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ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ヘレン・メリル/ザ・ニアネス・オヴ・ユー

2025-06-23 21:22:23 | ジャズ(ヴォーカル)

本日はヘレン・メリルを取り上げたいと思います。メリルと言えば何と言っても1954年の「ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン」。天才トランぺッターのブラウンを伴奏に迎え、彼女が"ニューヨークのため息"と称された独特のハスキーヴォイスを全編で聴かせる名盤で、特にオープニングの”You’d Be So Nice To Come Home To"は定番中の定番として昔から多くのジャズファンに親しまれています。日本では白人女性ヴォーカルと言えばまず彼女の名前と上記の作品が挙げられるのではないでしょうか?

ただ、本国アメリカでは事情が少し違うようなのです。アメリカでは白人女性ヴォーカルと言えば、アニタ・オデイ、ジューン・クリスティ、クリス・コナーの3人が人気・実績とも群を抜いており、ヘレン・メリルは第2または第3グループと言ったところでしょうか?実はメリルは1960年代はまずイタリアに移住し、さらに1966年から5年間はドナルド・ブライドンと言うUPI通信社の東京支局長と結婚し、日本で過ごしたそうです。その間に演奏活動も行っており、渡辺貞夫や猪俣猛ら日本のジャズマンとも共演しています。おそらく彼女の日本での抜群の知名度はそのあたりの経歴が影響しているのは間違いないでしょう。上述の”ニューヨークのため息”もどうやら日本限定のニックネームっぽいですね。

ただ、だからと言ってメリルが過大評価されていると言う訳ではありません。代表作であるブラウンとの共演作(実はこれがデビュー作)はもちろん名盤ですし、その他では今日ご紹介する「ザ・ニアネス・オヴ・ユー」もなかなか良いアルバムです。録音は1957年12月および1958年2月。録音は「ウィズ・クリフォード・ブラウン」と同じくエマーシー・レコードです。メンバーですが1957年12月のセッションがマイク・シンプソン(フルート&テナー)、ディック・マークス(ピアノ)、フレッド・ルンドクイスト(ギター)、ジョン・フリゴ(ベース)、ジェリー・スロスバーグ(ドラム)。1958年2月のセッションがボビー・ジャスパー(フルト)、ビル・エヴァンス(ピアノ)、ジョージ・ラッセル(ギター)、オスカー・ペティフォード(ベース)、ジョー・ジョーンズ(ドラム)です。前者は誰?と言うメンバーばかりですが、後者はエヴァンス、ジャスパー、ペティフォードと大物ばかりですね。

全12曲、曲順は必ずしも録音日時順になっていないので、セッションごとに紹介します。まずは1957年12月のセッションで、1曲目は”Bye Bye Blackbird”。マイルス・デイヴィスの名演で有名なスタンダードで、マイク・シンプソンとやらのフルートを大きくフィーチャーしています。次いで3曲目から6曲目まで”I Remember You””Softly, As In A Morning Sunrise””Dearly Beloved””Summertime”と定番スタンダード続き。特に”Softly~”と”Summertime”と言ったマイナーキーの曲でのメリルの歌い方が印象的です。彼女のかすれたような独特の声はハスキーヴォイスが多い白人女性ヴォーカルの中でもかなり個性的で、"Summertime"ではまるですすり泣くような歌い方です。8曲目”I See Your Face Before Me”も同じような感じ。11曲目”This Time The Dream's On Me"はスインギーなテンポで、マイク・シンプソンのテナーソロも挟まれます。

続いて1958年2月のセッション。ジャズファン的にはビル・エヴァンスの参加に期待が高まりますが、この頃の彼はまだマイルスのバンドで名を挙げる前でソロの機会も限定的です。2曲目”When The Sun Comes Out”はマイナーキーのバラードでメリルが例のすすり泣くようなヴォーカルを聴かせます。ボビー・ジャスパーのフルートソロもあり。7曲目はコール・ポーターの”All Of You”でビル・エヴァンスのピアノソロも聴くことができますが正直あまり目立ちません。9曲目”Let Me Love You”は個人的には本作では一番好きな曲。バート・ハワード作曲の愛らしいメロディをメリルがハスキーながらちょっと色気も感じさせるヴォーカルで歌い上げます。10曲目”The Nearness Of You”はタイトルトラックですが若干地味なバラード。後半でエヴァンスがきらりと光るソロを聴かせます。とは言え、エヴァンスが目立つのは一瞬なので彼を目当てに聴くのはやめた方がいいでしょう。あくまでメリルのハスキーヴォイスを味わうアルバムです。


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