日常と考えるヒント < By Taki Katayama >

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シェークスピアの面白さとは?

2019-01-17 | 論及
先日、友人よりシェークスピアの面白さは何か?と言う質問を受けた。以前、シェークスピアを何冊か読んだものの、私自身も、未だにシェークスピアの良さ、面白さを余り理解出来ぬまま今日に至っている。もう一度、考えてみたい。

誰しもシェークスピアと言う名前を聞けば、16世紀後半のイギリスの劇作家、「ロミオとジュリエット」、「ベニスの商人」、「リチャード3世」、「ハムレット」等々の作品を描いた劇作家である程度のことは、理解しているであろう。シェークスピアの魅力とは、一体、何んなんだろうか?彼の作品を取り出し考えてみてみたい。



( I )シェクスピアは、どんな人物だったのだろうか?

ウィリアム・シェイクスピア (William Shakespeare、1564-1616)


劇作家、詩人。1564年、父ジョン・シェクスピア、母メアリーの第3子の長男として、ストラットフォード・アポン・エイボンに生まれる。比較的裕福な家庭で育つ。
12才(1576年)の時、靴職人をしていた父が事業に失敗、貧困状態に陥る。
18才(1582年)の時、8才年上の女性アン・ハサウエイと結婚。3人の子供(長女、双子の男女)を儲ける。
21才(1585年)の時、ロンドンに上京、役者となる。役者として演劇に携わる側ら1592年頃から戯曲を書き始め生活費を稼ぐ。
32才(1596年)、息子11才で他界。32才(1599年)、グローブ座が開場。グローブ座の経営者の一人となる。44才(1608年)、グローブ座、ブラックライアーズ座の2つの劇場を持っており、ロンドンと故郷を行き来していた。
52才(1616年)、故郷で他界。



( II )作品の書かれた時期から、作品を以下の4つに分類している。

第1期(1590-1596)初期の歴史劇、喜劇
ヘンリー六世 第1部(Henry VI, Part 1、1589年 - 1590年)
ヘンリー六世 第2部(Henry VI, Part 2、1590年 - 1591年)
ヘンリー六世 第3部(Henry VI, Part 3、1590年 - 1591年)
リチャード三世(Richard III、1592年 - 1593年)
間違いの喜劇(Comedy of Errors、1592年 - 1594年)                 
タイタス・アンドロニカス(Titus Andronicus、1593 - 94年)                 
じゃじゃ馬ならし(Taming of the Shrew、1593年 - 1594年)                    
ヴェローナの二紳士(The Two Gentlemen of Verona、1594年)                        
恋の骨折り損( Love's Labour's Lost、1594年 - 1595年)                           
ロミオとジュリエット(Romeo and Juliet、1595 - 96年)                 
リチャード二世(Richard II、1595年)                                    
夏の夜の夢(A Midsummer Night's Dream、1595年 - 96年)                                 
ヴィーナスとアドーニス(Venus and Adonis)                                  
ルークリース凌辱(The Rape of Lucrece)                                  
ソネット集(The Sonnets)

第2期(1596-1601)円熟期の喜劇、                                
ジョン王(King John、1594年 - 1596年)                       
ヴェニスの商人(The Merchant of Venice、1596年 - 1597年)              
ヘンリー四世 第1部(Henry IV , Part 1、1596年 - 1597年)               
ヘンリー四世 第2部(Henry IV, Part 2、1598年)
空騒ぎ(Much Ado About Nothing、1598年 - 1599年)
ヘンリー五世(Henry V、1599年)
ジュリアス・シーザー(Julius Caesar、1599年)
お気に召すまま(As You Like It、1599年)
十二夜(Twelfth Night, or What You Will、1601年 - 1602年)
ウィンザーの陽気な女房たち(The Merry Wives of Windsor、1597年)

第3期(1600-1608)悲劇、問題劇、
ハムレット(Hamlet、1600 - 01年)
トロイラスとクレシダ(Troilus and Cressida、1601 - 02年)
終わりよければ全てよし(All's Well That Ends Well、1602年 - 1603年)
尺には尺を(Measure for Measure、1604年)
オセロー(Othello、1604年)
マクベス(Macbeth、1606年)
リア王(King Lear、1605年)
アントニーとクレオパトラ(Antony and Cleopatra、1606年 - 1607年)
コリオレイナス(Coriolanus、1607年 - 1608年)
アテネのタイモン(Timon of Athens、1607年 - 1608年)

第4期(1608-1612)ロマンス劇(Tragy Comedy)
ペリクリーズ(Pericles, Prince of Tyre、1607年 - 1608年)
シンベリン(Cymbeline、1609 - 10年)
冬物語(The Winter's Tale、1610年 - 1611年)
テンペスト(The Tempest、1611年)

( III ) 作品をどう考えれば良いのか?
シェクスピア作品と言えば、円熟期に書かれた4大悲劇の一つである「ハムレット」であり、これを題材に考えてみたい。

1.作品の背景:
・この作品は、エリザベス朝(1558-1603)時代のルネッサンス期に書かれた。
・この時期は、人間探求、人間回復、知的探求が盛んに行われていた。それは、神中心の整然とした階層秩序を根幹とする中世教会の世界観とそれを打ち破ろうとする懐疑的リアリズム、奔放な人間解放精神との二つの潮の衝突と干渉の時代であった。



2.作品の特徴:
・1602年に出版された戯曲で、原作は、古いデンマーク伝説ともトマース・キットの「スペインの悲劇」とも言われている。
・シェークスピア(1564-1616)作品は、その特徴から4期に分類され、この作品は、第3期(1600-1608)の円熟期に書かれた4大悲劇の1つである。
・作品は、デンマーク王子ハムレットの復讐劇であるが、復讐劇として始まりながら生きているとは何かと言う問題に筋が移っている。



3.文芸批評と感想:
・この作品の筋立ては、比較的分り易く単調であり、支離滅裂なところも感じられるが、主人公や登場人物の言葉、暗示的台詞、猥雑な口述も散りばめられており、戯曲として観客を飽きさせない手法で書かれている。

・恐らくこの当時は、大掛かりな舞台装置が無かったので、言葉を巧みに操ることで観客を楽しませる為に、この様な手法が用いられたのではなかろうか。そして、その様な手法を用いることで、受け手に人間の悩みや、人間らしさ、人間探求の幅、知的好奇心を与えるものになったと思われる。

・例えば、第1幕1場では、亡霊に対する表現として、「this thing → this dreaded sight →apparition」と変えて観客の想像力を引き出そうとしていることからも分かる。

また、第1幕2場では、「Frailty, the name is woman,」、第3幕1場では、「To be, or not to be, that is a question.」等の暗示的表現があるが、実に観客や読み手の興味を誘い想像力を働かせてくれる。

・とすると何かが、1)原文の中にありそうなこと、2)数々の言葉や暗示的表現を楽しめそうなこと、3)猥雑な破壊的表現の中に人間らしさが発見できる楽しみがありそうなことなのかも知れない。勿論、この感じ方は、人それぞれであろうが、これがシェークスピアの面白さなのかも知れない。

ただ、どうしても理解できないのは、多くの研究者が、シェークスピア作品の夫々の文脈より、「オイデップス・コンプレックス」、「家父長制への抵抗」等々の深読みをしているが、本当にシェクスピアは、そんなことを意識して戯曲を書いていたのだろうかと言う点である。

勿論、上述した時代背景の影響は、充分受けていたであろうが、恐らくシェークスピアは、“この劇が如何に大衆に受け入れられるだろうか”、“大衆の興味をどの様な方法で誘発し、観客を楽しませることが出来るだろうか”を、日夜、考えていた気がしてならない。その結果、言葉を巧みに操り、暗示的表現を散りばめ(言葉、暗示的表現は、注参照)、興味を誘い想像力を働かせる結果となり、それが、シェークスピア戯曲の面白さなのではないかと感じている。さて皆さんは、どう感じるのだろうか!ヒントになれば幸いである。

なを、シェークスピアに関する書籍は、数多くあるが、色々読んだ中で、中野好夫の”シェークスピアの面白さ”(講談社文芸文庫 1,620円、新潮選書 2,100円)が一番分り易く、お勧めです。



注)言葉の遊び例と主な暗示的表現:
A horse, a horse! My kingdom for a horse!
馬だ!馬をよこせ!馬1頭で王国をくれてやる (リチャード3世 第5第4)

There’s a time for all things.
何事にも潮時がある (間違いの喜劇 第2第2)

He jests at scars that never felt a wound.
傷を負ったことが無い奴が他人の傷をあざ笑うのだ (ロメオとジュリエット 第2第2)
Virtue itself turns vice, being miss applied.
美徳も使い道を誤れば悪徳となる (ロメオとジュリエット 第2第3)

Et tu, Brute? 
ブルータス おまえもか? (ジュリアス・シーザー)

All the world’s a stage, And all the men and women merely players.
この世全ては、舞台、人間誰しも唯の役者(お気にめすまま 第2第7)

This thing → This dreaded sight → apparition
亡霊に対する表現の変化 (ハムレット 第1第1)
Frailty, the name is woman.
弱き者、汝の名は女 (ハムレット 第1第2)
There are more things in heaven and earth, Than are dreamt of in your philosophy.
人間の知識では想像もできないことが、この天と地にはあるんだ (ハムレット 第1第5)
Brevity is the soul of wit.
簡潔こそ知恵のみせどころ (ハムレット 第2第2)
There is nothing either good or bad but thinking makes it so.
良いも悪いも人の判断次第 (ハムレット 第2第2)
To be, or not to be, that is the question.
生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ (ハムレット 第3第1)

Our remedies oft in ourselves do lie which we ascribe to heaven.
運命は星次第だけれど、しばしば努力でどうにかなるものだよ(終わり良ければ全て良し 第1第1)

The worst is not, So long as we can say, “This is the worst.”
「これぞどん底」と言えるうちは、未だどん底でない (リア王 第4第1)





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