ジャズ・ヴォーカル・シリーズの第4弾はジャズ界きってのおしどりデュオ、ジャッキー&ロイを取り上げます。ジャッキー・ケイン(妻)&ロイ・クラール(夫)から成るこのコンビ、私は大好きで何枚もアルバムを所有しているのですが、一般的な知名度や評価はそこまで高くないような気がします。昔から日本のジャズファンの間ではインストゥルメンタルに比べてヴォーカル自体が低く見られがちですし、そのヴォーカリストの中でも本格的にじっくり聴かせるタイプの方がより評価される傾向にあります。ジャッキー&ロイの真骨頂であるソフトなスイング感やスタイリッシュなヴォーカルは一聴しただけではお洒落なポップスに聞こえなくもなく、硬派ジャズファンからは見向きもされてこなかったのが実情でしょう。
ただ、ジャズ通でも知られる作家の村上春樹氏は「ポートレイト・イン・ジャズ」の中でジャッキー&ロイのことを絶賛していました。細かい表現は忘れましたが、技術的に高度な音楽をさも簡単であるかのようにやってのける、みたいな感じでしたが、私も大いに同意します。カフェのBGMにぴったりな小洒落たポップス風でありながら、歌は抜群に上手いですし、スキャットも絶妙、ロイ自身が弾くピアノを含めて各楽器もきちんとスイングしています。本作はボストンのレコード会社であるストーリーヴィルに1955年に吹き込まれた作品で、2人がおでこを突き合わせるジャケットも最高にクールな1枚。メンバーはジャッキー・ケイン(ヴォーカル)、ロイ・クラール(ヴォーカル&ピアノ)、バリー・ガルブレイス(ギター)、ビル・クロウ(ベース)、ジョー・モレロ(ドラム)の5人。渋いながらも一流のメンツが顔を揃えています。
全8曲、歌モノ6曲、オリジナル2曲という構成です。歌モノスタンダードのうち"Yesterdays"や”I Didn't Know What Time It Was”はロイはピアノ伴奏に回り、ジャッキーがしっとりバラードを歌い上げます。ジャッキー普通に歌上手いやん!というのがよくわかりますが、彼らの真骨頂はやはり2人のヴォーカルの掛け合い。ロジャース&ハートの隠れた名曲”Mountain Greenery"や”Season In The Sun""Cheerful Little Earful"でスキャットを交えて夫婦ならではの息ぴったりのハーモニーを聴かせてくれます。オリジナル曲の”Hook, Line And Snare””Slowly”も素晴らしい。歌詞はなく、全編スキャットと各楽器のソロだけで構成されています。ロイはもともとチャーリー・ヴェンチュラのバンドでピアニストを務めていましたので、普通にスインギーなピアノを聴かせてくれますし、歌伴の名手ガルブレイスのギターソロもさすが。”Hook, Line And Snare”ではさらにジョー・モレロのドラムソロ、ビル・クロウのベースソロも楽しめます。何よりも2人のユニゾンによる♪ドゥビドゥバドゥッドゥ~と言うスキャットが最高で、まさに声を楽器代わりにしたスリリングなアドリブが繰り広げられます。