愛、麗しくみちる夢

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『少女』  みち?

2005-09-13 22:58:55 | 創作・その他CP
たいてい、こういう経験をしても名前なんて覚えてないよね、普通。


「みちるちゃん」
その子は、名前を呼ぶと手を握ってきた。
「ねぇ、みちるちゃん。あのね、明日の朝になったら散歩してみない?」
「散歩?」
「みちるちゃんは、このあたりのこと知っているの?」
シングルベッドで2人は、誰もいないのにヒソヒソと声を小さくしている。大人には大きな声で言えない秘密。秘密を持つというのはなんだか、子供から少しだけ大人の階段を上った気分になる。
「うん、毎年来ているから」
「じゃぁ、いっぱい教えて」
「いいわ」
「約束ね」
彼女は握っていた手を小指に変えた。みちるはそれに答えた。


2人は一緒に、めったに車の通らない道を歩き始めた。みちるは、とっておきの秘密の場所に、その子を案内した。手を繋いで歩くこと20分。途中、道路わきから、山の中に入る。石に足を引っかけて、二人一緒に転びそうになった。それでも、手は離れなかった。
「ここからね、海が見えるのよ」
近道して、2人は誰もいない高台にたどり着いた。その子はみちるの指差した先を見て、凄くはしゃぎまわる。
「わー!本当だ!綺麗だね。東京の海とは、少し違うね」
「うん。秘密の海なのよ」
興奮しておおはしゃぎのその子を見て、初めはみちるも嬉しかった。それなのに、いつしかそれが嫌になってくる。綺麗な海に、大切な人を独り占めされた気がして。
「ねぇ、もうそろそろ降りない?」
「どうして?」
「他にも、いっぱいあるから。川に連れて行ってあげるから」
「本当?!行く!」
何にでも興味を示すその子は、みちるに手を差し伸べる。ほっとする。みちるはその手を握り締めて、一緒に階段を下りた。

あの夏、別荘の隣に来た家族の中に、同じ位の年の子がいた。何年前だろう。10年位年前だろうか。人見知りするみちるに、少女は何のためらいも無く近付いてきた。そして、お友達になろうと手を差し伸べた。みちるは、別荘に母親と2人できていた。それでも、母親は絵を描くことに夢中で、みちるの相手なんてしてくれない。1週間、みちるはその子が帰るまで、その子の家に入り浸っていた。その子が東京に戻るまで、手を放すものか、一人になるものかと、必死でついていった。それは、もしかしたら恋のような感情だったのかもしれない。


「あ…」
面影が似ている少女が、はるかの隣に立っている。みちるは思わず駆け寄って、名前を呼ぼうとした。


「み…」
「美奈、お待たせ」
ふと、隣から呼ぼうとした名前を先に呼ばれてしまう。その声に反応した少女は、はるかとの話を中断して、こちらを向いた。
「レイちゃん!ねぇ、この人カッコいいでしょ?」
「また・・・何やっているのよ。行くわよ」
黒髪の少女に言われて、その子は素直に頷いた。
「ねぇ、家に行ってもいいでしょ?」
「あんたの好きなお菓子はおいてないわよ」
「やーね、レイちゃんがいればいいのよ」
みちるの目の前を歩いて消えてゆく。仲睦まじく繋がれた手は、あの頃の自分たちよりも強い絆があるように見えて。
彼女との夏のことを想い出したのは、このせいだったのだろうか。背中を見つめているだけで、まるで初めての恋を恋だと気づかずに諦めるような心情になってしまう。
「バカね」
みちるはつぶやいた。ずいぶん遅くに想いに気がついてしまうなんて。10年ぶりにたった一目見ただけなのに。彼女の記憶の中にはおそらく自分なんて存在していないだろうに。
「みちる、どうしたんだよ。ぼーとしちゃって」
「なんでもないわ」
「そう?」
みちるは一呼吸置くと、はるかに向きを変えた。


「ねぇ、名前教えて」
「あのね、美奈子って言うの」
「また会いましょうね」
「うん。また会おうね。バイバイ、みちるちゃん」
「バイバイ、美奈子ちゃん」
車の中から大きく身を乗り出して、手を振って去った少女の髪は、赤いリボンで結ばれていた。まるで天使のような微笑を携えた少女は、みちるのたった一人の友達。想いは胸に秘めたまま。いつか気付いてくれるだろうか。もしかしたら、気付かないほうが面白いのかもしれないけれど。               END


大分前に書いたやつは、友情でしたけれど、ちょっと、恋愛感情入れてみたいなと思っちゃいました。
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