいました。
ボクはだめな動物なのです。根性がないのです。
でもボクの図案が良くて、推進活動のシンボルマークとして会社で採用してくれたこともありました。
それだもんだから、ボクは今でも いつかすてきな絵を書いてみんなを感心させてやるんだと思っているのです。

ボクは小遣い帳を付けました。
でもいつの間にか止めました。
ボクは写真に懲りました。
でもいつの間にか止めました。
ボクは卓球を始めました。
でもいつの間にか止めました。
ボクは旅の記録を付けました。
でもいつの間にか止めました。
ボクはオーディオに懲りました。
でもいつの間にか止めました。
ボクは海に潜りました。
でもいつの間にか止めました。
ボクはスキーに懲りました。
でもいつの間にか止めました。
ボクは長い間日記を付けていました。
でもいつの間にか止めました。
ボクはハーモニカを吹きました。
でもいつの間にか止めました。
ボクは車の改造に懲りました。
でもいつの間にか止めました。
ボクは読書に懲りました。
でもいつの間にか止めました。
でもボクはいつの間にか止めたことでも時々思い出してはやっているのです。
相変わらず、いつかうまくなるだろうと夢見て。
真剣にやればうまくなるだろうに、だめなボク。
ボクは今思っているのです、こんなだめなボクでもいつかは好きになってくれる人が現れるだろうと。

夕焼けが好きなボク。潮騒が好きなボク。道ばたの名も無い花が好きなボク。
こんな純情なボクをだれか愛してやって下さい。

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