月に浮かぶ、
secret talk86 安穏act.23 ―dead of night
浴場ひとり、月に浸かる。
「天窓あるんだ?」
水滴しずかなタイル、温かな湯の波に月ゆれる。
さざなみ金色かすかな影に仰いだ頭上、天井きりとる夜に黄金うかぶ。
「きれいだ、」
満月まだ欠ける、だからこそ惹かれる。
まだ満たない、そんな自分の想いに英二は哂った。
「…なにやってんだろ、俺?」
満たされない恋、この自分にそれが起きている?
こんなこと信じられない、だから、
―片想い、って…初めてだよな?
見つめれば手に入る、それが日常だった。
けれど今は違う日常がある、その原因が育まれた風呂に浸かる。
―広いよな、みんな昔ってこんなもんか?
想い仰ぐ天井、湯適ふっと降りてくる。
高い壁なめらかなタイルのカーブ、やわらかな白に経年が安らぐ。
戦前より前から建つのだろう、その年月だけ清らかな湯気はるか窓が高い。
―こんな風呂に湯原、ずっと浸かって育ったんだな…そっか、
天井に仰ぐ窓、月ふわり湯気に光る。
真昼なら青空きっと美しい、星ふる夜もあるだろう。
ひとりじめ空も湯も清々しい、こんな風呂に慣れた瞳には寮の浴場どう見えるだろう?
―男だらけ詰めこむ感じだもんな、警察学校どこもさ?
警察学校の教場は女性もいる、でも少ない。
それだけ体力から厳しい現実がある職業、だから自分をそこへ放り込んだ。
だからこそ不思議になる、なぜ君が警察官にならなくてはいけないのだろう?
「なんか…似合わないんだよな、」
想い声こぼれて感深まる、疑問あらためて穿ちだす。
この家に、この家族に、とりかこむ庭も何もかも君らしくて、だからこそ、
―なんで湯原の父さんが警察官になったんだ?
書斎の写真おだやかな微笑、あれは警察官の貌だろうか?
『父は殉職したんだ』
あの言葉が似合わない、それが理由の君はもっと似合わない。
だからこそ疑問ふかく抉られる、なぜ「理由」は生まれた?
―警察官より学者だよな、あの貌も書斎も、
分厚い美しい本ならぶ部屋、ダークブラウン穏やかな書斎机。
本も机も丁寧に使いこまれた艶が光っていた、そんな場所と「警察官」が反発する。
―湯原の父さん、どんな経歴の人なんだろ?
調べれば解るかもしれない、この家に痕跡なにかある?
そんなこと考えかけた掌ひとすくい、澄んだ湯ばしゃり顔かぶった。
「あっつ…」
温かな湯が肌から覚ます、脳髄ゆるく和ませる。
ため息そっと湯気ふかく香って、濡れた髪ひとつ振った。
―なに考えてるんだよ俺、他人の家に興味持ちすぎだろ?
同期の家に泊めてもらう、それだけでも自分にはイレギュラーだ。
そこから「家族」にまで踏みこもうとする、そんな自分に笑った。
「変だな、俺?」
変だ、こんな自分は。
こんな自分に何が変えてゆくのだろう?
こんな答え本当は解っている、唯ひとり君だ。
―なんで俺、こんなに湯原にこだわるんだろ…男で同期なのに?
こだわっている、だから否定の理由つけたい。
そんなこと自体いつもと違う、理由を探したがるほど執着したくて。
※校正中
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英二23歳side story追伸@第6話 木洩日
secret talk86 安穏act.23 ―dead of night
浴場ひとり、月に浸かる。
「天窓あるんだ?」
水滴しずかなタイル、温かな湯の波に月ゆれる。
さざなみ金色かすかな影に仰いだ頭上、天井きりとる夜に黄金うかぶ。
「きれいだ、」
満月まだ欠ける、だからこそ惹かれる。
まだ満たない、そんな自分の想いに英二は哂った。
「…なにやってんだろ、俺?」
満たされない恋、この自分にそれが起きている?
こんなこと信じられない、だから、
―片想い、って…初めてだよな?
見つめれば手に入る、それが日常だった。
けれど今は違う日常がある、その原因が育まれた風呂に浸かる。
―広いよな、みんな昔ってこんなもんか?
想い仰ぐ天井、湯適ふっと降りてくる。
高い壁なめらかなタイルのカーブ、やわらかな白に経年が安らぐ。
戦前より前から建つのだろう、その年月だけ清らかな湯気はるか窓が高い。
―こんな風呂に湯原、ずっと浸かって育ったんだな…そっか、
天井に仰ぐ窓、月ふわり湯気に光る。
真昼なら青空きっと美しい、星ふる夜もあるだろう。
ひとりじめ空も湯も清々しい、こんな風呂に慣れた瞳には寮の浴場どう見えるだろう?
―男だらけ詰めこむ感じだもんな、警察学校どこもさ?
警察学校の教場は女性もいる、でも少ない。
それだけ体力から厳しい現実がある職業、だから自分をそこへ放り込んだ。
だからこそ不思議になる、なぜ君が警察官にならなくてはいけないのだろう?
「なんか…似合わないんだよな、」
想い声こぼれて感深まる、疑問あらためて穿ちだす。
この家に、この家族に、とりかこむ庭も何もかも君らしくて、だからこそ、
―なんで湯原の父さんが警察官になったんだ?
書斎の写真おだやかな微笑、あれは警察官の貌だろうか?
『父は殉職したんだ』
あの言葉が似合わない、それが理由の君はもっと似合わない。
だからこそ疑問ふかく抉られる、なぜ「理由」は生まれた?
―警察官より学者だよな、あの貌も書斎も、
分厚い美しい本ならぶ部屋、ダークブラウン穏やかな書斎机。
本も机も丁寧に使いこまれた艶が光っていた、そんな場所と「警察官」が反発する。
―湯原の父さん、どんな経歴の人なんだろ?
調べれば解るかもしれない、この家に痕跡なにかある?
そんなこと考えかけた掌ひとすくい、澄んだ湯ばしゃり顔かぶった。
「あっつ…」
温かな湯が肌から覚ます、脳髄ゆるく和ませる。
ため息そっと湯気ふかく香って、濡れた髪ひとつ振った。
―なに考えてるんだよ俺、他人の家に興味持ちすぎだろ?
同期の家に泊めてもらう、それだけでも自分にはイレギュラーだ。
そこから「家族」にまで踏みこもうとする、そんな自分に笑った。
「変だな、俺?」
変だ、こんな自分は。
こんな自分に何が変えてゆくのだろう?
こんな答え本当は解っている、唯ひとり君だ。
―なんで俺、こんなに湯原にこだわるんだろ…男で同期なのに?
こだわっている、だから否定の理由つけたい。
そんなこと自体いつもと違う、理由を探したがるほど執着したくて。
※校正中
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