山海楽土、君となら
長月朔日、天蓋百合―savage Elysium
ありのままでいい、のは幸せだ。
「ふぁ…ぁーあ、」
腕伸ばして背骨が伸びる、あくび深く息を吐く。
ほろ甘い香やわらかに肺満ちて、頬なぶる風そっと涼しい。
「…秋になるなあ、」
唇に季節ふれる、こんな言葉ずっと久しぶりだ。
こんな言葉、風、匂い、温度、懐かしくて慕わしくて、ずっと帰りたかった。
「帰って来たんだ…ほんとに、」
ひとり声こぼれて空が眩しい。
はるか青い高い空、透ける風きらめいて草木が光る。
光る緑きららかな雫たち、朝露やわらかな故郷に呼ばれた。
「おーまえ、やあーっと起きたな?」
低いくせ明るい声が笑ってくれる。
昔馴染みの声ほがらかで、なにか嬉しくて振り向いた。
「おはよ、もしかして漁に行ってきた?」
「もしかしなくても行ってきたさ、本職だぞー?」
日焼け顔ほころばす口もと、歯が皓い。
すこやかな幼馴染に嬉しくて、そんな自分に笑った。
「いいな、そういうの、」
「いいだろー?」
肯いて笑って、Tシャツ姿から潮が薫る。
ほろ甘い辛い、懐かしい香からり言ってくれた。
「午後になったら海また出んぞ、おまえも行くか?」
「うんっ、行きたい、」
即答うなずいて、こんな自分に可笑しい。
こんなにも「行くか?」が嬉しいのは、故郷を離れて初めてだ。
『あなたを嫌いな人なんていないでしょう?こんなにいい子、みんなに好かれて居られるなんて贅沢よ、』
そんなふう言われるたび「行きたくない」本音が澱みこんだ。
どうして「居られるなんて」が「贅沢」だと言われたのだろう?
『嫌いな人なんていないですよ、こんなにイイやつですから、』
そんなふう言われるたび「いいやつ」のフリただ巧くなった。
そうして外せなくなった仮面に息止められて、何も誰にも言いたくなくなった。
そうして沈みこんだ孤独の底、いきなり連れ帰ってくれた瞳が覗きこんだ。
「どしたあー黙りこんで?もしかして熱あんのか?」
底抜けに明るい瞳が自分を映して、節くれた手そっと額ふれてくれる。
ふれる肌荒く分厚くて、その温もりに笑った。
「おまえの手のが熱いよ、ぼーっとしただけだから平気、」
「そかー?」
掌あつく額くるんで、明るい眼まっすぐ見つめてくれる。
肚底から明るい、そんな眼差しに息が楽だ。
「なんだー?なーに笑ってんだよーおまえ、」
ほら?明るい眼が笑いかけてくれる。
まっすぐ裏表ない視線は健やかで、素のままに笑った。
「なんか笑っちゃうんだ、おまえだと楽だなあって?」
楽だ、この幼馴染といる時間が。
まっすぐ肚底から明るい眼、飾り気どこにもない。
いつも素顔のまま生きている、そんな空気の真中が笑った。
「俺もだぞー?おまえだと楽、」
からり呑気に笑ってくれる。
昔から変わらない笑顔で、そのまま素直に微笑んだ。
「そっか…ほっとした、」
ほっとした、こんなふう今も変わらなくて。
昔のまま風ほろ甘い辛い、海香る丘の空。
※加筆校正中
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9月1日誕生花オニユリ(別名:天蓋百合)
長月朔日、天蓋百合―savage Elysium
ありのままでいい、のは幸せだ。
「ふぁ…ぁーあ、」
腕伸ばして背骨が伸びる、あくび深く息を吐く。
ほろ甘い香やわらかに肺満ちて、頬なぶる風そっと涼しい。
「…秋になるなあ、」
唇に季節ふれる、こんな言葉ずっと久しぶりだ。
こんな言葉、風、匂い、温度、懐かしくて慕わしくて、ずっと帰りたかった。
「帰って来たんだ…ほんとに、」
ひとり声こぼれて空が眩しい。
はるか青い高い空、透ける風きらめいて草木が光る。
光る緑きららかな雫たち、朝露やわらかな故郷に呼ばれた。
「おーまえ、やあーっと起きたな?」
低いくせ明るい声が笑ってくれる。
昔馴染みの声ほがらかで、なにか嬉しくて振り向いた。
「おはよ、もしかして漁に行ってきた?」
「もしかしなくても行ってきたさ、本職だぞー?」
日焼け顔ほころばす口もと、歯が皓い。
すこやかな幼馴染に嬉しくて、そんな自分に笑った。
「いいな、そういうの、」
「いいだろー?」
肯いて笑って、Tシャツ姿から潮が薫る。
ほろ甘い辛い、懐かしい香からり言ってくれた。
「午後になったら海また出んぞ、おまえも行くか?」
「うんっ、行きたい、」
即答うなずいて、こんな自分に可笑しい。
こんなにも「行くか?」が嬉しいのは、故郷を離れて初めてだ。
『あなたを嫌いな人なんていないでしょう?こんなにいい子、みんなに好かれて居られるなんて贅沢よ、』
そんなふう言われるたび「行きたくない」本音が澱みこんだ。
どうして「居られるなんて」が「贅沢」だと言われたのだろう?
『嫌いな人なんていないですよ、こんなにイイやつですから、』
そんなふう言われるたび「いいやつ」のフリただ巧くなった。
そうして外せなくなった仮面に息止められて、何も誰にも言いたくなくなった。
そうして沈みこんだ孤独の底、いきなり連れ帰ってくれた瞳が覗きこんだ。
「どしたあー黙りこんで?もしかして熱あんのか?」
底抜けに明るい瞳が自分を映して、節くれた手そっと額ふれてくれる。
ふれる肌荒く分厚くて、その温もりに笑った。
「おまえの手のが熱いよ、ぼーっとしただけだから平気、」
「そかー?」
掌あつく額くるんで、明るい眼まっすぐ見つめてくれる。
肚底から明るい、そんな眼差しに息が楽だ。
「なんだー?なーに笑ってんだよーおまえ、」
ほら?明るい眼が笑いかけてくれる。
まっすぐ裏表ない視線は健やかで、素のままに笑った。
「なんか笑っちゃうんだ、おまえだと楽だなあって?」
楽だ、この幼馴染といる時間が。
まっすぐ肚底から明るい眼、飾り気どこにもない。
いつも素顔のまま生きている、そんな空気の真中が笑った。
「俺もだぞー?おまえだと楽、」
からり呑気に笑ってくれる。
昔から変わらない笑顔で、そのまま素直に微笑んだ。
「そっか…ほっとした、」
ほっとした、こんなふう今も変わらなくて。
昔のまま風ほろ甘い辛い、海香る丘の空。
※加筆校正中
鬼百合:オニユリ、別名「天蓋百合」花言葉「純潔、飾らぬ美」「賢者」「富と誇り・富の蓄積」「軽率、侮蔑・嫌悪」「荘厳、華麗、陽気・愉快」
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