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ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

そして僕は途方に暮れる

2025年04月03日 | ネタバレなし批評篇

主人公の裕一くん(藤ケ谷太輔)は、一体何から逃げ続けていたのだろう。マエアツ演じる里美に浮気を見破られ、すごむ里美から逃げるようにして部屋を後にする。その後厄介になった友人のシンジ(中尾明慶)には自分の出したゴミの後始末や、寝床の準備までやらせたために逆ギレされ部屋を半ば追い出される。さらに世話になった先輩には浮気した女を部屋に呼ぶようけしかけられ、そこもいずらくなった裕一くんは三度逃げ出すのである。

超久しぶりにスクリーンで観た気がする香里菜演じる姉ちゃんのアパート、母さん(原田美枝子)が一人暮らししている北海道苫小牧の実家も長続きせず、雪の降りしきるバス停でひとり放心状態でいたところに、突如として現れたのがその昔裕一たち家族を捨てたトヨエツ演じる父さんだった.....演劇出身の三浦大輔監督のオリジナル戯曲を映画化した本作前半は、社会的責任というか人間関係がゆるい内はまだいいが、それが想定以上に重くなってしまうことに一種の“恐怖感”をおぼえているミレニアル世代のお話だ。

終身雇用神話がバブル終焉とともに終わりを告げ、その後の失われた30年、そしてトランプの大統領就任とともに日本に突きつけられた対米依存脱却のアレゴリーのようでもあるこの物語は、おそらくフランク・キャプラ監督『素晴らしきかな、人生』をベースにした“素晴らしくなかった人生”なのだろう。映画助監督をしている裕一くんの後輩から、「先輩すごいっすね、映画みたいっす」みたいなことを言われるのだが、映画ラストの下手っぴなメタ演出とともに、なんとなくそれを匂わせている。

雪の降る晩バス停に現れたトヨエツ父さんは、『素晴らしきかな』の2級天使を意識したキャスティングだったのでは。小汚ないアパートで一人暮らし、家族や金を借りた友人たちから逃げ、パチンコで生計を立てている父さんは、社会との関係を完全に断った今の生活が「まんざらでもない」と息子に語るのだ。里美からの連絡をおそれずっとスマホの電源をオフにしていた裕一の分身ともいえるだろう。クリスマスから年末にかけての季節性も『素晴らしきかな』と一緒、裕一は父さんの部屋で“裕一=ジョージがいなくなった世界”を見せられていたのである。

母さんが倒れたとの留守番が里見から入った裕一くんは、いてもたってもいられずに今まで逃げ続けていた“表社会”にまたのこのこと舞い戻ってしまう。あり得ないことにあの放蕩父さんまで実家に戻っきてこれですべてがハッピーエンドと思いきや....が、そこからの展開が少々ぬるすぎる。香里菜やマエアツの台詞にまったくリアリティがないのがその最たる原因だ。ふと気がつくとまた元のバス停で眠りこんでいた裕一の“夢オチ”にした方がまだましだったような気がするのだ。例えばこんな風に...

[父さんと見間違えた男は実はあの晩の自転車泥棒で、裕一に追っかけられた泥棒は目の前でシンジと里美の乗った車に牽かれてしまう。母さんと香里菜姉さんは“青い水”で乾杯しあって実家で大盛り上がりの最中、ひとり途方に暮れた裕一がこうつぶやくのだ......「面白くなってきたぜ」と]トランプに相互関税24%をふっかけられて後ろ楯を完全に失った現在の日本人にふさわしいエンディングだと思うのですが、どうでしょう。

そして僕は途方に暮れる
監督 三浦大輔(2022年)
オススメ度[]


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