先日、井上雄彦氏の漫画原作で、彼自身が監督を勤めたアニメ作品「THE FIRST SLAMDUNK」を、配偶者と見に行った。
下記はポスター。
今回の主役の宮城リョータ 2年生
3年生 チームのボスのゴリ(センター)と、一度ドロップアウトしたためスタミナがないがシュートがすごい三井
1年生 すべてにかっこよいスーパールーキー 流川 と 体力ばつぐんのド素人(漫画では主人公)の桜木
井上雄彦氏は以前はそれほど興味を持っていなかったが、宮本武蔵を描いたバガボンド、それも佐々木小次郎を聾啞者としたことでストーリーテラーとして興味を持ち、他の作品を読むようになった。その中でこのスラムダンクも読んだのだが、とても若く元気な作品で、やんちゃな青少年は喜ぶだろうとおもったら、物凄い人気を持っていた。これは内容を一層やんちゃな青少年向けにしたテレビアニメの放送にもよる。漫画のほうの絵の流れるような線と躍動感、ストーリーは出色だった。作家が23歳から描きだしていることでその若さが溢れているのだと思った。なお彼はテレビアニメの作画に対しては嫌悪感を持っていたようである。(それが極端に好きな若者もいる)
バガボンドは31歳の作品で、この渋さとこだわりも驚嘆するものだった。画力が評価され、その時期に東本願寺から親鸞聖人の大きな屏風を依頼され、親鸞聖人750回忌に合わせて完成している。
そしてスラムダンクは文化庁が制定した日本のメディア芸術100選に選定されている。
テレビアニメで懲りた彼が、2014年に映画会社からのプロポーザルを受け、映画のアニメの製作を決意した。そして彼自身の拘りを徹底的に追求し、かつ観客に受け入れられる作品とするため、監督にまてなって製作し実質数年で細部まで拘って製作したからには、見に行くべきだとおもった。
その結果は、漫画に非常に詳しい配偶者は大絶賛、そして私は一部引っかかる所はあるが55歳という彼の歳を感じさせる芸術まで高めた作品として評価したい。
作品内容は多くの記事で書かれているが、湘北高校レギュラーでポイントガードをしている宮城リョータが主役で、彼の家庭環境に関わるドラマと、彼らの最終戦である山王工高戦の激しい戦いが交錯して描かれている。その中で宮城リョータ(及び彼の母)と他の4人の壁の克服過程が示されている。
私が評価したのは下記である。
・井上さんとして、適用できる画像制作技術、音響技術、技術スタッフ、声優をできる限り使い切ろうとしている。
・特に画像は、3DCGを利用しまたモーションキャプチャーを活用してリアルを追求しつつ、漫画の線を徹底的に生かそうとしている。
前者は試合の描写で活用され、上からの俯瞰する眼、観衆からの眼、ベンチの眼、そして試合の中のプレイヤーの眼、そしてプレイヤー間の空気の眼と自在に動く。プレイヤーの速度、寧ろ球の速度に充分ついていっている。
そしてプレー中の人の動きの再現性が素晴らしい。
背景もとてもいい。高速で動いても絵が流れるようないい加減なことはしていない。試合中の大観衆も手を抜いていない。
抒情的な場面では、CGの滑らかな動き、いいカラーバランスが生かされている。
・バスケットはドリブルのリズムなど、競技中のいろんな音が刺激的だが、それらを充分生かしている。
声優もとてもうまい。それぞれの性格をちゃんと表現している。
・宮城リョータを主役にしたのは、50歳となった井上氏の社会性として適切。ただし問題児としてのストーリーは、母子の関係にもう少し深みがあってもいいとおもった。これが私の引っかかる点だったが、配偶者はあれで充分とのことだった。確かに2時間で納めるには単純化が必要かもしれない。もしくは彼との年齢や環境の差から来ることかもしれない。
ともかく試合の場面の作りこみは、現代アートの公募展に出したら圧倒的に評価されるとおもう。漫画の場合はコマ割で場面に強弱をつけたり時間の長短を読者側に委ねるといったことができるが、アニメの場合はがめんの大きさが一緒で、時間もコンスタントに動いていく。そういった制約を解決しようと苦闘したのだろう。
サイドストーリーがいろいろ意見がでそうということで、なお試合前のミーティング∔試合∔休憩時間の約70分ぐらいの、サイドストーリィなしのゲームのみに特化した作品というやり方で、ゲームに没頭するというのも在りかと思った。
この映画の評価ポイントを見てみるとほとんどがフルマークだが、10人に一人くらい1点を付けて受け入れられないとしている。
彼らは自分の思い出の中のものしか受け入れられないのだ。
それに対して、井上雄彦氏はこの「SLAM DUNK」という素材を元に、一層の芸術的高みへ登ろうとしている。今後なにを生み出すのか、今後も注目していきたい。
この作品はいきなり最終戦になったり、チームの中の人間関係がわからなかったりなど説明不足の点は在りますが、そんなことにかかわらず充分予備知識なしでも、監督の主張したいことはわかると思います。
これまでのアニメとは違うモノ(私はアートだとおもっている)とおもって、是非見に行ってください。
彼としては自分自身が映像技術で表現したのは、前のテレビアニメは数に入らず初めてということで、THE FIRSTと名付けたのではないか。そしてバーチャルリアリティとかレーザーホログラフィなど新表現技術が生まれたら、THE SECONDがでるのではと期待したい。