釣師・開高健に最も影響を与えた人物はダグラス・パーキンソンだと私は思っている。
ダグラス・パーキンソンの名前を記憶している人はまず誰もいないと思う。「フィッシュ・オン」の第一章アラスカ編に登場するカリフォルニア出身の若いフィッシングガイドである。
釣った魚の正しいリリース法を小説家に教えたのが彼である。釣り上げた魚は疲れ切っているので、そのまま放すと、ときに溺れてしまうことがある。魚が水に溺れる。そのことを教えたのも彼だ。
三本鈎のついたルアーを使おうとする小説家に、「一本鈎(シングル・フック)です」と諭したのもパーキンソン君だ。
つまり、キャッチ&リリースと、厳格な川のレギュレーションのイロハとそれを厳守するマナーを小説家に教えたのがダグラス・パーキンソン君なのである。
この二つの教えこそが、釣師・開高健の釣りのスタイルのバックボーンになるのである。だからこそ釣師・開高健に最も影響を与えたのはダグラス・パーキンソン君だと考えるわけである。