辛辣にも耀く、
目が覚めたのは、君だから。
「ヤッカミってやつだろ、そーゆーのはさ?」
暁闇をバリトン徹る、耳朶を撃つ。
テント踏み出した足もと闇沈む、それでも明ける明星が稜線を笑う。
「オマエが教授の息子だからナンだってんだよ、ソモソモだ、楡原先生がエコヒイキなんざすると思ってんのか?どーだよ馨?」
大らかなバリトンに金星まばゆい、零れる銀色そっと沁みてくる。
さくり、登山靴の底くずれる響きは霜柱。もう冬兆す闇に微笑んだ。
「ん、思えない…あの父だから、」
「だろ?あの先生が学問を裏切るなんざするもんか、甘っちょろい妥協ヤロウにゃアノ時代で留学はできねえ、」
バリトン徹って闇が響く、その先はるか明星が燈る。
ほら嶺風かすめて香りだす、ほろ甘い渋い、清かな大気が頬なぶって笑う。
「楡原先生はボンクラに点くれるようなエセ学者じゃねえよ、人にも学問にも不器用すぎるくらい誠実なホンモノだ。そーゆートコ馨もあるだろ?」
父を讃えて君が笑う、ヘッドライトの下で鳶色の瞳きらめく。
どこまでも耀るい眼差しに笑った。
「ありがとう紀之…その、ぼんくらって誰かイメージして言ってる?」
「おっ、馨もケッコウ毒舌だ?」
低いクセ朗らかな声からり響く、めぐらす谺に雲海が光る。
もうじき夜が明けるだろう、予兆と隣に微笑んだ。
「紀之からうつったかも?」
うつる、それくらい共に歩いた時間。
その新たな瞬間また踏む尾根、ザイルパートナー兼学友が答えた。
「パーソナリティの伝染または環境に育つ後天性か、まあ馨は天賦の素質だろ?」
「素質あったにしても、目覚めさせたのは紀之だよ?」
言い返して笑いたくなる、だって本当に「目覚めさせた」のは君だ。
『だって有名な学者の息子だろ、』
ずっと言われ続けてきた、何度も何度も。
そうして硬くなって、けれど笑っている今をバリトンも笑った。
「目覚めさせたって、最初から馨ずっと俺にはコンナだろが?」
ほら笑ってくれる、明朗このトーン。
このトーンに自分どこか自由になってしまう、そのままに山の大気はらんで笑った。
「父はね、大学に入って田嶋君といるようになって変わったって言うよ?」
「あー、楡原先生が仰るならそうなのかあ?」
バリトンが笑う、低いクセ朗らかに徹って弾む。
この声ずっと先も聴けたらいい、想い見つめる稜線に一閃はしった。
「夜が明けるぞ、馨、」
紺青ひろやかな天穹の涯きらめく、青から紫うまれて朱が燃える。
頬ひるがえる冴えた風、凍てつく呼気ふっと白く朝が光った。
「夜明けだね、紀之、」
星々の光芒おおらかに瞬く、暁闇ふかく朱い山嶺が目覚める。
耀くモルゲンロート、僕の朝だ。
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10月12日誕生花トウガラシ唐辛子
大月十二日、唐辛子―Morgenrot
目が覚めたのは、君だから。
「ヤッカミってやつだろ、そーゆーのはさ?」
暁闇をバリトン徹る、耳朶を撃つ。
テント踏み出した足もと闇沈む、それでも明ける明星が稜線を笑う。
「オマエが教授の息子だからナンだってんだよ、ソモソモだ、楡原先生がエコヒイキなんざすると思ってんのか?どーだよ馨?」
大らかなバリトンに金星まばゆい、零れる銀色そっと沁みてくる。
さくり、登山靴の底くずれる響きは霜柱。もう冬兆す闇に微笑んだ。
「ん、思えない…あの父だから、」
「だろ?あの先生が学問を裏切るなんざするもんか、甘っちょろい妥協ヤロウにゃアノ時代で留学はできねえ、」
バリトン徹って闇が響く、その先はるか明星が燈る。
ほら嶺風かすめて香りだす、ほろ甘い渋い、清かな大気が頬なぶって笑う。
「楡原先生はボンクラに点くれるようなエセ学者じゃねえよ、人にも学問にも不器用すぎるくらい誠実なホンモノだ。そーゆートコ馨もあるだろ?」
父を讃えて君が笑う、ヘッドライトの下で鳶色の瞳きらめく。
どこまでも耀るい眼差しに笑った。
「ありがとう紀之…その、ぼんくらって誰かイメージして言ってる?」
「おっ、馨もケッコウ毒舌だ?」
低いクセ朗らかな声からり響く、めぐらす谺に雲海が光る。
もうじき夜が明けるだろう、予兆と隣に微笑んだ。
「紀之からうつったかも?」
うつる、それくらい共に歩いた時間。
その新たな瞬間また踏む尾根、ザイルパートナー兼学友が答えた。
「パーソナリティの伝染または環境に育つ後天性か、まあ馨は天賦の素質だろ?」
「素質あったにしても、目覚めさせたのは紀之だよ?」
言い返して笑いたくなる、だって本当に「目覚めさせた」のは君だ。
『だって有名な学者の息子だろ、』
ずっと言われ続けてきた、何度も何度も。
そうして硬くなって、けれど笑っている今をバリトンも笑った。
「目覚めさせたって、最初から馨ずっと俺にはコンナだろが?」
ほら笑ってくれる、明朗このトーン。
このトーンに自分どこか自由になってしまう、そのままに山の大気はらんで笑った。
「父はね、大学に入って田嶋君といるようになって変わったって言うよ?」
「あー、楡原先生が仰るならそうなのかあ?」
バリトンが笑う、低いクセ朗らかに徹って弾む。
この声ずっと先も聴けたらいい、想い見つめる稜線に一閃はしった。
「夜が明けるぞ、馨、」
紺青ひろやかな天穹の涯きらめく、青から紫うまれて朱が燃える。
頬ひるがえる冴えた風、凍てつく呼気ふっと白く朝が光った。
「夜明けだね、紀之、」
星々の光芒おおらかに瞬く、暁闇ふかく朱い山嶺が目覚める。
耀くモルゲンロート、僕の朝だ。
唐辛子:トウガラシ、花言葉「旧友、辛辣、嫉妬、雅味、生命力、悪夢がさめた」/Morgenrot :モルゲンロート、朝焼けに赤く染まった山
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