八犬伝の世界―伝奇ロマンの復権
読みました。
読んでて燃えた箇所を抜粋。
> しかし、「稗史野乗」――正史への離反――の世界にたいする近代的誤解の一つは、その虚構の
>性格を、あるいはその虚構に託した稗史家の想像力の性格を、恣意的空想一般と見なすところ
>にあった。
> 実際はその逆である。「稗史野乗」の世界なればこそ、高次な虚構は恣意的空想であってはな
>らず、何らかの根拠を必要とするという暗黙のルールがあったのである。だからこそ、稗史家は
>シナ小説や和漢の故事伝説を熱心に勉強した。それらは「稗史野乗」の「虚構」構想のブッキッ
>シュな「根拠」を引き出す宝庫であったからである。
もうひとつ。
> この事例だけでも、本格的な稗史小説にとって物語を<開かれた>世界にすることが、手かせ
>足かせの中での作業であったことがわかる(徳川家の家系は新田義重に発したと公称される。江戸時代
>の稗史小説が「南朝」賛美物語を書けたのは、このゆえである。里見氏もまた新田氏支流である)。しかし、
>この制約が逆に『八犬伝』を<開かれた>世界と化す、もう一つの構想を生み出したのである。
> 皮肉なことに、前述の徳川家にたいする配慮は、結果的には『八犬伝』の世界から、江戸城お
>よび江戸を植民地都市とした外来者徳川氏関係のあらゆる影を抹殺し、江戸人にとってはもっと
>もなつかしい根生いの武州の郷民、つまり江戸開拓郷民への憧憬と幻想を書くこととなったので
>ある。
さらにもうひとつ。
>里見義実、犬塚匠作・番作親子、井丹三直秀、そして氷垣残三夏行。彼らは結城合戦の落武者
>という条件で共通している。結城落城後、鎌倉公方持氏の遺児で城方が主と仰いだ十一歳の安王
>丸、九歳の春王丸が美濃垂井で討首にされる哀話で古来有名な結城合戦の意義を、『八犬伝』で
>は結城方の「義」におき、さらにその根源に足利持氏の「関東の自立を志」す意志を継承した、
>関八州草奔武士団の自立の意気地をおいていた。ここには、戦国乱世の時代に即して「自立」を
>めざして蜂起した者たちの敗北が書きこまれていたのだ。『八犬伝』は、その失われた「自立」
>の回復の物語なのであって、後半部の里見軍対管領連合軍の幻想関東大戦は、その構想の上では
>不可欠なのである。
図書館には最近出た「完本」の方(2倍近く増補されてるらしい)
はなかったので新書版を借りたんですが
「完本」も読んでみようと思います。
読みました。
読んでて燃えた箇所を抜粋。
> しかし、「稗史野乗」――正史への離反――の世界にたいする近代的誤解の一つは、その虚構の
>性格を、あるいはその虚構に託した稗史家の想像力の性格を、恣意的空想一般と見なすところ
>にあった。
> 実際はその逆である。「稗史野乗」の世界なればこそ、高次な虚構は恣意的空想であってはな
>らず、何らかの根拠を必要とするという暗黙のルールがあったのである。だからこそ、稗史家は
>シナ小説や和漢の故事伝説を熱心に勉強した。それらは「稗史野乗」の「虚構」構想のブッキッ
>シュな「根拠」を引き出す宝庫であったからである。
もうひとつ。
> この事例だけでも、本格的な稗史小説にとって物語を<開かれた>世界にすることが、手かせ
>足かせの中での作業であったことがわかる(徳川家の家系は新田義重に発したと公称される。江戸時代
>の稗史小説が「南朝」賛美物語を書けたのは、このゆえである。里見氏もまた新田氏支流である)。しかし、
>この制約が逆に『八犬伝』を<開かれた>世界と化す、もう一つの構想を生み出したのである。
> 皮肉なことに、前述の徳川家にたいする配慮は、結果的には『八犬伝』の世界から、江戸城お
>よび江戸を植民地都市とした外来者徳川氏関係のあらゆる影を抹殺し、江戸人にとってはもっと
>もなつかしい根生いの武州の郷民、つまり江戸開拓郷民への憧憬と幻想を書くこととなったので
>ある。
さらにもうひとつ。
>里見義実、犬塚匠作・番作親子、井丹三直秀、そして氷垣残三夏行。彼らは結城合戦の落武者
>という条件で共通している。結城落城後、鎌倉公方持氏の遺児で城方が主と仰いだ十一歳の安王
>丸、九歳の春王丸が美濃垂井で討首にされる哀話で古来有名な結城合戦の意義を、『八犬伝』で
>は結城方の「義」におき、さらにその根源に足利持氏の「関東の自立を志」す意志を継承した、
>関八州草奔武士団の自立の意気地をおいていた。ここには、戦国乱世の時代に即して「自立」を
>めざして蜂起した者たちの敗北が書きこまれていたのだ。『八犬伝』は、その失われた「自立」
>の回復の物語なのであって、後半部の里見軍対管領連合軍の幻想関東大戦は、その構想の上では
>不可欠なのである。
図書館には最近出た「完本」の方(2倍近く増補されてるらしい)
はなかったので新書版を借りたんですが
「完本」も読んでみようと思います。
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