日本の風景 世界の風景

日本と世界各地の景観を、見直します。タイトルをクリックすると、目次(1)(2)(3)になります。

竹原和彦「アトピービジネス」文春新書

2006-04-25 | 世界地理
アトピー性皮膚炎は専門医によるステロイド療法で簡単に治る。しかし、その治療を途中でやめると、悪化する場合がある(リバウンド)。治療には2年も3年もかかる場合がある。
もっと簡単にということで、効果のない民間療法が、日本のあちことで考え出された。生命に影響のない病気なので民間療法が手を出しやすいし、放置しておいても治る病気なので民間療法の有効例として、宣伝効果がある。ビジネスとしても簡単に始められる。
金沢大学の皮膚科専門医竹腹和彦は、民間療法として大金をだまし取る例を「アトピービジネス」として、例をあげて糾弾している(次は110pから)。
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◆健康食品 アトピー性皮膚炎に有効とする。
外見は健康食品(霊芝、ローヤルゼリー、プルーン、有機野菜)。
販売法が医薬品(輸入ビタミン剤、乳酸菌、プロポリス)。
◆化粧品 アトピーの肌に適合する石鹸などのような化粧品。
肌の弱い者に適する化粧品、石鹸など。
アトピー性皮膚炎に有効な成分が含まれる化粧品。
◆温泉療法 皮膚病に有効な温泉がある。
温泉水の宅配。灯油宅配と同様、小型タンク車で宅配する。
特定温泉地を、アトピーに有効と宣伝する。
医師あるいは医療機関と温泉が協力し、アトピーを治療する。
◆入浴剤 薬草・野草を切り刻んだ入浴剤が多い。
ニンニクを粉末加工して入浴剤とする。
入浴剤に茶を入れたシジュウム茶を、入浴剤とする。
入浴剤に真菰(まこも)を加える。

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いずれも、驚異の治療法、脱ステロイド治療に成功、などの体験談がある。薬効を宣伝文にすると、薬事法違反になるので、患者体験談の形で宣伝している。正しいステロイド療法でほとんど治った状態で民間療法に切り替え、民間療法に効果があったかのような宣伝をしているのはまだましである。
全くのでたらめの、しかも匿名の体験談を羅列しているケースが多い。
いずれも価格が明示されていないため、薬品・器械を高値(10万~50万円)で買わされることがある。また、脱ステロイドの薬品に、ステロイドの含まれていることもある。
アトピー性皮膚炎は、専門医のステロイド療法で完治できる。完治までの長短はある。長い場合には民間治療に頼りたくなるが、気休め以上の効果はない。
あるいは、温泉の気休めでストレスが解消し、アトピー性皮膚炎が治ったという例があるかもしれないが、大部分は、ムダに大金を費やすだけである。

森岡孝二「働きすぎの時代」岩波新書

2006-04-24 | 世界地理
17時に勤務時間が終了。しかし、誰も帰ろうとしない。管理職に残業の申請せずに仕事を続ける。サービス残業、つまりタダ働きである。仕事が面白かったり、もともと性格的に与えられた仕事に十二分に熱心であったり、役職の上昇志向が強かったり、理由はともかくとして、深夜までタダで働く。管理職がサービス残業を命じなくても、タダで働くのである。
さて、24時間、まじめに働いた結果として、自殺・脳溢血・心筋梗塞などの悲劇があちこちで起こる。明確に過労が原因ならば労働災害に認定できるだろうが、場合によっては、個人の精神的肉体的欠陥が原因として、労災に認定されない。
しかし、労災と認定されて、多少の金銭的補償がアップしても、本人あるいは遺族の悲劇が解消される訳ではない。
電通社員の過労自殺について、2000年3月24日、最高裁はその判決の中で、会社(電通)が労働者に過重労働を強いるような職場環境を作り上げ、健康配慮義務を怠ったことを、厳しく批判した。
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労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷などが過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。労働基準法は、労働時間に関する制限を定め、労働安全衛生法65条3は、作業の内容を特に限定することなく、同法所定の事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めているが、それは右のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。
これらのことからすれば、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行にともなう疲労や心理的負荷などが過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。
(「働きすぎの時代」p143)

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なぜ、どこの職場も死ぬまでは過労死寸前まで働く状況を作り出したのだろうか。
経済のグローバル化によって、インド・中国・ASEANなどの低賃金諸国と競争するようになったためである。経営者は、正社員は過労死寸前まで働かないとクビになるような職場環境を演出する。
一方、正社員とほとんど同じ仕事の、派遣・パート・アルバイトは生活保護家庭以下の収入しかない。
発展途上国の低賃金労働者と、まともに競争すると、当然の結果である。なお、日本の年間自殺者数3万人は異常である。

図書館活動、文部大臣賞を受賞

2006-04-23 | 世界地理
毎朝10分間の読書活動が、図書館活動を活発にさせた結果、2006年4月23日、文部科学大臣から表彰されました。
朝の読書活動は図書館とは別組織の活性化推進部が運営しています。全教職員が交代で10分間で読める程度のコラムなどを、A4表裏にプリント配布しています。
毎朝10分間の読書の教室内の指導は、学級担任が行っています。10分間の読書に続いて、朝のHRになります。
図書館は図書部が運営しています。図書館の利用者が増えて、読書が盛んになっています。朝の10分間の読書を導入したことで、遅刻する生徒が減ったという効果もあるようです。


荒畑寒村「谷中村滅亡史」岩波文庫

2006-04-17 | 世界地理
荒畑寒村「谷中村滅亡史」岩波文庫(1999)
日本の「公害の原点」が足尾銅山の鉱毒被害である。明治10年に明治政府が古河財閥に足尾鉱山を払い下げてから、鉱山からの煙害と燃料調達のための樹木伐採とにより、足尾村では緑地が失われ、土砂崩れと洪水が頻発するようになった。「日本のグランドキャニオン」と皮肉を込めて、その異様な光景が語られた。足尾銅山から排出されるヒ素・硫酸銅などの鉱毒水が、渡良瀬川に流入して、川漁師の生活を破壊した。水田のイネは立ち枯れした。堤防は植物が枯れて細くなり、洪水の恐れも強くなった。明治35年、渡良瀬川の洪水は、利根川の古い流路を通り、東京都心にまで達した。
谷中村を渡良瀬川遊水池とし、洪水の時には鉱毒水を一時的に貯留しておき、あとでゆっくり、利根川へ流す計画が持ち上がった。足尾銅山と東京都心を救うために、谷中村を廃村とする計画であった。田中正造らは反対運動に立ち上がった。しかし、現在の公共事業と同様、政府・財界が一体となって、渡良瀬川遊水池計画を強行した。田中正造は政府から狂人の烙印を押された。谷中村を守ろうとする者は田中正造ら、わずかの人数になってしまった。
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鉱毒問題最後の運動地たる谷中村は、ついにかくのごとくにして滅亡せり。明治政府の権力と、資本家の金力とは、彼らの計画通り、谷中村を滅亡せしめて終わるなり。陸奥宗光逝き、古河市兵衛逝き、陸奥の次男にして古河の養嗣子たりし古河潤吉もまた逝けり。
そして、古河及び陸奥によりて企てられたる鉱毒問題の埋没は、経済的には古河の雇い人にして、政治的には陸奥の子分たりし、現内務大臣原敬の手によりて、流々仕上げられたるを見よ。紳士閥はこれによって、初めて安堵の胸をなで下ろせしなるべく、英断を以てこれを決行せし原内閣は、ひそかに得意の鼻をうごかせるなるべく、しかりそして、地下の陸奥や、古河や、またまさに手を打ち、舌を吐いて、子孫の繁栄と、紳士閥階級の万歳のために、歓喜しつつなるべし。
(谷中村滅亡史148p)

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古河財閥と陸奥宗光が、足尾鉱山の鉱毒を沈澱処理するために渡良瀬川遊水池を計画した。元古河財閥幹部であった原敬が、政界に進出して内務大臣の地位にあった時、谷中村住民を追い出し、渡良瀬遊水池を完成させた。利根川・渡良瀬川合流点に広大な遊水池ができた。この結果、利根川が渡良瀬川と合流して、東京に流れて洪水を起こす危険性を減らすことが可能になった。現在、渡良瀬遊水池には有毒成分はなく、東京都の上水道源として利用されている。
「谷中村滅亡史」は荒畑寒村(1887~1981)が20歳の時の文章である。文体は古いが、社会を見る目が新しく、鋭い。


常識「日本の安全保障」文春文庫

2006-04-14 | 世界地理
自衛戦争と侵略戦争
1946年6月28日、衆議院本会議において吉田茂首相に共産党野坂参三が、戦争放棄の条項について、質問した。
野坂参三
「戦争には不正な侵略戦争がある。侵略された国が自国を守る戦争は正しい戦争である。憲法では戦争一般を放棄するのではなく、侵略戦争を放棄するのが的確である」

吉田首相
「近年の戦争は国家防衛を名目に行われた。故に、国家としての正当防衛権を認めると、戦争を誘発することになる。正当防衛権を認めることは、有害無益と考える」

現在の共産党と自民党が、立場を変えたような議論が行われた。侵略とは何か、簡単には結論を得られない。
国連で、朝鮮戦争を契機に侵略とは何か、審議が重ねられ、1974年12月やっと国連総会で採択された。
この定義によれば、ブッシュ米大統領は、2001年9月11日テロをイラクが操る侵略戦争とみなし、予防先制攻撃を行うとした(ブッシュドクトリン)。しかし、アメリカへのテロがイラクの国家的侵略なのか、イラクを軍事攻撃するのがアメリカの自衛となるのか、疑問である。

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国際連合「侵略の定義に関する決議」(1974)

第一条(侵略の定義)
侵略とは、国家による他の国家の主権、領土保全若しくは政治的独立に対する、又は国際連合の憲章と両立しないその他の方法による武力の行使であ って、この定義に述べられているものをいう。

第二条(武力の最初の使用)
国家による国際連合憲章に違反する武力の最初の使用は、侵略行為の一応の証拠を構成する。ただし、安全保障理事会は、国際連合憲章に従い、侵略行為が行われたとの決定が他の関連状況(当該行為又はその結果が十分な重大性を有するものではないという事実を含む。)に照らして正当に評価されないとの結論を下すことができる。

第三条(侵略行為)
次に掲げる行為は、いずれも宣戦布告の有無に関わりなく、二条の規定に従うことを条件として、侵略行為とされる。
(a) 一国の軍隊による他国の領域に対する侵略若しくは、攻撃、一時的なものであってもかかる侵入若しくは攻撃の結果もたらせられる軍事占領、又は武力の行使による他国の全部若しくは一部の併合
(b) 一国の軍隊による他国の領域に対する砲爆撃、又は国に一国による他国の領域に対する兵器の使用
(c) 一国の軍隊による他国の港又は沿岸の封鎖
(d) 一国の軍隊による他国の陸軍、海軍若しくは空軍又は船隊若しくは航空隊に関する攻撃
(e) 受入国との合意にもとづきその国の領域内にある軍隊の当該合意において定められている条件に反する使用、又は、当該合意の終了後のかかる領域内における当該軍隊の駐留の継続
(f) 他国の使用に供した領域を、当該他国が第三国に対する侵略行為を行うために使用することを許容する国家の行為
(g) 上記の諸行為い相当する重大性を有する武力行為を他国に対して実行する武装した集団、団体、不正規兵又は傭兵の国家による若しくは国家のための派遣、又はかかる行為に対する国家の実質的関与

第四条(前条以外の行為)
前条に列挙された行為は網羅的なものではなく、安全保障理事会は、その他の行為が憲章の規定の下で侵略を構成すると決定することができる。

第五条(侵略の国際責任)
政治的、経済的、軍事的又はその他のいかなる性質の事由も侵略を正当化するものではない。侵略戦争は、国際の平和に対する犯罪である。侵略は、国際責任を生じさせる。 侵略の結果もたらせられるいかなる領域の取得又は特殊権益も合法的なものではなく、また合法的なものととし承認されてはならない。

第六条(憲章との関係)
この定義中のいかなる規定も、特に武力の行使が合法的である場合に関する規定を含めて、憲章の範囲をいかなる意味においても拡大し、又は縮小するものと解してはならない。

第七条(自決権)
この定義中のいかなる規定も、特に、第三条は、「国際連合憲章に従った諸国家間の友好関係と協力に関する国際法の諸原則についての宣言」に言及されている。その権 利を強制的に奪われている人民の、特に植民地体制、人種差別体制その他の形態の外国支配化の下にあ る人民の、憲章から導かれる自決、自由及び独立の権利を、また国際連合諸原則及び上記の宣言に従いその目的のために闘争し、支援を求め、かつ、これを受け入れるこれらの人民の権 利をいかなる意味においても害するものとするものではない。

第八条(規定の解釈)
上記の諸規定は、その解釈及び適用上、相互に関連するものであり、各規定は、他の規定との関連において解されなければならない。

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イラクがクウェートに軍事侵攻して油田を占領したのは、軍事侵略でみなすことができる。国連は、湾岸戦争は軍事侵略に対しての正当な軍事行動とみなしている。
しかし、ブッシュ米大統領のイラク戦争には、それを正当化するような国連決議はなかった。


職場崩壊(週間エコノミスト.2006.03.14)

2006-04-11 | 世界地理
週刊誌にも、皇室・芸能界記事を並べるのではなく、社会の本質にせまろうとする面白い週刊誌がある。田舎の書店にはないが、毎日新聞社の経済専門週刊誌「エコノミスト」が、労働者の立場で職場の乱れを告発している。
トヨタ自動車は生産台数では世界第1位、売上金額でも世界第1位。製造ラインの共用、部品の統一、労働者の効率的配置などの成果であるらしい。
期間工つまり季節出稼ぎ労働者が、就労1日目から自動車を組み立てられるように、仕事が単純化されている。仕事は朝6時30分から午後3時まで、昼食・休憩時間は勤務時間外で無給。寮と食費を引かれ、残業を加え、月収はほぼ20万円。
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世界中の生産現場での急ピッチでも増産、利益を捻出するための飽くなき「カイゼン」によるギリギリの効率化、正社員と非正社員との格差問題が、生産現場に暗い影を落としている。
その象徴が、最近のリコールの急増である。
2003年5件、93万台。
2004年9件、188万台。
トヨタ広報部は「部品の共通化が原因」と説明する。
部品の共通化はコスト削減に加え、品質管理しやすい、というメリットがある。2005年末から、bB、エスティマ、ラッシュ、カムリの新型車を、ハイペースで発売した。これらの新型車は、共通の部品が使われている。
しかし、「部品の品質管理がしっかりできていないと、1個の部品の欠陥で、数十万台のリコールを出す事態に発展する」(業界関係者)。
2005年10月には1件で127万台のリコールを出した。

トヨタが本社を置く愛知県では工場従業員の不足が深刻な問題である。部品メーカーは期間工や人材派遣で補っている。人件費の節約にはなるし、生産量の変動にも柔軟に対応できる利点はある。しかし、外部の人間と正社員との待遇格差は大きいため、外部の人間の不満は大きい。高い品質を維持するのが難しくなっている。
(エコノミスト、2006.3.14)

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トヨタが国内外に工場を建設しているのは、低賃金を求めてのことである。ライン(流れ作業)の仕事が始まると、見張りの目つきがきつくて、トイレに行くのは2時間後の休憩時間までお預けである。ラインの速度も、労働者の動く限界まで、少しずつスピードアップされる。ラインと一体化しなくてはならない。
長く勤めるのは難しい職場であり、労働力の使い捨てで成り立っている。したがって、事情を知るものはトヨタとその系列工場では働かない。
手元に残る賃金が20万円というのは、余りに低い。20年前の出稼ぎは、のんびり働いて、月30万円は手元に残ったものである。