
エール(’ēl , エルとも音写)は、セム語派に於いて最も普通に用いられる神を指す言葉。複数形はエロヒム (Elohim) で「神々」の意だが、オリエントでは神格や王権を複数形で表わすことがあるため、旧約聖書では唯一神「ヤハウェ」の尊称として「エロヒム」が用いられている。なお、エールはヘブライ語形で、アラビア語形ではイル、イラーハ(il,ilāh)、ウガリット語形やアッカド語形でイル(il [’ilu])等という。この名は恐らく「強くある」と言う意味の語根「’wl」に由来すると考えられている。ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエルなどヘブライ語由来の天使の名に含まれる「-エル」はこの語に因む。(Wikipediaより)
Elとはスペイン語で“彼”を意味するのだから、あのミスター・ハラスメント=フランシスコのことを指している、なんて知ったかぶりをかます方が多いのだけれど、そんな見たまんまの陳腐なタイトルをあのブニュエルが自分の作品につけたりするだろうか。『忘れられた人々』(1950)や『乱暴者』(1953)で、キリストや神をダイレクトにおちょくっていたことを皆さんお忘れではないだろうか。セム語派ではまんま“神”を意味する“EL”とは、キリスト教の神のごとく傲慢な態度をみせる男フランシスコを指していることに違いはないのだが、そこにブニュエルが仕込んだブラックな意図をくみ取れないと面白くもなんともない作品なのである。
ダムエンジニア=ラウルの恋人グロリアを教会でみそめたフランシスコ。40を越えても未だ女を知らなかった童貞オヤジが、いい歳こいて女にのぼせあがったからさあ大変。資産家の一人息子であるフランシスコは、強引にグロリアを口説きおとし彼女と結婚してしまう。しかし、独占欲が強く根が嫉妬深いフランシスコは新婚旅行で早速奇行を連発、新婦グロリアを精神的に追い詰めていく。母親との面会も制限し、夫の異常性を愛妻が元恋人ラウルに相談したことを知ったフランシスコは、グロリアへの束縛をさらに強めていくのだが....
一神教であるキリスト教の神が他宗教の神に対し非寛容的なことは広く知られているが、そのアレゴリーであるフランシスコは、グロリアが他の男に接することを病的ともいえるほどに毛嫌いし、ダンスをしたり会話をしたりすることも禁止、屋敷の中に閉じ込めようと画策するのである。先祖代々受け継がれ、現在は他人が使用している土地の奪還に並々ならぬ執着心をみせるフランシスコは、その裁判での敗訴が決定的になると、とうとうあちら側の世界(発狂)へおいであそばすのである。
「私の一番好きな場所だ」と言って、愛妻を教会の鐘楼に連れていくシーンが印象的だ。尖塔の上から下界を見下ろしながら、そこに蠢く一般民衆をまるで虫けらのようにバカにし蔑むフランシスコの姿は、権威主義に凝り固まった当時のスペインカトリック教会が崇め奉る“神”そのものといってもよいだろう。しかも、その“神”は自分が普段見下している民衆の笑い者になるのが何よりも嫌いなのである。とうとう気が狂い出家したフランシスコの元へ、ラウルと結ばれたらしいグロリアが一人息子を連れて見舞いにやって来る。もしかしたらその一人息子、フランシスコ=“神”の種から生まれた神の子=イエス・キリストだったのかもしれませんね。くわばら、くわばら。
El
監督 ルイス・ブニュエル(1953年)
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