快読日記

日々の読書記録

「世界屠畜紀行」内澤旬子

2012年06月08日 | ノンフィクション・社会・事件・評伝
《6/5読了 角川文庫 2011年刊(解放出版社から2007年に刊行された単行本に加筆訂正して文庫化)【ルポルタージュ】 うちざわ・じゅんこ(1967~)》

牛、豚、羊、ヤギ、犬(!)、ラクダ(!!)といった動物たちが、「肉」になるまでのあれこれを追いかけたイラスト&ルポ。
訪れた地域は、韓国に始まりバリ、エジプト、チェコ、モンゴル、日本(東京・沖縄)、インド、アメリカ。
同行するそれぞれの通訳や各地で屠畜を見せてくれる人たち(プロアマ問わず)との掛け合いも豊かでおもしろくて、その生活文化や伝統の違いを筆者と一緒に見て回る楽しさが味わえました。
屠畜レポートやスケッチは細密でわかりやすく、加えてそこはかとなくとぼけた雰囲気もあって素敵。

ところで、
本書のテーマのひとつとして、
肉を食べるくせに、牛や豚を殺すのはかわいそう!屠畜従事者は残酷だ!などと非難する人がいるのはなぜか、というのがあります。
しかしこの筆者は、“私は屠畜現場を見ても平気な女”“こんなすごい職人を差別するのはどうして?”みたいなことを連発するだけで、それ以上の深い考察はありません。
モンゴルの項に登場するモンゴル研究者の小長谷さんという女性の話に答えがあるような気がしますが。
さらにひっかかるのが、筆者が各地で“屠畜従事者への差別についてどう思うか”と“従事者本人に”尋ねているところ。
差別を“する”人にならともかく、“される”側に聞かれてもねえ。
尋ねられた方も困っちゃいますよね。
この人は、差別問題を考えたいのか、食文化の一部としての屠畜(方法や考え方)が地域でこれだけ違う!ということが言いたいのか、力作なわりによくわからない。
差別問題に半端に触れたせいで焦点がぼやけたみたい。

「身体のいいなり」の筆者の本業を読んでみたくて買った本ですが、「紀行」「見聞録」としてはすごくおもしろかったけど、「論考」としては疑問が残りました。

→「身体のいいなり」内澤旬子

/「世界屠畜紀行」内澤旬子
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