天恵に温もりを、
陽が斜めになった、そして眩い。
ようやく明ける6時の朝、光の庭に微笑んだ。
「…いい朝、」
声ひとり、吐息かすかに白い。
芝草きらめく露まだ濡れる、じき霜が降るのだろう。
佇んだ下駄のつまさき掠める冷気、閑寂が謳いだす。
The day is come when I again repose
Here, under this dark sycamore, and view
These plots of cottage-ground, these orchard-tufts,
Which at this season, with their unripe fruits,
Are clad in one green hue, and lose themselves
‘Mid groves and copses.
記憶なぞらす一節たち、その聲は誰の声?
なつかしい、慕わしい、あの聲はるか響きだす。
『イギリスの詩だよ、父が好きだったんだ…母も、』
ほら、祖父のこと祖母のこと語ってくれる。
あのとき微笑んでいた瞳はもういない、けれど面影どこにも見つけられる。
「最近ね、似てるって言われるんだよ?…お父さん、」
呼びかけて声、ただ庭木立きらきら光る。
それでも懐かしい声、だって似てきた自覚がある。
「…お母さん似って言われていたのにね、僕、声が似てるって…田嶋先生が言うんだ、」
父の旧友の名に微笑んで、慕わしい響き耳朶をゆく。
この声に生きていた証を見つめながら、ふたり歩いた庭へ下駄を鳴らす。
「The day is come when I again repose…」
からりころり、父が愛した下駄に朝が響く。
白い息ゆらす木洩陽に花ゆれる、熟れた果実きらめいて詩をなぞる。
「…Which at this season, with their unripe fruits,」
謳う声、聲、面影たどらす下駄の音。
めぐらす想い眺める庭、朱色きらめく記憶の光。
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11月18日誕生花ノイバラ野茨
霜月八日、野茨―gift
陽が斜めになった、そして眩い。
ようやく明ける6時の朝、光の庭に微笑んだ。
「…いい朝、」
声ひとり、吐息かすかに白い。
芝草きらめく露まだ濡れる、じき霜が降るのだろう。
佇んだ下駄のつまさき掠める冷気、閑寂が謳いだす。
The day is come when I again repose
Here, under this dark sycamore, and view
These plots of cottage-ground, these orchard-tufts,
Which at this season, with their unripe fruits,
Are clad in one green hue, and lose themselves
‘Mid groves and copses.
記憶なぞらす一節たち、その聲は誰の声?
なつかしい、慕わしい、あの聲はるか響きだす。
『イギリスの詩だよ、父が好きだったんだ…母も、』
ほら、祖父のこと祖母のこと語ってくれる。
あのとき微笑んでいた瞳はもういない、けれど面影どこにも見つけられる。
「最近ね、似てるって言われるんだよ?…お父さん、」
呼びかけて声、ただ庭木立きらきら光る。
それでも懐かしい声、だって似てきた自覚がある。
「…お母さん似って言われていたのにね、僕、声が似てるって…田嶋先生が言うんだ、」
父の旧友の名に微笑んで、慕わしい響き耳朶をゆく。
この声に生きていた証を見つめながら、ふたり歩いた庭へ下駄を鳴らす。
「The day is come when I again repose…」
からりころり、父が愛した下駄に朝が響く。
白い息ゆらす木洩陽に花ゆれる、熟れた果実きらめいて詩をなぞる。
「…Which at this season, with their unripe fruits,」
謳う声、聲、面影たどらす下駄の音。
めぐらす想い眺める庭、朱色きらめく記憶の光。
【引用詩文:William Wordsworth「Lines Compose a Few Miles above Tintern Abbey」】
野茨:のいばら、花言葉「才能、詩、厳しさ、素朴な愛、優しい心、孤独、痛手からの回復、無意識の美、素朴な可愛らしさ」実の花言葉「無意識の美、才能、詩、孤独、痛手からの回復」
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