goo blog サービス終了のお知らせ 

長靴を履いた開高健

小説家開高健が書かなかった釣師開高健の姿や言葉などあれこれ

YouTubeで視聴できる「ベトコン少年の公開処刑」

2010-04-19 20:51:33 | ■Fish & Tips(うんちく・小ネタ)

1965年1月29日の早朝、1人のベトコン少年が公開処刑された。銃殺だ。10人の憲兵が10挺のライフルで少年を撃ち、直後に将校がこめかみにとどめの一撃を打ち込んだ。

その現場に、朝日新聞の特派員としてベトナム戦争に従軍していた開高健も居合わせた。

『銃音がとどろいたとき、私のなかの何かが粉砕された。膝がふるえ、熱い汗が全身を浸し、むかむかと吐き気がこみあげた。』(『ベトナム戦記』朝日新聞社刊)

このシーンは小説家の脳裏に鮮明に焼き付いて生涯消えることがなかった。35年後に発表された遺作『珠玉』(文藝春秋刊)のなかにも、この処刑シーンが登場する。

『引金がひかれると学生の首、胸、腹などにいくつもの小さな黒い穴があき、血がひくひくしながらいっせいに流れだして、腿を浸し、膝を浸す。学生はうなだれたままゆっくりと頭を二度か三度ふる。』

58歳の若さでなくなった小説家の死を悼んで編まれた『悠々として急げ 追悼開高健』(筑摩書房刊)の中に、妻であり詩人であった牧洋子(故人)の次のような言葉が紹介されている。

『苦しいときでも、例えばジョークで、いつもエンターテインしようとした男でした。そんないっときの歓楽に身をゆだねているような男でした。それはやはり、ベトナムで見た少年の処刑ですよ。あらから何をやってもいつも空しいという思いから抜け出せなくなってしまった。』

--『長靴を履いた開高健』(小学館刊)より--

驚いたことに、40年以上前のこの公開処刑の動画をYouTubeで見ることができる。ここにその動画を貼り付けようかとも思ったが、思いとどまった。1人の人間の命が無惨に散っていく様を興味本位で紹介してはいけないと思ったからだ。

この動画を見て感じたことはただひとつ、写真や動画がいくら克明にその場を写し取っていたとしても、パソコンの画面を通して見る限り、小説家が感じたような“何かが粉砕されるような衝撃”は伝わってこない。それが逆に怖いと思った。何発もの銃弾を浴びてガクッと崩れ落ちるベトコン少年の姿をPCの画面で冷静に見ている自分が怖いと思った。私だけではないだろう。テレビの前で、パソコンの前で、我々は毎日多くの死に接しながら、ほとんど何も感じなくなっている。

にほんブログ村 本ブログ 作家・小説家へ
にほんブログ村


最新の画像もっと見る

コメントを投稿