遺されても歓びは、
秋枯れて、けれど一輪の色。
「まあ…きれい、」
微笑んだ足もと、枯草ひそやかに蕾ふく。
薄紫やわらかな色燈る、この花を愛したひとの名残りだ。
「もう薬の研究には摘まないわね、あなた…」
つぶやいた言葉そっと鼓動を燈す、なつかしい匂い頬ふれる。
かすかな甘い乾いた風、すこし冷たくて指すこし凍えて、それなのに愛しいのは空気のせいだ。
『この花はめしべが痛みどめになるんだ、料理にも使えるから君にもいい花じゃないかな、』
ほら声なつかしい、この花に佇んだ夫の声。
あなたと重ねた時間だけ、この庭たたずんで離れられない。
「あんなに研究してたのに自分のことは…ねえ、あなた?」
語りかけて呼びかけて、時の気配が香る。
幾年、幾十年、あなたと佇んだ庭ひそやかに今はひとり。
「まだ早すぎたと思わない?人生100年なんて言ってたのに…あなた、」
なつかしい呼び名ひとつ、消えてしまった時間を薫らせる。
あんなこと言っていたくせに逝ってしまったひと、そのくせ私のことは残して。
「…共白髪になろうなんて言ったくせに、私だけ真白にするのね?」
約束そっと声にして、ほろ甘い冷たい風そっと唇かすめる。
あんなに薬作っていたくせに、私を健康にしたくせに、そうして約束を破るなんて?
「ねえ、ことしも…いっしょに見たかったわ、」
ほら想い零れおちていく、つまさき燈る蕾ゆらす。
もう戻せない還らない想い見つめる背、呼ばれた。
「おばあちゃん、」
ああ、私の呼び名だ?
もどされて呼吸そっと吐く、ほら、傷みそっと鎮まらす。
もう過ぎ去った時から涯の今、ちいさな笑顔に振りむいた。
「はい、なあに?」
「あのね、お花きれいね。どんなお花なのかな?」
澄んだ声ころころ笑ってくれる、その言葉に鼓動ゆらす。
まだ幼い声、幼い笑顔、それでも遠い近いひとの名残り見つめて。
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11月4日誕生花サフラン咱夫藍
霜月四日、咱夫藍―modest
秋枯れて、けれど一輪の色。
「まあ…きれい、」
微笑んだ足もと、枯草ひそやかに蕾ふく。
薄紫やわらかな色燈る、この花を愛したひとの名残りだ。
「もう薬の研究には摘まないわね、あなた…」
つぶやいた言葉そっと鼓動を燈す、なつかしい匂い頬ふれる。
かすかな甘い乾いた風、すこし冷たくて指すこし凍えて、それなのに愛しいのは空気のせいだ。
『この花はめしべが痛みどめになるんだ、料理にも使えるから君にもいい花じゃないかな、』
ほら声なつかしい、この花に佇んだ夫の声。
あなたと重ねた時間だけ、この庭たたずんで離れられない。
「あんなに研究してたのに自分のことは…ねえ、あなた?」
語りかけて呼びかけて、時の気配が香る。
幾年、幾十年、あなたと佇んだ庭ひそやかに今はひとり。
「まだ早すぎたと思わない?人生100年なんて言ってたのに…あなた、」
なつかしい呼び名ひとつ、消えてしまった時間を薫らせる。
あんなこと言っていたくせに逝ってしまったひと、そのくせ私のことは残して。
「…共白髪になろうなんて言ったくせに、私だけ真白にするのね?」
約束そっと声にして、ほろ甘い冷たい風そっと唇かすめる。
あんなに薬作っていたくせに、私を健康にしたくせに、そうして約束を破るなんて?
「ねえ、ことしも…いっしょに見たかったわ、」
ほら想い零れおちていく、つまさき燈る蕾ゆらす。
もう戻せない還らない想い見つめる背、呼ばれた。
「おばあちゃん、」
ああ、私の呼び名だ?
もどされて呼吸そっと吐く、ほら、傷みそっと鎮まらす。
もう過ぎ去った時から涯の今、ちいさな笑顔に振りむいた。
「はい、なあに?」
「あのね、お花きれいね。どんなお花なのかな?」
澄んだ声ころころ笑ってくれる、その言葉に鼓動ゆらす。
まだ幼い声、幼い笑顔、それでも遠い近いひとの名残り見つめて。
咱夫藍:サフラン、花言葉「歓喜・歓び、陽気・愉快・歓楽、濫用するな・節度ある態度、残された楽しみ、控えめな美、過度を慎め」
料理の色づけや生薬としても用いられる「サフラン」は本種の柱頭、鎮静・鎮痛・通経などの作用がある
料理の色づけや生薬としても用いられる「サフラン」は本種の柱頭、鎮静・鎮痛・通経などの作用がある
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