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ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

あなた自身とあなたのこと

2025年03月08日 | ネタバレなし批評篇


それまで毎晩2本の高級ワインボトルを空けていたデンゼル・ワシントンは、還暦を迎えてキッパリと酒を断ったらしい。大金持ちとなり低きに流れる映画業界人が多い中で、この決断は立派である。本作監督ホン・サンスはかなりの大酒飲みとしても有名だ。どうなのだろう、最近は“死”をテーマにした作品を多く撮っているホン・サンスだけに、もしかしたら体調があまりよろしくないのかも。そんなホン・サンスの酒に対する自戒を込めたラブコメである。

“記憶障害”をテーマにしたシリアスな恋愛映画は『私の頭の中の消しゴム』や『エターナル・サンシャイン』など手を変え品を変え過去に何本も撮られている。が、その記憶障害の原因がアルコールとなると、人間誰も同情しなくなるから不思議である。しかも、ちゃんとした彼氏がいながら、酒を飲むたびに我を忘れ、男をとっかえひっかえするミンジョンと、そのミンジョンに振られて酒に溺れ幻覚を見るようになったヨンスとのラブストーリーとなると、もう鼻で笑うしかないのである。

そのとっちらかったアルちゅハイマーたちの頭の中を再現したかのように、時系列を自由にいじくり倒しているサンスの意地悪な編集のせいで、観ているこちらの頭の中も酩酊状態。ミンジョンって双子だったの?なんて酔っ払い女の戯言を真に受けとる輩もちらほら。本作においてはすべてのエピソードが酒酔い状態(二日酔い含む)で語られているため、その真偽を判定することが極めて困難なのだ。

はじめて出会った恋人のように、ミンジョンとヨンスがベッドの上で仲良くスイカをあーんし合うラストシーンなどは、ヨンスの幻覚とも思われる演出がわざとされていて、この辺りはとても二日酔い状態で?編集したとは思えないサンスの緻密さを感じるのである。『酒とバラの日々』の中でジャック・レモンはアルコール中毒から立ち直れない奥さんのために、一度は足を洗ったアル中地獄へ自ら落ちてあげた。自分の見ている幻覚(あるいはヨンスと付き合っていたことを全く覚えていないミンジョン)に合わせて一緒に酒に溺れるヨンスを、憐れと思うべきか、自業自得と蔑むべきか、実に判断に迷うところなのである。

本作の翌年に撮られた『それから』が“忘却”をテーマにしていただけに、この映画、もしかしたら女優キム・ミニとの不倫がスキャンダルになってしまったホン・サンスの願望、ミンジョンの浮気をヨンスが(酒の勢いを借りて)赦すという“忘却と赦し”が描かれていたのかもしれませんね。

あなた自身とあなたのこと
監督 ホン・サンス(2016年)
オススメ度[]






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