Takahiko Shirai Blog

記録「白井喬彦」

古い創作詩 「キャラバン」

2005-04-30 08:04:22 | 文学
中東の沙漠の中で仕事をしていた若い頃を思い出して創作した詩です。


「キャラバン」の文字をクリックしてください



空は青みを増し、
星影が溶解していく。
私は広場を過(よぎ)り、
城門にひとり佇む。

私は思いを巡らす、
この街での日々のことを。
そして、この豊かなオアシス都市を後にし、
次の地を目指す
今日一日の行程のことを。

一頭の駱駝。
僅かな積荷。
私自身の肉体。
それだけを従える
ささやかなキャラバン。

あ、空が燃え始めた。
色彩が変化していく。
虚無空間を支配する両王、
その大気と砂粒が燃え上がった。
砂漠の二界に充満していく光。
真紅に彩られた無人の王国。

その時、
古(いにしえ)のペルシャ詩人、
あのオマルがたたえたように、
光の投げ縄がするすると伸び、
ミナレットの先端を捕らえた。
出発の時刻((とき)がきた。

私は歩む、
流動する砂の斜面を。
風が越えていく。
風紋が一瞬生じ、消え失せる。
聴覚器官の最底部を響かせる連続音。
あらゆる砂粒がせめぎあっているのだ。

そして、砂丘の頂に立てば、
遥か地平まで白く輝いて連なる
無数のサンド・デューン。
それらを越えて、
無事辿りつけるであろうか。
次なるオアシスの地。
男達が集いさざめくタバン。
冷たい風が吹き込んでくる心地よいサライに、
無事身を横たえることができるだろうか。

私は歩み続ける、
流動する砂の斜面を。
風が越えていく。
サボテンが赤い花をつけている。
風紋が一瞬生じ、消え失せる。
連続音が聴覚器官を響かせている。
あらゆる砂粒がせめぎあっている。

私は夢見る、
次なるオアシスのことを。
人々の声が聞こえる。
低音のリフレーン。
あ、子供達の声も聞こえる。
彼らは温かく迎えてくれるだろうか。
風が越えていく。
連続音が聴覚器官を響かせている。
私は歩み続ける、
流動する砂の斜面を。

頭上の太陽が身を焼き続ける。
風が容赦なく水分を奪っていく。
体力が消耗していく。
私は夢見る、
次なるオアシスのことを。
人々の声が再び聞こえる・・・

彼らは温かく迎えてくれるだろうか。
冷たい水がたっぷりと入ったポットを、
快く出してくれるだろうか。
棗椰子林から涼風が吹き込む
小さなサライのベッドの上で、
今宵の眠りをとれるだろうか。

私は歩み続ける、
流動する砂の斜面を。
風が越えていく。
風紋が一瞬生じ、
そして、一瞬にして消え失せる。


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