萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

設定閑話:奥多摩の懐

2012-11-10 22:11:44 | 解説:背景設定
ふるさとの山、



設定閑話:奥多摩の懐

連載中の「side story」達のメイン舞台は奥多摩です。
この奥多摩についての描写と設定は実在モデルが90%以上です。

まず、奥多摩の四季。
春の山桜と藤の花、夏の青葉と雷雨、錦秋の紅葉たち、冬は雪の冷厳と美。
めぐる季節たちの描写は現実に沿って描いています、紅葉スポットや積雪量も実際のデータ出典です。

そして、青梅市御岳町について。
ここが宮田と国村が勤務する町ですが、ここは武蔵御嶽神社を氏神とする土地でもあります。
この神社への奉納剣道大会が第45話「藤翠」に出てきますが、これも実際に開催されています。
作中にある出場規定もリアルと同じで、関東の剣道会が多く出場する盛んな大会です。
御岳の剣道会も本当にあり、この奉納大会にも出場しています。



御岳駐在所は「設定閑話:リアルとの相違」で書いたよう実在との相違ありです。
鉄筋コンクリート2階建ての所を、ドラマ最終話にあった木造建築として描いています。
その周辺もリアルは青梅線土手を前に背後は御岳渓谷ですが、ドラマ準拠で前は田園の後ろは森です。
ただし御岳駅に近く青梅街道沿いと謂う所は同じにしてあります、ここは通勤や出動の利便に関わる点なので。

また、美代はJA西東京に勤務していますが、奥多摩や御岳の産物について彼女は話しています。
作中の既出は、蕎麦・梅・柚子・川海苔・黍、日本酒。これらは実際に奥多摩の名産物です。
兼業農家である国村は蕎麦と梅がメイン、美代の家は柚子が主。この設定も現場から考えました。



卒配編の第19~21話、国村が御岳町内の柿を青年団で収穫し干し柿にするエピソード。
まだ熟しきる前に青年団がメインになって有志を募り、柿の木の所有者に代わり収穫をします。
それを干柿に作り、町の方達や柿もぎの参加者達へと配ったり、土産物などにするという取組です。
これは実際に取り組んでいることで、奥多摩に生息するツキノワグマ保護活動の一環でもあります。

熊の大好物は甘味、果物でも特に甘い熟柿は奥多摩の熊たちにとってご馳走。
けれど柿は人里の庭や畑に植えられています、これを熊が食べるために通えば人間と遭遇してしまう。
元々、熊は臆病で慎重な性格です。この性格のために人間との遭遇に驚いてパニックを起こしてしまう。
このパニックの結果、熊が人を襲う結果になります。こうした人間と熊の不幸な遭遇を回避するため、柿もぎは実施されます。
もしも熊が柿の味を憶えてしまった場合。その熊は狙撃され死ぬことになります、一度味を覚えた熊は何度も柿をとりに里へ通うからです。
そうした現実のために地元猟友会は柿を知った熊を射殺せねばならず、クマ撃ちの術が必要とされています。
このことを第35話「閃光」湯原の回想シーンで国村は語っています。

 ここ奥多摩ではクマと人間は共存しなくてはいけない。
 この山懐でテリトリーを作り住み分けをしているよ、で、どちらも安心して生活しなくっちゃいけない。
 その為には互いのテリトリーを守る必要がある。だから俺たち人間はね、クマに会ったら見つからないようにするよ。
 けれど『柿』を覚えたクマはね、何度もテリトリー違反をして里に現れる。だから、このペナルティは狙撃しかないんだ。

 人とクマが突然に出遭ったら、お互いに傷つけあう瞬間になる…驚いたクマは攻撃しやすいんだ、
 だから俺たちは猟銃を持って武装する、祖先からの土地と家族を守る為に。
 だから里へ降りるクマは俺たちクマ撃ちと『遭遇』する。その瞬間はね、クマにとって即死の瞬間にしないといけない。
 たった一度の狙撃ミスでも半矢になれば、クマは命懸けで反撃に出てくる。それは猟師にとって『死』だ。
 罪なきクマに殺人を犯させることになる、その場を逃げてもクマだって助からない。
 だからね、クマにとって柿は、禁断の果実ともいえる。

 だから青年団で毎年ちょっと早めに柿もぎしてね、干柿にするんだ。クマが食べないように。
 それでも味を知っているクマは里に来る、そして人に危害を与えてしまう。そうなるから味を知ったクマは逃がしてやれない。
 もし『遭遇』したら殺すしかない、出来るだけ苦しみ少ないように。だから猟師にはね、俺たちには『半矢』は絶対に許されない。
 標的は現れた瞬間に正中を狙撃する、これが鉄則で山の掟だよ。
 瞬間の狙撃による即死。それがね、クマの尊厳を守る。そして俺たちの生命と家族を守る。

こうした山で生きる峻厳さは、ツキノワグマの他にも鹿による山林破壊の現状にも見られます。
第57話「共鳴」湯原と美代のフィールドワーク@丹沢山で触れましたが、猟師の減少から増えすぎた鹿が山林を食い荒らす現状です。
そして鹿の山林への害は食害のみならず、鹿の蹄にある穴で異動する山蛭がブナハバチの食餌になることが多大な問題となります。
ヤマビル増加にともない捕食するブナハバチの成虫が増加繁殖し、その幼虫が大発生してブナを食べつくし丹沢のブナ林を枯死させる。
そういう推論をされている研究データがあり、これは奥多摩にとっても同じ危険をはらんで水源林保持の問題に繋がります。
そのため鹿猟も奥多摩では定期的に行われており、このことを第56話「潮流1」有害動物駆除のエピソードに描きました。
作中にある流れ弾に中った登山者の事故は、日本の山間部で実際に起きてしまった遭難事例です。

また読まれていて、山ヤさんが多く住む印象を受けると思いますが、これも奥多摩の現状です。
世界最強のクライマーと言われた方が実際、今も奥多摩に在住されて御岳渓谷等でトレーニングされています。
この方もトレーニング日課のジョニングをされているとき、道端で遭遇した熊に襲われた事がありました。
いま秋で、クマたちは冬眠前の補食期間です。山に行かれる時は熊鈴など対策をして下さいね。









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