小雨はすぐに上がって、並木の下を雫を受けながら、速足で歩く。今日は旧市街のハノイの下町へ足を延ばそうと思う。ホンボン通りを過ぎて北へ上がると突き当り付近にドンスアン市場がある。一応その市場を目的地に定めて歩いてみようという魂胆です。そのあたりが一番ハノイらしいヴェトナムらしい地域だろうという読みがあって、その辺をうろつけば何かあるかもしれないという期待があった。ホンボン通りはやはり画廊が気になって、数軒見て回りました。それぞれ店のコンセプトが違うので、その分楽しみが増すのです。昨日のコンテンポラリー(現代的絵画)のギャラリーは少しとんがっていましたので、よけいに期待がふくらみました。骨董系や古美術系あるいは伝統系のほかに逸品系(画風によらず完成度の高い作品)などの店を覗いてきた。その中では、漆絵に惹かれた。漆絵はもともと中国の伝統です。家屋の板の壁に赤い漆を塗って人物や花鳥を描いたのを見たことがあるかとおもいますが、もともと漆は防腐剤として使われていた。鳥居を赤く塗るのもその理由です。その技術が発展して現代の漆絵になったと考えています。日本でも漆で画を描く作品は有りますが、面白くない。技術的には素晴らしいものがあるですが、画風が工芸的と言うかこじんまりと技の美を見せて満足している。石川県立美術館にある松田権六氏の作品<蓬莱の棚>が一つの基準になっている節があって、破れがない飛躍がない。もちろんこの<蓬莱の棚>は純粋絵画ではなく一応用途がある工芸品ですから、それが求められているのですが、それが漆絵全体の表現まで縛っているのではないか。<蓬莱の棚>が素晴らしすぎて憧れると言うか、その水準に近づこうとするのは良く分かるのですが、あまりにその基準というか美意識にとらわれすぎているのではないかと思っていた。つまり日本人独特の過剰品質なんです。いい悪いは別にして品質は目的ではなく手段であるというのが世界標準なんだろうと思っています。そのような見方からすれば、日本とヴェトナムではやはり違うのです。ウルシではなくラッカーです。つまり画材の塗料の一つとして見ているのではないか、こちらは漆が安価なのもあるのか、漆を特別有難がるわけではない目的は感動です。かといって技術が劣っているという意味ではない。詳しくはわかりませんが、日本で見られる技術は全てあるように思われる。そして表現としては上回っている。見ていて何かを感じるのです。ワシが見た作品は大きな作品で横2,5m縦1,8mぐらいに何を描いてあるのか良く分からない、人物らしいのは分かるが顔がよく分からない。わざと描かないのかどうか知りませんが、顔をはっきり書いてくれたらこの絵のモチーフもはっきりしてくるのにと思って眺めていたが、抽象画であるのは間違いない。塗りのタッチが過剰品質ではないのがいいが、やるべき仕事はしてまっせ。というような完成度高い作品であった。その完成度だけでこの画の価値の半分は占めている。それ以上(過剰)でも以下(不足)でもない。その辺がヴェトナムチックなのでではないかと思ったりして眺めていた。写真に撮れないので残念です。ホンボン通りをぬけドンキン広場から少し行ってディンリエット通りを北上した。初めて通る街並みはどこでも新鮮に見えるのが不思議です。別に変わったものが在るわけではないが、小さな衣料品店が多い。それも専門のアイテムを強調した品ぞろえです。Tシャツ専門だったりスカート専門だったり下着専門だったりそれもブラジャーだけ山盛りに置いてあったり細分化している。後で気づいたのですが、このあたりは繊維製品の卸店の集積地なのだ。かつては中国産が世界を席巻したが、いまやヴェトナム産がそれに替わろうとしている。白人を含め世界のバイヤーたちが多く集まってくる場所なのだろう外国人が多く歩いている。いまや世界のメーカーが下請けに出すバングラディシュと張り合う生産地になろうとしている。なんとなく昭和30年代の日本の経済成長期みたいな雰囲気が感じられる。「もうかりまっかぁ」「ぼちぼちでんなぁ」そんな声が聞こえてきそうな街並みを突き当り道なりに曲がると、古い建物があった。お寺か誰かの廟か良く分からないのですが、入り口にいた人に入ってもいいかと尋ねるとどうぞどうぞというので、中に入ると本堂と言うべきか、なにもない大きな部屋がありその奥に別棟があって、ご本尊が安置されているように見える。しかし今はお寺としてあるいは廟として使われていないらしく、あたりには家具やそれらしい調度品は何もない。あるのは広間の上の方の壁面に陶製のレリーフがはめ込まれてあるだけです。下からよく見ないとわからないが、この建物の由来に関するレリーフなのかもしれない。この陶製のレリーフこそ見るべきものなのかもしれないが、天井近くの壁面に飾られているので、ワシには、はっきりとよく見えないというお粗末でした。そしてお堂の外の境内の壁を利用して画が並べてあった。展示会か販売会か良く分からないが、この場所はそんなふうに使うスペースとして利用されているらしい。
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