快読日記

日々の読書記録

「「大相撲八百長批判」を嗤う 幼稚な正義が伝統を破壊する」玉木正之

2011年11月10日 | プロレス・相撲・ボクシングなど
《11/8読了 飛鳥新社 2011年刊 【相撲 日本】 たまき・まさゆき(1952~)》

相撲は、神事・興行・武道(格闘技)という3本柱の上に成り立つものである一方、
ヤクザや役者や芸人の世界と同じ“アジール”(世間からはぐれた人間の避難場所)でもある、
清濁併せ呑む懐の深さがあり、華やかさと暗い陰の両方を持つ、美しくて曖昧で複雑なもの、
それが白か黒かの近代スポーツの理論で破壊されるのはとんでもないこと-というのが筆者の主張で、わたしも激しく同意します。
一連の不祥事やら疑惑やらで叩かれた相撲界ですが、一度女性キャスターが「あの相撲の試合は」と言ってるのを見て、そんな人たち(おそらくまともに相撲を見たことがない)に八百長だ何だと批判されてるのかと思うと情けなくなりました。
こういうピュアでクリーンで薄っぺらい日本人が自分たちの独特の文化を破壊していくのでしょう。

筆者の考え方には大賛成ですが、さらにいいのはこの本のつくり。
対談がメインなんだけど、同じような意見を持つ人だけでなく、週刊ポスト(週刊現代より以前から大相撲の八百長問題を厳しく追及していた)の記者との対談も収められている充実っぷり。
八百長批判する人のすべてが無知で無粋なわけではなく、そこには相応の主張があるわけで、
筆者との、じっくり組み合った四つ相撲のような対談も読み応えがありました。

今の相撲界が抱える問題というのは、日本人が抱えるそれと見事にリンクしていることもよくわかります。
運営する人たちにいまひとつ危機感や覚悟がないように見えるところもそっくりです。
結局、文化というのは外からの攻撃より中からの崩壊によって消滅していくわけだから、相撲界の危機は日本人の危機と言っても言い過ぎじゃないと思うんです。

3月の震災のあとに書かれたあとがきも胸に響きます。
図書館にリクエストした本でしたが、あんまりよかったので自分でも買っちゃいました。わはは。

/「「大相撲八百長批判」を嗤う 幼稚な正義が伝統を破壊する」玉木正之
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