愛、麗しくみちる夢

おだやか
たゆやか

わたしらしく
あるがままに

清らの恋 没シーン

2016-08-02 23:18:19 | 聖グロ日記
書いて、カットして、書き直していたところの一部抜粋になります。


なぜ消したかと言うと
読めばわかると思います。


なお、Boothにて販売しております小説をお読みいただけると、あぁ、あそこのあれか、となります。













 夏の大会が終わり、ダージリンとチャーチルに搭乗することはなくなった。そうなるだろうと言うことはわかっていたし、それは仕方のないことだった。不慣れな装填手席に座り、ルクリリの指示の仕方や砲手の砲撃指導を繰り返す日々。時々無線の先からダージリンの声が聞こえてくるけれど、その声はいつも振り返ればそこにあったのだ。もう、チャーチルに共に乗ることがないのだろうかと思うと、本当に夢の残骸が勝手に粉々になってしまったのだと思い知らされる。ルクリリ達には何の罪もない。懸命に訓練を重ね、未来に待っている勝利に向けて努力していると言うのに、ただただ申し訳ない想いしかなかった。
「アッサム様、お顔の色が悪いです。お休みされた方がいいです」
ダージリンと交互に、マチルダⅡとチャーチルに乗るようになって2週間。ダージリンとまともに会話をしなくなってから、1か月くらいだろうか。夏の大会からはもう、1か月が過ぎていたのだ。1か月間、まだ砕け散っている夢の欠片を、もはや幻を抱いて過ごしているなんて。馬鹿馬鹿しいと思いながら、次の一歩を踏み出す理由を、まだアッサムは持てないでいた。ルクリリたち可愛い後輩のために、指導に打ち込むしかないのだと分かっていても、身体は重たくて、がむしゃらになる後輩たちの額の汗を見つめながら、自分にはもう、その懸命な感情が芽生えては来ないことが、悲しくて仕方がなかった。
「……大丈夫よ」
「ですが………」
 訓練が再開されるようになってから、毎日誰かに顔色が悪いと言われている。ダージリンとはほとんど会話をしなくなったが、それでも、必ず体調が悪いのなら休みなさいと声を掛けられた。それだけが唯一、仕事以外の会話みたいになっていて、何もわかってはもらえないのだと思い知らされて、意地でも訓練に参加していた。視線はいつも心配そうに見つめてきて、本当は何もしないで、あの実家でずっとうずくまって、聖グロに戻りたくなどなかったのだと。言うに言えずに、彼女の視線を避けるだけで精一杯だった。そんな我儘を押し付けて、更に困らせてしまうのは、重荷でしかないだろう。

ずっと、終わった世界をダラダラと生きて、夢の残骸を食べて、うっかり毒が回って死んでしまえたら。そう思っていたのに。どうして、彼女は迎えに来てしまったのだろうか。迎えに来てくれるなら、傍にいて離さないって、嘘でも言ってくれたらよかったのに。無理やりにセックスをしてくれたら、アッサムだって無理やりにでも、離れないでって、手首を縛ってでもその身体に抱き付いて、眠れたのに。

そんな都合のいい話、永遠にあるわけがない。



「全車、縦隊のまま前進」
ぼんやりとルクリリの声を聞きながら、薄暗い密閉空間で身体は揺らされる。雨でも、訓練は中止されることはない。
戦車に当たる雨音と、泥が撥ねる履帯の回る音。ジメジメして息苦しい。
可愛い後輩のルクリリだけれど、アッサムはダージリン以外の車長が指揮を執るチャーチルの中にいることは、ひたすらに居心地が悪いものだった。まだ、マチルダⅡにいる方がずっと想いは割り切れていたのだが、チャーチルの車長席はダージリンのためにあり、その前に座る砲手は自分だけだった。1年の夏の大会が終わるまで、ひたすらアールグレイお姉さまという存在に耐え続け、じっとじっと、ダージリンが車長になることを待ちわびていた。あの頃から、共にチャーチルに搭乗できるのは2年間しかないってわかっていた。それでもいざ、現実になってしまうと、戦車道という道の何もかもの彩まで失ってしまい、アッサムの戦車道は全て、ダージリンのために、ダージリンと同じ車両に乗るためだけに存在していたのだと、骨の髄まで思い知らされた。そのために、いじめに遭っても我慢できたし、何よりもダージリン自身を巻き込み、彼女の清らかな身体を傷つけたのだ。

アッサムの夢を叶えるためだけに。

「アッサム様?」
抱きしめていた砲弾があまりにも重くて、それを両手から手放した。足元に落ちて、半円を描いて止まる。とても、それをもう一度手にする気持ちは持てない。
「アッサム様?どうされました?」
「…………なんでも、ないわ」
「ご気分がすぐれないのですか?」
「…………そうかも、しれないわね」
“気分”ではない。ここにいる理由が見いだせない。ダージリンが傍にいないチャーチルは、ダージリンの声がしない戦車は、アッサムがいたい場所ではないのだ。雨音と激しい履帯の回転音。アッサムは頭上のハッチを開けた。
「アッサム様?!ちょっ……全車緊急停止!!!!」
 別に止めなくてもいいのに。ただ、今はルクリリのチャーチルに、新しい場所に行きたくないだけ。
「アッサム様?!」
ハッチから抜け出した世界は灰色だった。だだっ広くて何もない訓練場。ルクリリが呼び止める声はわかっていたけれど、アッサムはそのままチャーチルから這いずるように降りた。

「アッサム!!!!!!」

熱を感じる車体。その場から逃げたいと校舎のある方向へと向きを変える背中に、ダージリンの声が降ってくる。
「アッサム、何事なの?!」
「………気分が……」
マチルダⅡから飛び降りてきたダージリン。いつだったか、嘔吐して気を失ったときも、そうやって心配して、不安そうに見つめてきていた。いつでもダージリンは、何かがあれば不安そうにアッサムを見つめてきていた。
「吐きそうなの?苦しいの?」
「……………ダージリン」
雨音と排気ガスのかすかな匂い。停止中もずっと、エンジン音は響いている。アッサムはここで何をしているのだろうか。耳を塞いでうずくまろうとすると、ダージリンが腕を引っ張り抱き寄せてくる。ドキドキと心臓の音が耳を刺激してきた。
「ルクリリ、砲撃訓練をやめて、隊列訓練に変更しなさい。あとの指揮は任せたわ。回収車を………いえ、グリーンを呼びなさい」
「は、はい!」
脚の力が抜けて行くのを支えようとしてダージリンは、その背にアッサムを乗せようとしてきて。
「………ダージリン……」
「大丈夫?ここを離れましょう。もう少し我慢してね」

どうしてそんなに優しい声を出すの。
どうして、きつく怒らないの。

頬に当たる結った髪。短かった髪。一度、鋏で断ち切られた髪。

「ダージリン………ダージリン………」
雨のどさくさに紛れて、頬を伝う雫をその髪に押し付けた。この背中に夢の欠片が少しでも残っていればいいのに。防水性の優れた赤いタンクジャケットが雨をはじき、2人の髪や皮膚を濡らしていく。車道に出て、車が近づいてきても、アッサムはダージリンの背中に縋り付いた。大丈夫だからと諭されても、ダージリンの身体から少しも離れたくなくて、車の中でずっとずっとしがみついていた。







 力いっぱい抱き付いてくるアッサムを車から降ろして、そのまま自分の部屋に連れて上がった。顔色は悪いが、意識もある。自分の意志で降りて、まるでその場を去ろうとしている様子だった。
毎日のアッサムの様子は、逐一ルクリリや、他のマチルダⅡの車長から報告をもらっていたが、ずっと顔色が悪く、言葉数も少なく、虚ろな瞳だったと言う。毎日、乗らないでも構わないと、無理をせずに休んでもいいと伝えていたが、後輩のために無理を押し通したのだろう。撥水加工をしている服は問題ないが、髪や頬が濡れている。ダージリンはお風呂のお湯を低めに設定して沸かした。
「アッサム、身体はどう?どこか痛い?」
「…………ダージリン」
「どうしたの?」
「……………ダージリン」
ここ最近はずっと、まともに目を合わせることすらしてくれなかった。会話でさえ、一言二言しか交わさなかった。ミーティングも、意見を何も言おうとせずに押し黙ってばかりだった。
ダージリンが散々傷つけてきて、もう疲れ切ってしまったわけじゃないのだろうか。どうして、乞うように名前を呼んでくれるのだろう。

こんな、アッサムを傷つけて汚すことしかできないダージリンの名前を呼ぶのだろう。

「………ダージリン」
「風邪を引いてしまうわ。お風呂に入りましょう」
「………傍にいてください」
「えぇ」
湿り気を帯びた髪を撫でて、そっとタンクジャケットを脱がした。弱弱しく呟くその言葉を、過去に何度も聞いた。セックスの後、指に残る感触を舌で味わいながら、その触れる足の間、アッサムは5分でいいから傍にいてと、1年生の頃はよく言っていた。ダージリンは傍にいて、キスをするかもしれないと冗談のように笑って応えて、それは嫌ですと言う言葉を受けてばかりだった。だからすぐ、その場を離れた。嫌がることはしない。でも、離れないで欲しいと言う願いは叶えられない。矛盾していることはわかっていたけれど、それでもその唇を…キスをしたい衝動を抑える自信がなかった。それはただの我儘でしかなかった。
小さく震わせる、その身体を抱きしめる。とにかく身体を温めてと伝えても動こうとしてくれないので、ダージリンもタンクジャケットを脱ぎ、アッサムの手を引いて彼女の髪にお湯を通した。頬に少し色が戻って来て、何とか自分ですべてを終わらせてくれるのを待って、ダージリンも髪を解いて髪を洗った。散々セックスをしたけれど、部屋で一緒にお風呂に入ることなんて一度もなかった。身体を見るのはどれくらい久しぶりだろう。最後にセックスをしたのは、アッサムがして欲しいと、服を脱いでダージリンの手を取り胸に押し当てた日だ。あの夜、一晩傍にいてあげたら。


 何度繰り返し後悔しても、もう、過去は消せない。
後悔する“あの時”と言うものがあまりにも多すぎて、もうどうすることもできないのだ。


「身体はどこも、痛くないわね?」
「………はい」
「どうしたの?チャーチルの中で何があったの?」
何かを否定するように首は左右に振られる。ルクリリも驚いたように突然声を上げていたから、何か喧嘩やトラブルがあったと言う様子ではなさそうだ。どうしてもあの時に、チャーチルを降りたいという気持ちを我慢できなかったのだろう。何がそうさせたのか。それがわからない限り、明日からの訓練にアッサムを参加させられない。
「しばらく、訓練は休みなさい」
「………はい」
「もう、嫌なの?」
薔薇の香りのする入浴剤は、薄く紅色にお湯を染めている。その裸体にはもうダージリンが毎日のように刻み付けた証は一つも残っていない。アッサムは、ダージリンから解放されて、普通の日々を過ごしているはずではないのだろうか。ダージリンという汚れた存在から解放して、アッサムを少しでも楽にさせたくて、傍を離れたはずなのに。ずっとずっと、元気な様子を見せてくれない。返って疲れさせる気がして、1年生には、あまり部屋に行くなとも伝えてあった。とにかく無理をさせないように、この2週間見守ってきた。何より、ダージリンがアッサムをもう、苦しめることをせぬように、ずっと触れずにいたのだ。
「…………嫌です」
「何が嫌?」
「………戦車に乗るのが嫌です」
「どうして?」
「………何もありませんわ。やりたいことが、あそこにはもうありません」
やらなければならないことは、まだまだたくさんある。1年生が入学した頃、2人で夢を語ったはずだ。才能豊かな1年生を育て上げて、必ず全国制覇できるように道を作って行こう、と。今の2年生だって優秀だ。必死になって育ててきたのはアッサムのはずなのに。
「ルクリリたちの指導は嫌?」
「…………嫌じゃないです」
「アッサムは何をやりたいの?」
 そっと肩にお湯を掛けて、膝を抱えるその手を取った。温かな薔薇の香り。心を落ち着かせて、本当の願いをちゃんと聞いてあげなければ、ダージリンは何もしてあげられないのだ。何が正しいことなのか、わからない。
「……………もう、私のやりたいことは……終わりました」
「夏の大会は終わっても、他に試合はあるわ」
 そうじゃないと言いたげに左右に揺れる、その唇が何かを言おうとして小さく開いては何も言えずに閉じてしまう。アッサムは何を言いたいのだろう。アッサムがやりたかったことは、夏の大会で優勝することだけだったのだろうか。ただ、それだけのための戦車道だったのだろうか。優勝を本気で目指したのなら、プラウダや、あるいは西住流の門下生になって黒森峰に入学すればよかったことだ。聖グロに入り、いじめに耐えて、それでも目指さなければならない程、アッサムは優勝にこだわっていただろうか。

アッサムがこだわっていたのは、チャーチルに乗ること。ダージリンはそう思っていた。
だから、1日でも早くチャーチルの車長になりたかった。1日でも長く、チャーチルにアッサムと乗っていたかった。そのためには優勝しなければならない。アッサムと共にいるためには、1日でも長くいるためには、そうしなければならないと思い、戦い続けていた。

 まだ、卒業試合が残っている。大事な本当に最後の一戦が残っている。ダージリンの前に座って、その黒いリボンを見ているだけで心落ち着ける、あの場所で、チャーチルで、もう一度戦わなければならないのだ。アッサムがいてくれなければ、ダージリンは卒業試合をすることができない。彼女が傍にいなければ、試合などできない。

でもそれは、ダージリンの我儘。もう、あとどれくらいアッサムに我儘を押し付けたら、諦めが付くのだろう。しがみついて、離さないのはダージリンの方だ。この恋情の終わらせ方がわからない。



ダージリンの服を着せて、ソファーに座らせ温かい紅茶を飲ませた。雨音を割ってチャイムの音が寮にも聞き取れる程度には響いてくる。部屋の時計は訓練終了時間を指していた。  ルクリリに任せているけれど、食事を取った後のミーティングはダージリンが出なければ。ルクリリに、ルクリリの反省点を語らせるわけにもいかないだろう。隣に座り、両手でカップを包みながら湯気を見つめる瞳。じっと琥珀の水面を見つめて、何を考えているのだろう。戦車から飛び出してきた時よりも、ずいぶんと落ち着きを取り戻しているが、きちんと事情を聞いて、アッサムの望むことを聞き出すことはまだ、出来ないように見える。あるいは、ダージリンがそれを避けたいと心のどこかで思っているのか。
「少し落ち着いたら、食事を取りましょう」
「………ルクリリに、謝らないと」
「そうね、きっと心配しているわ。あなたのこと、大好きだもの」
「………ルクリリに、嫌われてしまいますか?」
「大丈夫よ」
カップの中が空になった頃、部屋の電話が鳴った。グリーンが様子を聞いてきている。訓練は無事に終わり、全車倉庫に入ったと。ルクリリからの伝言を受けて、午後からどうすればいいのか、連絡を待っているそうだ。こちらから指示を出すと伝えて、一度電話を切った。






清らの恋


なお、お読みいただいている方でご感想頂けましたら幸いです。PDFの最後にアドレスをのせております。よろしくお願いいたします。


ここのアールグレイ隊長たち、ダメな奴らでしたが、今書いているのは、いい人すぎるくらいです。。。


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