快読日記

日々の読書記録

「婚礼、葬礼、その他」津村記久子

2013年08月10日 | 日本の小説
《7/30読了 文春文庫 2013年刊(単行本は文藝春秋 2008年刊) 【日本の小説 短編集】 つむら・きくこ(1978~)》

収録作品:婚礼、葬礼、その他/冷たい十字路

「ポトスライムの舟」で芥川賞をとる前年に出た作品集。
表題作は、世界の周辺部に存在するOLヨシノが友人の披露宴に出席している最中、会社の上司の父親の通夜に呼び出され駆けつける話。
ヨシノの絶望的な空腹と、顔も知らない人間の死と、それを取り巻く人たちの事情と…。

今まで読んだ津村作品の中では薄口な印象を受けました。
作者が、ヨシノが、「葬礼」「婚礼」とそれらの意味を少し持て余している様子で、全体的にもう一押しが足りないかんじ。
生煮えっぽい。

もうひとつの「冷たい十字路」は、朝の十字路で起きた高校生同士の自転車接触事故を発端に、目撃者の女性や近くの小学校の教師、それ以前に同じ場所で起きた事故により人生が狂った人など、様々な人物の目線でつづられる佳作。
無神経に生きることは一種の暴力で、それを受けた人間の肉体を傷つけ、精神をさいなみ、じゃあそれは時間の経過がいやしてくれるかっていうと、天災ならともかく“誰かにやられた”という思いは消えないどころか、皮膚の奥深くに入り込んだトゲみたいにことあるごとに痛み、“加害者”の存在を主張してきます。
そのたびに自分が“被害者”として汚された記憶がよみがえる。

考えてみると、津村記久子は“被害者”を描くことが多いですね。
読んでいるうちに胸がしくしくしてきます。
この人が“加害者”に照準を合わせ、徹底的に書いたらどんな作品になるのかな。
例えば、犯罪加害者の親が主人公とか。
読んでみたいです。

/「婚礼、葬礼、その他」津村記久子