萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

secret talk79 安穏act.16 ―dead of night

2018-04-07 23:34:12 | dead of night 陽はまた昇る
安穏の窓で、
英二23歳side story追伸@第6話 木洩日


secret talk79 安穏act.16 ―dead of night

家、それだけで違う。
どうして?

「…」

いつもの無口がクロゼット開く。
小柄なワイシャツが背を向ける、すこし小さな指が衿もとボタン外す。
あわい衣擦れベルト抜かれる、スラックスのウエスト露わに細い。

きっと次、すこし小さな指がファスナーにふれる。

「湯原、トイレ借りるな?」

笑いかけて眼を逸らして、扉を開いて廊下きらめく。
ダークブラウン濃やかな床ふんで、かたん、背に扉を閉じて息つける。

「…っ」

喉が唾を呑む、こんな自分は浅ましい?
そんな自責ごと呑みくだした願い歩いて階段、座りこんだ。

「…あぶなかった、俺、」

ひとりごと零れて3秒前、見てしまった本音うずく。
君の着替えを見てしまったから?

―警察学校でいつも見てるだろ俺、なんで今こんな?

警察学校の寮生活、風呂場で更衣室でいつも見ている。
でも二人きり着替えするなんてことは無かった。

「…無防備すぎるだろ、」

つぶやいて鼓動そっと息をつく、ため息ふかく痛い。
だってこんなの滑稽だ?

―男同士だから湯原も脱ぐんだ、普通に…男同士だから気にしない、

ただ「普通」に、それだけ。
それだけが自分はもうできない、もう「普通じゃない」のは自分だ?

「バカだな…俺、」

声ひそやかに階段あわく響く。
誰も聞いてなんかいない、けれど声の唇そっと薫る。
ほろ苦い深い、おだやかで密やかな香くすぶって甘い。

―書斎の匂いだ…古い紙と本と、花の匂い、

さっき立入った香くすぶる、ほろ苦くて深い甘い。
この匂い好きだ、でも今はファスナーの自責ずきり疼かせる。

“憧れたくなる雰囲気だな”

そう感じた写真の香が疼かせる、浅ましい本音を絞め殺す。
あの写真の微笑なにを自分に想うだろう?
君の肌を見つめたがる、そんな自分を。

※校正中
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