ジャズマンにはビッグバンド出身者がたくさんいますが、それぞれの出身バンド毎に愛称があります。デューク・エリントン楽団員がエリントニアン(Ellingtonians)、カウント・ベイシー楽団員がベイシーアイツ(Basieites)、スタン・ケントン楽団員がケントニアン(Kentonians)、そしてウディ・ハーマン楽団員がハーマナイツ(Hermanites)です。今日ご紹介する「ジ・エクスハーマナイツ」は"元"を意味するex-が付いており、"元ハーマン楽団員"と言う意味ですね。ウディ・ハーマン楽団と言えば"フォー・ブラザーズ"で有名なスタン・ゲッツやズート・シムズ、その後継者のアル・コーン、ジーン・アモンズ等サックス奏者に名手が多い印象です。ただ、本盤には彼らは参加しておらず、フロントを務めるのはトロンボーン奏者のビル・ハリスにヴァイブのテリー・ギブス。正直地味だなあ、と言うのが第一印象です。
ただ、2人とも経歴はそれなりにしっかりしており、ビル・ハリスは1940年代前半からハーマン楽団でプレイしており、録音時点(1957年9月)で40歳のベテラン。ヴァーヴ・レコードのノーマン・グランツに気に入られ、彼の主催する一連のJATPやジャム・セッションもにもよく顔を出しています。テリー・ギブスは以前にインパルス盤「テイク・イット・フロム・ミー」をご紹介しましたが、ウディ・ハーマン楽団始め数々のビッグバンドで経歴を積み、この頃はエマーシーやサヴォイにリーダー作を発表していました。両者とも日本のジャズファンの間ではマイナーですが、本国ではそれなりに知名度があったようです。リズムセクションはルー・レヴィ(ピアノ)、レッド・ミッチェル(ベース)、スタン・リーヴィ(ドラム)。当時の西海岸を代表する腕利き達で、うちルー・レヴィも40年代後半にハーマン楽団に所属していたようです。
なお、本作は当ブログでもたびたび取り上げているモード・レコードの作品です。同レーベルのジャケットはエヴァ・ダイアナと言う女流画家が描いた肖像画シリーズと、ビル・ボックスが描いたベレー帽のおじさんシリーズに分かれていますが、本作は後者のおじさんシリーズです(「レナード・フェザー・プレゼンツ・バップ」「ヴィクター・フェルドマン・オン・ヴァイブス」参照)。おじさんの背負ったリュックの中からもう1人小さなおじさんが顔をのぞかせてトランペットを吹いていると言う何ともユーモラスなデザインですね。
全8曲。基本的にウディ・ハーマン楽団のレパートリーをスモールコンボで演奏すると言う企画のようです。1曲目はハーマンの自作曲"Apple Honey"。スインギーな佳曲で、まずビル・ハリスが力強いトロンボーンソロを取り、テリー・ギブスのクールなヴァイブ、ルー・レヴィの華麗なピアノソロと続きます。私的にはあまり予備知識のなかったビル・ハリスが思ったよりパワフルなトロンボーンを吹くことにびっくりしました。3曲目”Your Father's Moustache"、5曲目”Woodchopper's Ball"も同じような感じのスインギーな曲で、ハリス、ギブス、レヴィらがそれぞれ卓越したソロを取ります。”Your Father's Moustache"では後半にメンバーが♪パ~ヤパラと口ずさんだりしてちょっとコミカルな感じもあります。6曲目”Lemon Drop"も冒頭から♪ドゥビドゥビアッアッとスキャットで歌うユニークな曲。作曲したのは白人バップピアニストのジョージ・ウォーリントンですが、ハーマン楽団が演奏して有名になったようです。上述「レナード・フェザー・プレゼンツ・バップ」でも演奏されていた名曲です。
一方、スローナンバーもなかなか味わい深いです。2曲目”Everywhere"はハリスがハーマン楽団時代に書いた曲で、この曲ではヴァイブもピアノも伴奏に回り、ハリスが素晴らしいバラードプレイを聴かせてくれます。4曲目”Laura"や7曲目”Early Autumn"と言った歌モノスタンダードもハーマン楽団がレパートリーにしていたようで、前者はハリスとルー・レヴィ、後者はテリー・ギブスがメインでレヴィ→ハリスが美しいソロを取ります。ラストトラックの”Blue Flame"はハーマン楽団の持ち曲だったブルースで、まずハリスが地の底から聞こえてくるような超重低音トロンボーンを聴かせ、続いてレッド・ミッチェルの低音ベースと続き、その後でルー・レヴィ→テリー・ギブスがブルースフィーリングたっぷりのソロを取ります。ウディ・ハーマン楽団は白人中心のビッグバンドでしたが、黒人っぽいブルージーなサウンドを売りにしていたようで、この曲がその好例です。本作も5人全員が白人ですが、ビル・ハリスを筆頭にパワフルでドライブ感たっぷりの演奏を披露しており、最初に受けた地味な印象を良い意味で覆してくれる隠れ名盤です。
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