食品表示法が出来て、一般消費者に販売される食品には栄養成分表示が義務付けられました。
食品事業者勤務でない知人に話したら、「やったー、楽しそう!」と言われました。
消費者団体などのキリッとした消費者と、私の身近にいる消費者の温度差は割と大きいのですが、私だけでしょうか。
さて、栄養成分表示についても、なんやかんや変遷があります。
まず、事業者が適当にしていた時代があります。
栄養がたっぷり、みたいに書いていても、具体的にどれだけ入っているかは書いていない、とかそういった頃です。
近代の表示を知っている人にはウソみたいに聞こえますが、事実です。
某麦茶メーカーのCMで「ミネラ~ルむ、ぎ、茶♪」という歌がありましたが。
当時「麦茶にはミネラルが多く含まれるから」という理由で多分あんな宣伝を打ってたんだと思います。
実際にミネラルを測定していたのか?と言われると…多分やってなかったんじゃないかな、昔は。
CMの主演?をしていた松島トモ子さんがライオンとひょうに襲われたのが1986年なので、私も流石にそんな前の事はどうだったか覚えてないです。
まぁ他にもレモン果汁を少々入れてビタミンたっぷりとか、そういった宣伝手法は取られていました。
それではイカンということになったのかどうなのかわかりませんが、栄養成分を強調するときの基準などが決められました。
含む、とか、多い、とか、低い(減塩など)とか、ゼロ(カロリー、糖質など)、とか。
そして、強調している成分とともに、主要な栄養成分の量を表示しなさい、と定めました。
その際に、表示を行うのであれば、その値について、誤差20%程度に納めなさい、という決まりができました。(項目によって許容範囲のパーセンテージは違います)
誤差範囲に収まらない場合は、○~○といった範囲表示でもOKとされています。
成分を強調していなくても、任意で表示することは可能ですが、その場合も「任意だから誤差範囲を超えてよい」ということはなく、この決まりに従って表示をおこなうこと、となっています。
この法律は最新の食品表示法ができる一つ前の法律なので、食品表示法に対応しきれていない人々はこの決まりに従うことになっています。
この決まりには問題点がありました。
誤差範囲についてですが、余りにも値が小さい時は、20%の誤差、が非常に小さい値になってしまいます。
つまり、当局が設定している誤差範囲の合理性が低いのです。
よく見かけるのが、ナトリウム0~○○㎎、というものですが、ナトリウムの値が低い中で変動するものを、誤差範囲を越えないようにわざわざ範囲表示にしている訳です。
範囲表示も、範囲に収まっていれば良いという訳ではなく、不当に幅広にしたらだめ、という決まりもあり、一層困難です。
この決まりが出来たばかりの頃は、範囲から外れているとわかれば違法ですので、事業者が表示をするには、計算し、またはサンプルをいくつか分析し、色々考慮して違法にならないよう細心の注意を払っていた訳です。
お金が無い事業者たちは、違法になっても嫌だし、コストはかかるし、ということで、表示には消極的なところが多かったです。
しかし、やがてまことしやかに「栄養成分表示が義務化されるらしい」という情報が流れます。
確かに義務化されるのですが、大体義務化の前に噂が流れます。
意見募集とかがあるんでしょうね。
そして、義務化されるなら、急に対応するのも難しいから、任意で表示をしちゃおうぜ、任意だったら誤差範囲から外れたってそうそう怒られないよ!どうせ誤差範囲も合理性ないし!義務化されたら条件も緩和されるんじゃない?みたいな発想(すみません、結構妄想です)だと思うんですけど、割と適当っぽい表示があちこちでなされ始めます。
そして、ここ十年くらいの間に、世の中の製品の多くに、特に栄養成分の強調をしていなくても、栄養成分の表示が行われるようになったのです。
違法かもしれない表示も多く見受けられますが、正直当局的にも、強調表示をしていないならいっか!みたいな雰囲気があるのかな、と思います。
特に厳しく取り締まられている様子はないです。
栄養成分が多少おかしくても、直ちに健康被害につながる訳でもないですし、普通の栄養成分表示によって何かを著しく優良に見せる、とかいうこともなく、義務化が控えていることもあって、黙認、というところでしょうか。
さて、新しく食品表示法ができましたが、そこで栄養表示の方法は二つ設定されました。表示の法律の概要について書いた時にも書きましたが。
・従来の保証型(誤差の許容範囲あり)
・推定値(合理的な根拠があれば誤差があっても仕方ない、推定値だという記載が必要)
栄養成分を強調表示したりする場合は、保証型でないとだめです。
普通に表示する場合には恐らく「推定値」となります。
表示の下に「推定値です」とか書いてあればそれは推定値ですので、誤差が何パーセントだろうと根拠さえあれば合法です。
従来の「任意だから取締られないだろう」という考えから、栄養成分を強調しようが何しようが雰囲気でやっていた企業もあるかもしれませんので、きちんと線引きをされたということは、ある意味、意義があることかもしれません。
推定値許すまじ、みたいな記事を見かけたことがありますが、過去の表示も「推定値」と書いていないだけで実態は推定した値で、同じものが表示され続けている場合が多いはずですから、いまさら感があります。
一応、合理的な根拠が求められるようになった分進歩したと思われます。
ここで、改めて考えてみたい課題が一つあります。
果たして栄養成分にいったいどれくらいの意味があるのか。
流石にビタミン何㎎、とか、鉄分何㎎とかいった表示にはある程度意味があるのかな、と思います。
と言っても、その鉄分の含まれ方による吸収率が違う、とか色々あるのでしょうが。
当局がひたすらに推してくる基本項目については、正直何か意味があるのかなーと思ってしまします。
主要項目とは、エネルギー、炭水化物、たんぱく質、脂質、食塩相当量、の5つです。
なぜ意味があるのかな、という事ですが。
これらの項目がどうやって導き出されているか、というのを知っているか知っていないかで大違いなので、どうやって導き出されているかを書いてみましょう。
栄養成分については、主に二つの考え方があります。
一つは、計算、主に文科省推しの日本食品標準成分表(現在は七訂)を利用して計算したものです。
もう一つは、分析ですが、分析方法は消費者庁の食品表示法で示されています。
どうして意味があるのかな、という発想になったかというと。
まず、分析の方から話をしたいと思う。
分析をするならば、その値は妥当性しかないように見える、一見。
そう、分析という言葉には一定の魔力があります。
実際表示の妥当性を調査するときも分析を行うので、分析で表示を決めるということの合理性は決して低くないのですが、それが消費者にとって意味があるのか、と言われると、私は疑問です。
なぜか。
分析法自体が、どうなんだ、と思うからです。
まず、たんぱく質の分析法を見てみましょう、まあいくつかあるんですけど。
メインの方法は、窒素の量を計って、そこからたんぱく質の量を推定します。
「推定します」というところが重要です。
多分相当ざっくりした値が出ているんだと思います。
私が思っているたんぱく質と違う!みたいな量が出ている可能性もあるのでは、とビクビクします。
ていうか、もはやたんぱく質、という項目自体適切なのか、という疑いすら出てきます。
脂質は油に溶ける分を計っている、水分は蒸発していった分だけ、となりますが、それって脂質・水分という名の何か別のものも交じってますよね…みたいな気持ちになります。
教育上仕方ないのかもしれませんが、この分類、実は相当ざっくりしていて意味がないんじゃないのかな!と思い始めます。
そして、炭水化物。
名前から私が想像するものは、炭素・水素・酸素で構成されるもの、です。
が、実際分析方法を読んでみると、何という事でしょう。100から他の分析成分(たんぱく質、脂質、水分、灰分)を引いたもの、それが炭水化物の正体です。
差し引き計算で残ったものは全て炭水化物と呼ばれているとかがっかりですよね。
私が思っている炭水化物とイメージが違います…。
因みに世の中のダイエッターの皆さんが親の仇のように嫌う「糖質」は、このように差し引かれただけの値である炭水化物から、分析された食物繊維の値を引いただけの、やっぱり差し引き計算で残ったものです。
糖質!糖質!と躍起になって見ているものが、実は他の成分から計算されたただの残渣みたいなものだって知ったら、ちょっと切ないですね。
こんな状態で、20%の誤差は許さないとか言われても、実際栄養なんて採った形態や人の状態で吸収率も変わってくるのにいったいどれだけの意味があるんだ…と思ってしまう訳です。
食塩相当量、つまりナトリウムの量を表示するのは、高血圧の方向けには良いと思いますけどね。
次は計算値について。
七訂が出たときに、ひじきの栄養成分が話題になったことをご存じでしょうか。
「昔は鉄なべで調理していたから鉄分が多かったが、最近は鉄なべで調理していないから、そんなに鉄分がないという結果になった」
嘘…だろ…。鉄分目当てでひじき食べてたのに…。自分で鉄なべ使えばひじき食べる必要なんてなかったんだ…!という衝撃が一般人の中に走りました。
そういうことです。
日本食品標準成分表は合理的な根拠です!と言っている割に、なんとなくサンプルを分析してみて推測した結果みたいなもんだと思います。
一般論であり、表示しているその食品が本当にそうか、と言われると、微妙。
ただ、いちいち分析していたら社会的コストが合わないので、仕方ないかな、という程度、
で、七訂を出すにあたって、追加された項目のうちに、「利用可能炭水化物(単糖当量)」というものがあります。
六訂にあたる日本食品標準成分表2010で追加された「アミノ酸組成によるたんぱく質」というものもあります。
この二つは、先に分析値の話で私が述べた「たんぱく質や炭水化物の分析値ってどうなの?」という疑問と真っ向対決してくれます。
つまり、
窒素の量からたんぱく質を推定するなんてナンセンスじゃない→過去は分析技術が低かったからね!今はアミノ酸組成を正確に測ることが出来て、アミノ酸組成によるタンパク質を計れるよ!
差し引きで炭水化物を出すなんてナンセンスじゃない→でん粉、単糖類、二糖類等を直接分析又は推計して、利用可能炭水化物を出したよ!
うん…やっぱり…あんまり現代の「たんぱく質」や「炭水化物」っていう項目は意義がないのかな、と切なくさせてくれます。
しかし、利用可能炭水化物やアミノ酸組成によるたんぱく質を、企業レベルで分析するのはコストが嵩んで仕方がないのかも。
現在の分析方法でもお金がかかって仕方ない訳ですから、より新しい技術の分析はお金がかかって仕方ないように思いますし。
無いよりは、技術水準が低い値でもあった方がまし、ということでしょうか。
ちなみに食品表示法に於いては「計算する場合最新のデータベースを利用」と書いてあります。
現在七訂が出ている日本食品標準成分表ですが、おおむね5年ごとに改訂されているため、5年後には再計算を強いられるのでしょうか。
この、どれ位意義があるのかわからない数字を5年ごとに計算しなおすコスト、プライスレスですね。
消費者の皆さんも、このコストは人件費として商品の価格にダイレクトアタックしますので、他人事ではありません。
社会に顕在化させにくいコストの怖いところは、説明がしづらいから、直接の値上げがしにくい→何らかの値上げに伴って便乗値上げを行うか、中身をコストダウンして補うかの二択、となり、見えにくい形での値上げになるところです。
暫く食べていなかった商品が、マイナーリニューアルを重ねられた結果、コストダウンでめちゃめちゃ不味くなってたとかたまにありますからね…。
そんな表示要らないから安い商品頼む、って思ったりしますが、その辺は海外とのハーモナイゼーションとか言い出されて抹殺される定めの意見なんですよね。
散々批判してみましたが、これからの高齢化社会、持病のある独居老人が増えてくると、「購入した食品の栄養成分を見て、食事コントロール」みたいなシーンも出てくるかもしれないので、長寿社会にはやはり必要な表示になってくるのかもしれませんね。
その頃には老眼で、「文字が小さくて見えないんじゃー、面倒くさいー」ってなっていそうな私ですが。
そのうち、スマホアプリで栄養成分表示を撮影するだけで、一日の摂取カロリーとか色々計算してくれるようなやつとか出てくるかもわかりませんし…。
事業者が一番出しにくい「ざっくりした値でもいいから!」を実現した推定値は、ある意味凄い存在かもしれません。
因みに最初の頃に述べたミネラル麦茶ですが。
この前の夏、ペットボトルを買ってみたところ、栄養成分表示がされていました。
時代の流れを感じて胸が熱くなりますね。
食品事業者勤務でない知人に話したら、「やったー、楽しそう!」と言われました。
消費者団体などのキリッとした消費者と、私の身近にいる消費者の温度差は割と大きいのですが、私だけでしょうか。
さて、栄養成分表示についても、なんやかんや変遷があります。
まず、事業者が適当にしていた時代があります。
栄養がたっぷり、みたいに書いていても、具体的にどれだけ入っているかは書いていない、とかそういった頃です。
近代の表示を知っている人にはウソみたいに聞こえますが、事実です。
某麦茶メーカーのCMで「ミネラ~ルむ、ぎ、茶♪」という歌がありましたが。
当時「麦茶にはミネラルが多く含まれるから」という理由で多分あんな宣伝を打ってたんだと思います。
実際にミネラルを測定していたのか?と言われると…多分やってなかったんじゃないかな、昔は。
CMの主演?をしていた松島トモ子さんがライオンとひょうに襲われたのが1986年なので、私も流石にそんな前の事はどうだったか覚えてないです。
まぁ他にもレモン果汁を少々入れてビタミンたっぷりとか、そういった宣伝手法は取られていました。
それではイカンということになったのかどうなのかわかりませんが、栄養成分を強調するときの基準などが決められました。
含む、とか、多い、とか、低い(減塩など)とか、ゼロ(カロリー、糖質など)、とか。
そして、強調している成分とともに、主要な栄養成分の量を表示しなさい、と定めました。
その際に、表示を行うのであれば、その値について、誤差20%程度に納めなさい、という決まりができました。(項目によって許容範囲のパーセンテージは違います)
誤差範囲に収まらない場合は、○~○といった範囲表示でもOKとされています。
成分を強調していなくても、任意で表示することは可能ですが、その場合も「任意だから誤差範囲を超えてよい」ということはなく、この決まりに従って表示をおこなうこと、となっています。
この法律は最新の食品表示法ができる一つ前の法律なので、食品表示法に対応しきれていない人々はこの決まりに従うことになっています。
この決まりには問題点がありました。
誤差範囲についてですが、余りにも値が小さい時は、20%の誤差、が非常に小さい値になってしまいます。
つまり、当局が設定している誤差範囲の合理性が低いのです。
よく見かけるのが、ナトリウム0~○○㎎、というものですが、ナトリウムの値が低い中で変動するものを、誤差範囲を越えないようにわざわざ範囲表示にしている訳です。
範囲表示も、範囲に収まっていれば良いという訳ではなく、不当に幅広にしたらだめ、という決まりもあり、一層困難です。
この決まりが出来たばかりの頃は、範囲から外れているとわかれば違法ですので、事業者が表示をするには、計算し、またはサンプルをいくつか分析し、色々考慮して違法にならないよう細心の注意を払っていた訳です。
お金が無い事業者たちは、違法になっても嫌だし、コストはかかるし、ということで、表示には消極的なところが多かったです。
しかし、やがてまことしやかに「栄養成分表示が義務化されるらしい」という情報が流れます。
確かに義務化されるのですが、大体義務化の前に噂が流れます。
意見募集とかがあるんでしょうね。
そして、義務化されるなら、急に対応するのも難しいから、任意で表示をしちゃおうぜ、任意だったら誤差範囲から外れたってそうそう怒られないよ!どうせ誤差範囲も合理性ないし!義務化されたら条件も緩和されるんじゃない?みたいな発想(すみません、結構妄想です)だと思うんですけど、割と適当っぽい表示があちこちでなされ始めます。
そして、ここ十年くらいの間に、世の中の製品の多くに、特に栄養成分の強調をしていなくても、栄養成分の表示が行われるようになったのです。
違法かもしれない表示も多く見受けられますが、正直当局的にも、強調表示をしていないならいっか!みたいな雰囲気があるのかな、と思います。
特に厳しく取り締まられている様子はないです。
栄養成分が多少おかしくても、直ちに健康被害につながる訳でもないですし、普通の栄養成分表示によって何かを著しく優良に見せる、とかいうこともなく、義務化が控えていることもあって、黙認、というところでしょうか。
さて、新しく食品表示法ができましたが、そこで栄養表示の方法は二つ設定されました。表示の法律の概要について書いた時にも書きましたが。
・従来の保証型(誤差の許容範囲あり)
・推定値(合理的な根拠があれば誤差があっても仕方ない、推定値だという記載が必要)
栄養成分を強調表示したりする場合は、保証型でないとだめです。
普通に表示する場合には恐らく「推定値」となります。
表示の下に「推定値です」とか書いてあればそれは推定値ですので、誤差が何パーセントだろうと根拠さえあれば合法です。
従来の「任意だから取締られないだろう」という考えから、栄養成分を強調しようが何しようが雰囲気でやっていた企業もあるかもしれませんので、きちんと線引きをされたということは、ある意味、意義があることかもしれません。
推定値許すまじ、みたいな記事を見かけたことがありますが、過去の表示も「推定値」と書いていないだけで実態は推定した値で、同じものが表示され続けている場合が多いはずですから、いまさら感があります。
一応、合理的な根拠が求められるようになった分進歩したと思われます。
ここで、改めて考えてみたい課題が一つあります。
果たして栄養成分にいったいどれくらいの意味があるのか。
流石にビタミン何㎎、とか、鉄分何㎎とかいった表示にはある程度意味があるのかな、と思います。
と言っても、その鉄分の含まれ方による吸収率が違う、とか色々あるのでしょうが。
当局がひたすらに推してくる基本項目については、正直何か意味があるのかなーと思ってしまします。
主要項目とは、エネルギー、炭水化物、たんぱく質、脂質、食塩相当量、の5つです。
なぜ意味があるのかな、という事ですが。
これらの項目がどうやって導き出されているか、というのを知っているか知っていないかで大違いなので、どうやって導き出されているかを書いてみましょう。
栄養成分については、主に二つの考え方があります。
一つは、計算、主に文科省推しの日本食品標準成分表(現在は七訂)を利用して計算したものです。
もう一つは、分析ですが、分析方法は消費者庁の食品表示法で示されています。
どうして意味があるのかな、という発想になったかというと。
まず、分析の方から話をしたいと思う。
分析をするならば、その値は妥当性しかないように見える、一見。
そう、分析という言葉には一定の魔力があります。
実際表示の妥当性を調査するときも分析を行うので、分析で表示を決めるということの合理性は決して低くないのですが、それが消費者にとって意味があるのか、と言われると、私は疑問です。
なぜか。
分析法自体が、どうなんだ、と思うからです。
まず、たんぱく質の分析法を見てみましょう、まあいくつかあるんですけど。
メインの方法は、窒素の量を計って、そこからたんぱく質の量を推定します。
「推定します」というところが重要です。
多分相当ざっくりした値が出ているんだと思います。
私が思っているたんぱく質と違う!みたいな量が出ている可能性もあるのでは、とビクビクします。
ていうか、もはやたんぱく質、という項目自体適切なのか、という疑いすら出てきます。
脂質は油に溶ける分を計っている、水分は蒸発していった分だけ、となりますが、それって脂質・水分という名の何か別のものも交じってますよね…みたいな気持ちになります。
教育上仕方ないのかもしれませんが、この分類、実は相当ざっくりしていて意味がないんじゃないのかな!と思い始めます。
そして、炭水化物。
名前から私が想像するものは、炭素・水素・酸素で構成されるもの、です。
が、実際分析方法を読んでみると、何という事でしょう。100から他の分析成分(たんぱく質、脂質、水分、灰分)を引いたもの、それが炭水化物の正体です。
差し引き計算で残ったものは全て炭水化物と呼ばれているとかがっかりですよね。
私が思っている炭水化物とイメージが違います…。
因みに世の中のダイエッターの皆さんが親の仇のように嫌う「糖質」は、このように差し引かれただけの値である炭水化物から、分析された食物繊維の値を引いただけの、やっぱり差し引き計算で残ったものです。
糖質!糖質!と躍起になって見ているものが、実は他の成分から計算されたただの残渣みたいなものだって知ったら、ちょっと切ないですね。
こんな状態で、20%の誤差は許さないとか言われても、実際栄養なんて採った形態や人の状態で吸収率も変わってくるのにいったいどれだけの意味があるんだ…と思ってしまう訳です。
食塩相当量、つまりナトリウムの量を表示するのは、高血圧の方向けには良いと思いますけどね。
次は計算値について。
七訂が出たときに、ひじきの栄養成分が話題になったことをご存じでしょうか。
「昔は鉄なべで調理していたから鉄分が多かったが、最近は鉄なべで調理していないから、そんなに鉄分がないという結果になった」
嘘…だろ…。鉄分目当てでひじき食べてたのに…。自分で鉄なべ使えばひじき食べる必要なんてなかったんだ…!という衝撃が一般人の中に走りました。
そういうことです。
日本食品標準成分表は合理的な根拠です!と言っている割に、なんとなくサンプルを分析してみて推測した結果みたいなもんだと思います。
一般論であり、表示しているその食品が本当にそうか、と言われると、微妙。
ただ、いちいち分析していたら社会的コストが合わないので、仕方ないかな、という程度、
で、七訂を出すにあたって、追加された項目のうちに、「利用可能炭水化物(単糖当量)」というものがあります。
六訂にあたる日本食品標準成分表2010で追加された「アミノ酸組成によるたんぱく質」というものもあります。
この二つは、先に分析値の話で私が述べた「たんぱく質や炭水化物の分析値ってどうなの?」という疑問と真っ向対決してくれます。
つまり、
窒素の量からたんぱく質を推定するなんてナンセンスじゃない→過去は分析技術が低かったからね!今はアミノ酸組成を正確に測ることが出来て、アミノ酸組成によるタンパク質を計れるよ!
差し引きで炭水化物を出すなんてナンセンスじゃない→でん粉、単糖類、二糖類等を直接分析又は推計して、利用可能炭水化物を出したよ!
うん…やっぱり…あんまり現代の「たんぱく質」や「炭水化物」っていう項目は意義がないのかな、と切なくさせてくれます。
しかし、利用可能炭水化物やアミノ酸組成によるたんぱく質を、企業レベルで分析するのはコストが嵩んで仕方がないのかも。
現在の分析方法でもお金がかかって仕方ない訳ですから、より新しい技術の分析はお金がかかって仕方ないように思いますし。
無いよりは、技術水準が低い値でもあった方がまし、ということでしょうか。
ちなみに食品表示法に於いては「計算する場合最新のデータベースを利用」と書いてあります。
現在七訂が出ている日本食品標準成分表ですが、おおむね5年ごとに改訂されているため、5年後には再計算を強いられるのでしょうか。
この、どれ位意義があるのかわからない数字を5年ごとに計算しなおすコスト、プライスレスですね。
消費者の皆さんも、このコストは人件費として商品の価格にダイレクトアタックしますので、他人事ではありません。
社会に顕在化させにくいコストの怖いところは、説明がしづらいから、直接の値上げがしにくい→何らかの値上げに伴って便乗値上げを行うか、中身をコストダウンして補うかの二択、となり、見えにくい形での値上げになるところです。
暫く食べていなかった商品が、マイナーリニューアルを重ねられた結果、コストダウンでめちゃめちゃ不味くなってたとかたまにありますからね…。
そんな表示要らないから安い商品頼む、って思ったりしますが、その辺は海外とのハーモナイゼーションとか言い出されて抹殺される定めの意見なんですよね。
散々批判してみましたが、これからの高齢化社会、持病のある独居老人が増えてくると、「購入した食品の栄養成分を見て、食事コントロール」みたいなシーンも出てくるかもしれないので、長寿社会にはやはり必要な表示になってくるのかもしれませんね。
その頃には老眼で、「文字が小さくて見えないんじゃー、面倒くさいー」ってなっていそうな私ですが。
そのうち、スマホアプリで栄養成分表示を撮影するだけで、一日の摂取カロリーとか色々計算してくれるようなやつとか出てくるかもわかりませんし…。
事業者が一番出しにくい「ざっくりした値でもいいから!」を実現した推定値は、ある意味凄い存在かもしれません。
因みに最初の頃に述べたミネラル麦茶ですが。
この前の夏、ペットボトルを買ってみたところ、栄養成分表示がされていました。
時代の流れを感じて胸が熱くなりますね。