
直前に観た韓国映画『パーフェクト・ドライバー』が『レオン』をパクり倒している割には全くの期待倒れに終わったのに対し、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の中国版と言ってもよい本作は、(終盤までのチャイナ・ギャグのオンパレードはどこが面白いのかサッパリだったのだが)最後のひとひねりは意外性十分、思わずホロリとさせられてしまう1本なのである。
『BTF』が、父ちゃんと母ちゃんがちゃんと結ばれるようその仲をとりもつ息子の話だとすれば、本作は交通事故にあって危篤状態にある母親を喜ばせるため、過去に戻って娘が一芝居うつコメディになっている。タイムスリップして何をするのかと観ていたら、なんと金持ちの息子と若き母さんをくっつけて幸せにしてあげようとする、いわば自虐シナリオなのである。
父さん以外の男と母さんが結婚すれば、当然娘の存在もこの世からきれいサッパリ消えてしまうからである。そしてなぜか、若い頃のきれいな母さんの前に突如として現れた娘を、母さんもまるで我が子のように優しく受け入れるのである。ここが最後に観客をホロリとさせる重要な伏線になっている。こんなダメな自分なんか生まれてこなければよかったんだ、なんてことを思いながらそれでも娘を心から愛している証拠を自分に見せて欲しい。
本作で描かれる母さんの姿は、娘にとってのそんな屈折した理想を具現化しているのかもしれない。自分を喜ばせようと、全てにおいてダメダメな娘が(心にもない)下手な芝居を一生懸命に演じている。ならばその芝居につきあってやることも親としての努めであり、娘への愛の証明にもなりうるのではないか。この映画の感涙ポイントは、デブチン娘の頑張りにあるのではなく、その娘の頑張りに応えようとする母性愛の深さにあるのだ。
この映画が描く80年代の中国は確か一人っ子政策で重男軽女の時代だったはずで、女児を間引きする家庭も多かった中で娘を産んで育てあげたということは、その母の愛には嘘がなかった証拠といえるのだろう。ハリウッドメジャーによるブロック・バスター作品を押さえて、本作は2021年に公開された映画の世界興行収入第2位にランクされたという。
こんにちは、私のお母さん
監督 ジア・リン(2021年)
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