快読日記

日々の読書記録

「サキの忘れ物」津村記久子

2020年08月07日 | 日本の小説
8月7日(金)

津村記久子の短編集「サキの忘れ物」(新潮社 2020年)を読了。

今までにもいくつか短編集が出ていますが、
一番バラエティ豊かというか、色とりどり。

でも、バラバラかというとそうではない。

なんというか、偉そうに言っちゃうと、
津村記久子、脂がのり始めたかんじがします。
惚れ直します。
これまであまり感じなかった(たぶん表に出てなかった)「自信」がみなぎって、
フリーハンドを得たような、なんでも書ける!って宣言したような、そんな雰囲気です。

これは、成長とか幅を広げたとか以上に「深化」であるところがさすがです。

とくに、冒頭の表題作と最後の作品には、本当に微かな、小さな声をしっかり拾う津村記久子作品の醍醐味が濃くあって、
何度も「読み終わりたくないよー」と思いました。
デビュー作から一貫して、小さな人間を誠実にコツコツ描いていて、でもそこには必ず「暴力」があるんですよね。
彼らは様々な種類の暴力にさらされ、踏みにじられる。
今までは、その当事者目線で真っ向から描くものが多かったけど、
この最新作には、そうした人を見守る作家の「慈悲の目」みたいなものを感じます。


それから、表紙がまたいいんです。
ひとつひとつの話を読むたびに、そこに描かれた絵の意味がわかるという素敵な仕掛けです。