ガイドに天候の判断をまかせて、出発するときは呼びにきてもらうようにたのんで、それまで寝ていることにした。12時頃におしっこに起きたときは、雪はやんで、星空が見えたので明日は晴天になると思ったが、ガイドの判断を待つとしてシュラフにもぐって寝ていた。、しばらくして目が覚めたら、すでに外は薄明るくなっていた。出遅れた。窓から外を見るとゴーキョピークの頂上が朝日に照らされ赤くなっている。その美しさに見とれながらもあわてて出発の支度をした。ガイドがようやくやってきて出発をうながした。そしてロッジを出たのは、すでに6時すこし前になっていた。あたりは昨日降った新雪が白く覆い20cmほどの積雪になっている。ロッジから湖に向かって下って湖に流れ込む川を飛び石に沿って渡る。すでにゴーキョピークの半分近くが朝日に染まっていた。冷えた空気の中を新雪を踏んで歩くのは気持ちがいい。風も無いので、今日もピ-カンの登山日和になると確信した。川を渡りおわると、すぐ登りになる。いよいよ最後のピークへ一歩一歩と足を運ぶ。階段を登るような急坂を、新雪の頂上へと呼吸が早まる。標高差約570mの急斜面は雪が覆って下から見ると、空へ登る階段のように思える。酸素が薄いので、呼吸が速い、足も重い。しばらく登って下を見ると、我々が出てきたロッジから、何人かの登山者が川を渡るのが見えた昨日会ったトレッカー達だろう。3分の1ぐらい登るのに1時間ぐらいはかかった。足がすぐに前に出ないので、だんだんペースがおそくなる。一歩あがって一呼吸してまた一歩上がるそれでも精一杯のペースだ。ナムチェへの登りよりしんどい。やはり酸素が薄いのだ。身体の血液がすべて足に集まっているはずなんですが、足を上げるのがつらくなる。しかし遅くても歩みを止めないで続けていればいつかは頂上なのだ。終わりの無い坂道はないのだ。ただただ一歩前に足を置くことだけを意識していた。やがて、下から登ってきたドイツ隊が追いついて、呼吸も荒く追い抜いていった。すでに半分は登っただろうか。ガイドに訊くとまだ半分は登っていないというので、がっくりする。ドイツ隊についていく脚力もないので、今日の新雪の初登頂はあきらめざるをえない。一気に緊張が疲労感に変わる。はじめて、しばらく立ったまま休憩する。陽は高くあがり新雪の反射がまぶしい。下のほうを見れば、湖が白く氷結して平面が広がっている。また別の登山者が登ってくるのが見える。水を飲んでまた歩き始める。1mでも2mでも上に行くことだけに集中して、足を動かす。終わりの無い坂道はないのだ。それだけを念仏のようにつぶやきながら進む。ペースが一段と遅くなる休憩が多くなる。上を見ても頂上は見えない。修行だ、邪念をすて、無心になること、登っていることを考えないこと、忘れることそれが、つらさを克服する方法だと思う。下にいた英国隊が追いついた。「疲れたかい」「疲れたさ」それが挨拶だった。ドイツ隊よりペースは遅いのでしばらくは一緒についていったが、やはり休憩のあいだに引き離されてしまった。そのあとに何人かのチームが追い抜いていった。3回くらい休憩をとってようやく頂上のチョルテン(旗)が見えてきた。ここまでくれば、もう少しで頂上です。元気がよみがえる。そして4時間25分の苦闘のすえついにゴーキョピークの頂上に立った。頂上にはすでにドイツ隊英国隊などが休憩している。先頭で新雪にトレースをつけてあげたのだから、ベートーベンのシンフォニーNo9の各国混声合唱付きで迎えてもらってもいいくらいだが実際は
「I’m glad to see you again」
「Congratulation」
「Thank you」
と小さな声でお互いの健闘を讃えあったのでした。
頂上から見えるエベレスト山頂は北からの風で地吹雪が舞い上がり、紺碧の空に黒々とそそり立っておりました。長い長い30年間思いつづけたことが現実になった瞬間です。
後ろに見える黒く地吹雪を上げている峰がが世界最高峰のエベレスト(サガルマータ)です。その右がローツェすこしはなれて右奥がマカルーと8000m級が続きます
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