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ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

リリイ・シュシュのすべて

2007年10月30日 | 星5ツです篇
ガス・ヴァン・サント監督の『エレファント』を観て、あっちの高校生も病んでるなぁと思ったが、日本の中学生も負けず劣らず病んでいることがこの映画を観て確認できる。イジメ、万引、援交、自殺、集団レイプ、そして殺人。沖縄旅行などをして子供子供していた登場人物たちが、休み明けに突如ワル化して登校してくるシーンにはゾッとさせられる。まちがっても中学校教師にならなくて本当に良かったと胸をなでおろしたくらいだ。

岩井俊二をして自ら「遺作にしたい」と言わしめた自信作は、ヌケ感のある独特の映像美もさることながら、ハンディカメラを使ってAppleにより画像処理を施したパーソナルビデオのようなパートの編集がなんと言っても秀逸である。『ユナイテッド93』のようなドキュメンタリータッチの粗雑な映像が、役者の少年たちに素人のようなベシャリ方をさせる演出と見事にマッチしている。

少年たちが<エーテル>というエネルギーを得ることができるリリィの歌声も劇中カリスマ性を十分に漂わせているが、対照的にドビュッシーのピアノ作品が効果的に使われ、映画にリリシズムを与えているのは間違いない。妻リリィを捨てて人妻との間にシュシュという子供をもうけたドビュッシーの人生を、なぞるようなエピソードをストーリーに組み込んでもよかったのかなとも思う。リリィのファンサイトに書き込まれる投稿記事が、悩める青少年たちの心の叫びとして映像に挿入されるシーンは、まるでゴダール作品のような印象さえ受ける。

いずれにしても、大人がほとんど登場しない本作品は<子供の領分>を描いた1本であり、そこでは大人の都合のいい論理などまったく意味を持ちえない。子供としてのピュアな心を持ちながら大人としての目も養われる思春期の少年たちには、われわれ大人の世界は一体どのように映っているのだろう。たとえ聞いてみたところで、少年たちの心の叫びはリリィのせつない歌声と同様、大人たちの心にはけっして届かない。

監督 岩井俊二(2001年公開)
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