快読日記

日々の読書記録

「理屈はいい こういう人間が愚かなんだ」大島 渚

2008年05月26日 | エッセイ・自叙伝・手記・紀行
《職業に貴賤はないが、人間には貴賤がある(10p)》



「この人のことを知りたい」と思うとき、その当人が書いたものより、他人が取材して著したものを読む方が、その人を多角的に見られるという意味では有効です。
その点から言っても、この大島渚のエッセイはおもしろい。
自分が自分を語るときの演出や嫌な自意識がほとんど臭わず、そこで開陳される「大島渚像」はとても魅力的です。
相手の心の窓を叩き割ってでも自分を伝えるアグレッシブな男かと思えば、驚くほど繊細で女性的(実際の女性は繊細なんかじゃないけど)だったり、
香り立つ色気にぽーっとしていると、意外と泥臭くて一本気だったり。
語り口も率直なので、読み終わる頃にはすっかり渚のトリコです。

"どんな人生でもなんらかの意味でスポイルされている。それに気付き、恨み、そのマイナスを回復しようとするところから人間の向上は始まる"という言葉には力が湧きました。

刊行後(1996年2月)脳出血で倒れますが、その後書かれた「ぼくの流儀」に比べるとやはり熱くストレートな1冊です。

■5/23読了 青春出版社 1993年刊 【日本のエッセイ】大島渚(1932~)