本日はセロニアス・モンクです。モンクと言えばその個性的なピアノの演奏スタイルと同時に独特の旋律を持った自作曲の数々でも知られています。彼がキャリアを通じて発表した楽曲の数は70を超えるといわれていますが、一方で頻繁に演奏される曲はだいたい決まっていて10~15曲くらいです。それらの愛奏曲をある時は管楽器入りのコンボで、ある時はピアノトリオで、ある時はソロで演奏すると言う感じですね。私はモンクはトリオやソロではあまり聴く気はしないので、もっぱら管楽器入りのセッションを持っていますが、作品毎に共演者の顔ぶれが違うので、同じ曲でも演奏が違っていて面白いです。
本日ご紹介する「モンクス・ミュージック」は1957年6月26日録音のリヴァーサイド盤で、モンクの管楽器入りのセッションの中でも最も有名な作品の1つでしょう。何せ顔ぶれが凄いです。まずテナーにジョン・コルトレーンとコールマン・ホーキンス。新旧のテナーの巨人の揃い踏みです。とは言え、この頃のコルトレーンはマイルス・デイヴィス・クインテットの活躍で注目される存在ではありましたが、前月に初リーダー作「コルトレーン」を発表したばかりで、まだ巨人と呼べるような存在ではありませんでしたが・・・サックスにはもう1人アルトのジジ・グライス(ちょうどこの頃ドナルド・バードとの双頭コンボ”ジャズ・ラブ”で売り出し中でした)も加わっています。トランペットにはレイ・コープランド。決してメジャーではないですが、モンク作品では常連です。その他、ベースにはウィルバー・ウェア、ドラムにはアート・ブレイキーと言うラインナップ。モンク作品でも屈指の豪華メンバーですね。
アルバムは全6曲。オープニングは"Abide With Me"と言う19世紀の讃美歌でいきなり意表を突く始まり方ですが、1分足らずで終わります。何でも作曲したのがウィリアム・モンクと言う同姓の人らしいので単なる洒落でしょう。実質のスタートは2曲目の"Well, You Needn't"から。モンクの代表曲で、マイルス等多くのジャズマンにカバーされていますが、モンク自身の演奏では本作のバージョンが決定盤でしょうか?テーマ演奏のあと、まずモンクが叩きつけるような独特のソロを取り、その後はコルトレーンの飛翔するテナー→レイ・コープランドのトランペット→ウィルバー・ウェアのベース→アート・ブレイキーの迫力満点のドラムソロ→御大コールマン・ホーキンスの貫禄たっぷりのテナー→ジジ・グライスのアルト→最後は再びモンクとリレーして行きます。11分を超す大曲ですが最後までテンションの高い名演ですね。
3曲目"Ruby, My Dear"は一転してバラード演奏。この曲はモンクにしては珍しく素直な美しいメロディの曲で、ここではコールマン・ホーキンスがほぼ1人で吹き切ります。4曲目”Off Minor”もいかにもモンクらしい調子っぱずれのメロディが印象的な曲。ソロ一番手はホーキンスで、その後コープランド→モンク→ブレイキーと続きます。このあたりコルトレーンのソロがありませんが、当時の格からしてホーキンス中心なのは仕方のないところでしょうか?
続く”Epistrophy”もモンクの代表曲で後のフリージャズを思わせるようなエキセントリックなメロディですが、彼はこの曲を何と1941年に書いたらしいです。やはり奇才としか言いようがないですね。前2曲で目立たなかったコルトレーンがここぞとばかりに熱くブロウしますが、こういうフリーキーな曲をやらせたらコルトレーンはやはり天下一品です。続いてコープランドの乾いた音色のトランペット→ジジ・グライス→ブレイキーの怒涛のドラムソロ→ホーキンス御大のソロと続き、曲の終盤9分過ぎになってようやくモンクがピアノソロを取りますが40秒ほどで終わります。おそらくモンク的には自分のソロよりもバンド全体の演奏が良ければ満足だったのでしょう。ラストの"Crepuscule With Nellie"は変わったタイトルの曲でこの曲のみが新曲です。ちなみにcrepusculeは"薄明"と言う意味だそうです。前半はモンクのソロピアノで途中からホーン陣が加わりますがアンサンブルだけです。いかにもモンクらしい不思議なメロディの曲を彼ならではのタッチで弾いていきます。以上、"Well, You Needn't""Epistrophy"等モンクの代表曲を豪華メンバーの演奏で味わえるこの作品。モンクの入門編にも最適だと思います。
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