長靴を履いた開高健

小説家開高健が書かなかった釣師開高健の姿や言葉などあれこれ

た|漂えど沈まず

2010-04-30 20:19:28 | ■開高健辞典(名言・金言)

長靴を履いた開高健 (朝日文庫 た 55‐1) 長靴を履いた開高健 (朝日文庫 た 55‐1)
価格:¥ 735(税込)
発売日:2010-05-07
た|漂えど沈まず

 漂えど沈まず。--開高健が残した名言の中でもとくに人気の高い名言中の名言だ。ランキングをつけるならば間違いなくベスト・テン以内に入る。

 開高健の言葉として有名だが、しかし、これは開高健の言葉ではない。開高健自身が書いているところによれば、これはパリの街のスローガンである。パリが“ルテチア”と呼ばれていた頃から、《漂えど沈まず》がパリのスローガンであり、パリ市の紋章にその文言が記されている。

 含蓄のある言葉で、いろいろな解釈ができるが、開高健は「男が人生をわたっていくときの本質を鋭くついた言葉ではあるまいか」と書き残している。

ベトナム戦争を舞台とした『輝ける闇』、本人をして第二の処女作と言わしめた『夏の闇』、それに続く闇三部作の最後の作品の冒頭、1行目に《漂えど沈まず。》と書き留めたまま、開高健はその先が書けなくなってしまう。十数年間書けない状態が続き、書けないままこの世を去ってしまうのである。

 開高健の死後、未完の小説は『花終わる闇』(250枚)と題されて『新潮』(1990年2月号)に掲載される。

『輝ける闇』『夏の闇』、そして『花終わる闇』の3作品を総称し《漂えど沈まず》」と冠される予定だったともいう。
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新発見!「裸の王様」の草稿や「夏の闇」の創作メモなど

2010-04-25 16:40:51 | ■知の喜び(NEWS)

「裸の王様」の草稿や「夏の闇」の創作メモなど約50点が新たに見つかったそうだ。
生誕80年を盛り上げるために、関係者が一生懸命さがした成果なのだろう。

現在、開高健記念館として公開されている茅ヶ崎邸に、少し前までまだ手つかずの場所があったが、あそこはもう手をつけたのだろうか?

以下、asahi.com(4月20日)より転載。

作家・開高健(1930~89)の芥川賞受賞作「裸の王様」の草稿や、自身が第2のデビュー作と位置づける作品「夏の闇」の創作メモなど約50点が見つかった。開高の創作過程を伝えるメモや草稿はほとんど残っていないため、創作イメージをどう膨らませたのかが分かる貴重な資料だという。

見つかったのは、すべて400字や200字詰めの原稿用紙。大半がペン書きだった。遺品を保存する開高健記念会が、開高の自宅や仕事場を整理中に見つけたという。「夏の闇」の創作メモは70年ごろ、構想を練っていた際に書かれたと見られる。ベトナム戦争を体験した主人公「私」らのセリフやエピソードが羅列してあり、作中に盛り込んだものについては線を引いて消してあった。

草稿は51年~59年ごろのもので、中国を舞台にした「流亡記」や、青年期の苦悩をつづった習作も残されていた。

今回の資料は6月12日から横浜市の神奈川近代文学館で展示される。(高津祐典)

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「長靴を履いた開高健」(文庫本)出版のお知らせ

2010-04-25 11:39:47 | ■単行本「長靴を履いた開高健」書評他

長靴を履いた開高健 (ラピタ・ブックス) 長靴を履いた開高健 (ラピタ・ブックス)
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2006-05
長靴を履いた開高健 長靴を履いた開高健
価格:¥ 735(税込)
発売日:2010-05-07
2006年に小学館から出した「長靴を履いた開高健」がこのほど文庫本になり、朝日文庫(朝日新聞出版)から出版されることになりました。5月の連休明けくらいには書店に並んでいると思います。

一家に一冊常備すれば必ずや貴家に虹と繁栄をもたらすでしょう・・・と開高さん流のセールストーク。

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オーパ直筆版

2010-04-21 08:26:42 | ■Paper Fish(関連書籍)

直筆原稿版 オーパ! 直筆原稿版 オーパ!
価格:¥ 3,150(税込)
発売日:2010-04-26
『夏の闇』に続いて、開高健の代表作の一つ『オーパ!』の直筆版が発売された。小説家の肉筆原稿をそのまま商品化したものだ。加筆、削除、書き直しをそのまま見ることができる。小説家の推敲ぶりが見て取れる貴重な資料であり、ファンにとってはまさに垂涎といっていいだろう。

だが、しかし、だ。

小説家は果たして自らの肉筆が世間に晒されることをどう思っているだろう?

喜んでいるだろうか? 少なくとも望んではいないはずだ。

小説家が書いたものが作品化されるのではなく、商品化されることに私自身は違和感を覚えずに入られない。

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YouTubeで視聴できる「ベトコン少年の公開処刑」

2010-04-19 20:51:33 | ■Fish & Tips(うんちく・小ネタ)

1965年1月29日の早朝、1人のベトコン少年が公開処刑された。銃殺だ。10人の憲兵が10挺のライフルで少年を撃ち、直後に将校がこめかみにとどめの一撃を打ち込んだ。

その現場に、朝日新聞の特派員としてベトナム戦争に従軍していた開高健も居合わせた。

『銃音がとどろいたとき、私のなかの何かが粉砕された。膝がふるえ、熱い汗が全身を浸し、むかむかと吐き気がこみあげた。』(『ベトナム戦記』朝日新聞社刊)

このシーンは小説家の脳裏に鮮明に焼き付いて生涯消えることがなかった。35年後に発表された遺作『珠玉』(文藝春秋刊)のなかにも、この処刑シーンが登場する。

『引金がひかれると学生の首、胸、腹などにいくつもの小さな黒い穴があき、血がひくひくしながらいっせいに流れだして、腿を浸し、膝を浸す。学生はうなだれたままゆっくりと頭を二度か三度ふる。』

58歳の若さでなくなった小説家の死を悼んで編まれた『悠々として急げ 追悼開高健』(筑摩書房刊)の中に、妻であり詩人であった牧洋子(故人)の次のような言葉が紹介されている。

『苦しいときでも、例えばジョークで、いつもエンターテインしようとした男でした。そんないっときの歓楽に身をゆだねているような男でした。それはやはり、ベトナムで見た少年の処刑ですよ。あらから何をやってもいつも空しいという思いから抜け出せなくなってしまった。』

--『長靴を履いた開高健』(小学館刊)より--

驚いたことに、40年以上前のこの公開処刑の動画をYouTubeで見ることができる。ここにその動画を貼り付けようかとも思ったが、思いとどまった。1人の人間の命が無惨に散っていく様を興味本位で紹介してはいけないと思ったからだ。

この動画を見て感じたことはただひとつ、写真や動画がいくら克明にその場を写し取っていたとしても、パソコンの画面を通して見る限り、小説家が感じたような“何かが粉砕されるような衝撃”は伝わってこない。それが逆に怖いと思った。何発もの銃弾を浴びてガクッと崩れ落ちるベトコン少年の姿をPCの画面で冷静に見ている自分が怖いと思った。私だけではないだろう。テレビの前で、パソコンの前で、我々は毎日多くの死に接しながら、ほとんど何も感じなくなっている。

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