長靴を履いた開高健

小説家開高健が書かなかった釣師開高健の姿や言葉などあれこれ

ラピタ05年1月号カメラマンが見たオーパ!

2005-06-19 09:29:02 | 「ラピタ」バックナンバー
takahasi


 見渡す限りの水平線。日差しを柔らかく反射して輝く水面。水の中に起立している1本の木。そのすべてがオリーブ色のグラデーションで描き出されている1枚の写真。
 キャプションにはこう記されている。
《水平線にたった一本の木が生える。これがアマゾン風景の典型である。水がひくとこの木の下から島が出てくる。》
 全日程65日、全行程1万6000キロにおよんだアマゾン大釣行の取材中に、カメラマン・高橋さんが撮影したフィルムは実に700本近くにもなるという。2万5000回近くシャッターを押した計算になる。
 膨大な写真の中から高橋さん自身が吟味、厳選した写真約350枚(カラー約30枚・モノクロ約50枚)が『オーパ!』に収録されているが、その中で高橋さんにとってもっとも思い出深いのが冒頭の写真である。高橋さんがそういうのである。
 鋭い牙をむき出しにしたピラニヤの写真でもなく、水しぶきをあげて跳躍する一瞬をとらえたトクナレの写真でもなく、アマゾンの泥ガニを食べて恍惚陶酔する小説家の写真でもなく、無際限に広がる空と水の間に名のある華道家が1本だけ木を活けたようなアマゾンの風景写真がもっとも思い出深い、と。
「(開高)先生にはじめて会ったときに“魚がルアーをくわえてジャンプした瞬間を撮ってほしいんや”といわれたけど、それ以外は写真に関して先生から注文をつけられたことは一度もない。ただ、2回だけ確認の意味で聞かれたことがある」
『高橋君、水平線に木が1本ぽつんと立っている風景があったんだけど、あれどうした?』
『撮ってます』
『あぁ、そう・・』
「その風景を見てから3日くらい経った後で、そう聞かれた。先生にとっても印象深い風景だったんだろうな。そういうことがもう1回あったけど、写真について先生が何かいったというのは長い旅の中でその2回だけ」
 帰国後しばらくして高橋さんはこの写真を引き伸ばし、パネルにして、当時付き合っていた女性にプレゼントし、そしてプロポーズした。それが今の奥さんだ。東京・赤坂にある貝料理の専門店『貝作』の女将、三重子さんだ。
 そのパネルは今も自宅に飾ってあるという。(以下、略)

※写真は『オーパ!』(集英社)より。撮影・高橋