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ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

スタンリー・タレンタイン/ザ・スポイラー

2025-04-04 17:56:15 | ジャズ(その他)

1960年代ブルーノートの顔とも言えるスタンリー・タレンタインですが、デビュー当初は彼の力強いテナーを全面的にフィーチャーしたワンホーン形式の作品がほとんどでした。ただ、1960年代も半ばになると路線転向を余儀なくされます。この頃はスモールコンボによるいわゆるハードバップ系のジャズは完全に時代遅れとみなされ、ブルーノートのジャズマンもモード/新主流派路線、フリー系路線、あるいはR&B風のソウルジャズ路線と枝分かれしますが、タレンタインはスタイル的にどれも合わなかったらしく、ビッグバンド形式の大型編成に活路を見出します。

皮切りは1965年の「ジョイライド」で、オリヴァー・ネルソン率いるビッグバンドを従えた超名盤です。続いて翌1966年にデューク・ピアソンをアレンジャーに迎え、「ラフ・ン・タンブル」そして今日ご紹介する「ザ・スポイラー」を吹き込みます。ピアソンとの共演は1967年の「ア・ブルーイッシュ・バッグ」「ザ・リターン・オヴ・ザ・プロディガル・サン」でも続きますがなぜかこれらはお蔵入りし、2000年代まで発売されません。1968年にはサド・ジョーンズをアレンジャーに起用し、「ザ・ルック・オヴ・ラヴ」「オールウェイズ・サムシング・ゼア」をリリースしますが、収録曲はほとんど当時のポップヒットばかりであまりジャズ色は強くありません。さらに70年代に入るとタレンタインはフュージョンに転身し、どんどんジャズのメインストリームから外れていくので、この「ザ・スポイラー」あたりが私のような保守的ジャズファンが楽しめる最後の作品でしょうか?

本作の録音年月日は1966年9月22日。総勢9人の小型ビッグバンドで、タレンタイン以外のメンバーはブルー・ミッチェル(トランペット)、ジュリアン・プリースター(トロンボーン)、ジェイムズ・スポールディング(アルト)、ペッパー・アダムス(バリトン)、マッコイ・タイナー(ピアノ)、ボブ・クランショー(ベース)、ミッキー・ローカー(ドラム)、ジョゼフ・リベラ(パーカッション)という布陣です。アレンジャーのデューク・ピアソンはピアニストとしても有名ですが、ここでは指揮に専念しており演奏には参加していません。

オープニングトラックはデューク・ピアソン作曲の"The Magilla"。のっけからパーカッション全開の賑やかな曲でタレンタインがノリノリのファンキーなテナーを披露、ブルー・ミッチェルのトランペット→ジェイムズ・スポールディングのアルトがそれに続きます。ちょっとジャズロック的な雰囲気もあるキャッチーで楽しい曲だと思います。続く”When The Sun Comes Out”は一転バラードでハロルド・アーレン作のスタンダード。ゆったりしたホーンアンサンブルをバックにタレンタインがじっくり歌い上げます。3曲目"La Fiesta"はチック・コリアで有名な曲がありますが、こちらは全くの別曲でアルマンド・ボーサと言うパナマのミュージシャンの曲だそうです。これぞラテンと言った情熱的なナンバーでソロはタレンタイン→ペッパー・アダムス→マッコイ・タイナーの順です。こちらも1曲目同様ダンスフロアでも映えそうな曲ですね。

4曲目”Sunny"はR&Bシンガーのボビー・ヘブが歌い、同年に全米2位となった大ヒット曲です。この曲は翌年にソニー・クリスも「アップ・アップ・アンド・アウェイ」で取り上げていましたし、ジャズマンの間でも人気だったようですね。タレンタインがソウルフルなテナーを聴かせた後、ミッチェル→マッコイ・タイナーもソロを取ります。5曲目"Maybe September"は再びバラードで、同年に公開された「ジ・オスカー」と言う映画の挿入曲です。美しいバラードでトニー・ベネットが好んで歌っていたようです(ビル・エヴァンスとの共演もあります)。ラストの"You're Gonna Hear From Me"はピアニスト兼作曲家で後にロンドン交響楽団の首席指揮者にもなったアンドレ・プレヴィンの曲。プレヴィンが音楽を手掛けた1965年の映画「サンセット物語(Inside Daisy Clover)」の挿入曲でフランク・シナトラやナンシー・ウィルソン、ディオンヌ・ワーウィックも歌ったそうですが、インストゥルメンタルではこのタレンタインのバージョンが決定版だと思います。実に魅力的なメロディを持った名曲で、マッコイ・タイナーの短いソロを挟みながらタレンタインが朗々と歌い上げます。ずばり名曲・名演です。タレンタインのブルーノート作品の中ではあまり取り上げられることはありませんが、なかなか充実の内容と思います。

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フランク・ウェス/サザン・コンフォート

2025-04-02 21:37:53 | ジャズ(その他)

本日はフランク・ウェスを取り上げたいと思います。彼は何といってもカウント・ベイシー楽団での活躍が有名ですよね。1950年代半ばから1960年代前半までの10年間不動のメンバーとして在籍し、同じファーストネームのフランク・フォスターとのツインテナーはトランペットのサド・ジョーンズ&ジョー・ニューマンと並んで黄金期ベイシー楽団の顔的存在でした。ウェスはまたテナーだけでなくフルートの名手としても知られており、ベイシー楽団以外ではミルト・ジャクソンのかの有名な”Opus De Funk”等でも印象的なフルートを吹いています。

今日ご紹介する「サザン・コンフォート」はそんなウェスが1962年3月にプレスティッジ・レコードに吹き込んだ作品です。メンバーはオリヴァー・ネルソンがアレンジを担当する8人編成の小型ビッグバンドで、フロントラインを組むのはベイシー楽団でも同僚だったアル・アーロンズ(トランペット)です。他に主にアンサンブル要員でアレンジャー兼任のネルソン(テナー)とジョージ・バロウ(バリトン)、リズムセクションはトミー・フラナガン(ピアノ)、ジョージ・デュヴィヴィエ(ベース)、オシー・ジョンソン(ドラム)、レイ・バレト(コンガ)と言う布陣です。

内容の方ですがフロントがフランク・ウェスとアル・アーロンズの2人ならさぞベイシー楽団風のスイングジャズ、と思いきや全く違うのが面白いところ。オープニングトラックのネルソン作"Southern Comfort"からコンガがチャカポコ鳴るラテン風の賑やかなリズムをバックにまずウェスがファンキーなテナーソロを披露し、アル・アーロンズの力強いトランペット→名手トミー・フラナガンのピアノソロとリレーします。続くアーヴィング・バーリンのスタンダード"Blue Skies"も力強いハードバップ風の演奏で、フラナガン→アーロンズ→ウェスの熱いブロウと続きます。最初の2曲が思ったよりファンキーな演奏で意表を突かれますね。3曲目"Gin's Beguine"はややクールダウンし、ウェス自身が書いたラテン風のミディアムチューン。実にリラックスした雰囲気の名曲で、まずアーロンズが味わい深いミュートトランペットでテーマメロディを吹き、ウェスの歌心溢れるテナーソロ→再びアーロンズのミュート→フラナガンの軽やかなタッチのピアノソロとリレーして行きます。何となく夏の夕暮れの情景が思い浮かぶ名曲だと思います。

後半(B面)1曲目"Blues For Butterball"はトランペッターのボビー・ブライアントが書いた必殺のファンキーチューン。2000年以降にクラブシーンでも使われたらしく、ノリノリのリズムに乗ってウェス→アーロンズ→フラナガンと熱のこもったソロを展開します。次のウェスの自作曲"Summer Frost"は箸休め的なスローナンバーでここまでテナーを吹いてきたウェスが幻想的なフルートソロを披露します。続く"Dancing In The Dark"もウェスは引き続きフルートを吹き、フラナガンのピアノソロを挟みながら定番スタンダードを軽快に料理します。ラストトラックのネルソン作"Shufflin'"はベースが主役で、ウェスやアーロンズは専ら伴奏に回り、ジョージ・デュヴィヴィエがピチカートソロをたっぷり聴かせます。以上、後半はやや落ち着いた感はありますが、前半4曲はどれも名曲・名演揃い。ベイシー楽団と打って変わってファンキーなテナーを聴かせるウェスに、スモールコンボではあまり耳にすることのないアル・アーロンズのブリリアントなトランペットが予想外の素晴らしさです。どんな時も安定の仕事ぶりのフラナガンもさすがですね。

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セロニアス・モンク/モンクス・ミュージック

2025-03-27 21:18:34 | ジャズ(その他)

本日はセロニアス・モンクです。モンクと言えばその個性的なピアノの演奏スタイルと同時に独特の旋律を持った自作曲の数々でも知られています。彼がキャリアを通じて発表した楽曲の数は70を超えるといわれていますが、一方で頻繁に演奏される曲はだいたい決まっていて10~15曲くらいです。それらの愛奏曲をある時は管楽器入りのコンボで、ある時はピアノトリオで、ある時はソロで演奏すると言う感じですね。私はモンクはトリオやソロではあまり聴く気はしないので、もっぱら管楽器入りのセッションを持っていますが、作品毎に共演者の顔ぶれが違うので、同じ曲でも演奏が違っていて面白いです。

本日ご紹介する「モンクス・ミュージック」は1957年6月26日録音のリヴァーサイド盤で、モンクの管楽器入りのセッションの中でも最も有名な作品の1つでしょう。何せ顔ぶれが凄いです。まずテナーにジョン・コルトレーンとコールマン・ホーキンス。新旧のテナーの巨人の揃い踏みです。とは言え、この頃のコルトレーンはマイルス・デイヴィス・クインテットの活躍で注目される存在ではありましたが、前月に初リーダー作「コルトレーン」を発表したばかりで、まだ巨人と呼べるような存在ではありませんでしたが・・・サックスにはもう1人アルトのジジ・グライス(ちょうどこの頃ドナルド・バードとの双頭コンボ”ジャズ・ラブ”で売り出し中でした)も加わっています。トランペットにはレイ・コープランド。決してメジャーではないですが、モンク作品では常連です。その他、ベースにはウィルバー・ウェア、ドラムにはアート・ブレイキーと言うラインナップ。モンク作品でも屈指の豪華メンバーですね。

アルバムは全6曲。オープニングは"Abide With Me"と言う19世紀の讃美歌でいきなり意表を突く始まり方ですが、1分足らずで終わります。何でも作曲したのがウィリアム・モンクと言う同姓の人らしいので単なる洒落でしょう。実質のスタートは2曲目の"Well, You Needn't"から。モンクの代表曲で、マイルス等多くのジャズマンにカバーされていますが、モンク自身の演奏では本作のバージョンが決定盤でしょうか?テーマ演奏のあと、まずモンクが叩きつけるような独特のソロを取り、その後はコルトレーンの飛翔するテナー→レイ・コープランドのトランペット→ウィルバー・ウェアのベース→アート・ブレイキーの迫力満点のドラムソロ→御大コールマン・ホーキンスの貫禄たっぷりのテナー→ジジ・グライスのアルト→最後は再びモンクとリレーして行きます。11分を超す大曲ですが最後までテンションの高い名演ですね。

3曲目"Ruby, My Dear"は一転してバラード演奏。この曲はモンクにしては珍しく素直な美しいメロディの曲で、ここではコールマン・ホーキンスがほぼ1人で吹き切ります。4曲目”Off Minor”もいかにもモンクらしい調子っぱずれのメロディが印象的な曲。ソロ一番手はホーキンスで、その後コープランド→モンク→ブレイキーと続きます。このあたりコルトレーンのソロがありませんが、当時の格からしてホーキンス中心なのは仕方のないところでしょうか?

続く”Epistrophy”もモンクの代表曲で後のフリージャズを思わせるようなエキセントリックなメロディですが、彼はこの曲を何と1941年に書いたらしいです。やはり奇才としか言いようがないですね。前2曲で目立たなかったコルトレーンがここぞとばかりに熱くブロウしますが、こういうフリーキーな曲をやらせたらコルトレーンはやはり天下一品です。続いてコープランドの乾いた音色のトランペット→ジジ・グライス→ブレイキーの怒涛のドラムソロ→ホーキンス御大のソロと続き、曲の終盤9分過ぎになってようやくモンクがピアノソロを取りますが40秒ほどで終わります。おそらくモンク的には自分のソロよりもバンド全体の演奏が良ければ満足だったのでしょう。ラストの"Crepuscule With Nellie"は変わったタイトルの曲でこの曲のみが新曲です。ちなみにcrepusculeは"薄明"と言う意味だそうです。前半はモンクのソロピアノで途中からホーン陣が加わりますがアンサンブルだけです。いかにもモンクらしい不思議なメロディの曲を彼ならではのタッチで弾いていきます。以上、"Well, You Needn't""Epistrophy"等モンクの代表曲を豪華メンバーの演奏で味わえるこの作品。モンクの入門編にも最適だと思います。

 

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ジミー・レイニー/トゥー・ジムズ・アンド・ズート

2025-03-19 18:08:12 | ジャズ(その他)

本日は通好みの1枚で白人ギタリスト、ジミー・レイニーの作品をご紹介します。15年ほど前に紙ジャケットで発売されており、当時は正直リーダーのレイニーにそれほど馴染みはなかったのですが、サイドマンに大好きなズート・シムズの名前を見つけて買った記憶があります。また、名ギタリストのジム・ホールも"2人のジム"の片割れとして参加しているのも興味をそそられるポイントですね。レイニーはお世辞にもビッグネームとは言えないものの、ABCパラマウント等にリーダー作を数枚、後は名門プレスティッジに「A」と言う変わったタイトルのアルバムを1枚、ケニー・バレルとの共同リーダー作「トゥー・ギターズ」を残しています(ただし、私が所有しているのは「トゥー・ギターズ」のみ)。サイドマンでは「スタン・ゲッツ・プレイズ」に参加していますが、ゲッツの陰に隠れてあまり印象には残りません。

そんな地味なレイニーにリーダー作の機会を提供したのはメインストリーム・レコード。これまた超マイナーなレーベルで私のライブラリーにもこの1枚しかありません。一応検索すると他にヘレン・メリルやカーメン・マクレエのレコードもあるようですが目にしたことはないですね。録音は1964年3月にニューヨークで行われ、参加メンバーはホール&レイニーの"トゥー・ジムズ"とズート・シムズ、スティーヴ・スワロウ(ベース)にオシー・ジョンソン(ドラム)と言う変則的クインテットです。ピアノはいませんがレイニーがソロを取る時はホール、ホールがソロを取る時はレイニーがリズムギターに回っています。

全10曲。ホールのオリジナルが2曲ありますが、スタンダードやボサノバのカバーが中心です。特にボサノバ曲が多く、有名な"Morning Of The Carnival(黒いオルフェ)"を始め、"A Primera Vez""Presente De Natal""Este Seu Olhar""Coisa Mais Linda"と5曲もあります。他にオープニングトラックの"Hold Me"もジェリー・マリガンの作曲ですが、リズムはボサノバ風です。1964年と言えば何と言っても「ゲッツ/ジルベルト」が世界的大ヒットとなった年。ゲッツ以外もキャノンボール・アダレイやクインシー・ジョーンズらもボサノバ作品を発表するなどジャズ界でボサノバブームが巻き起こっており、本作もその影響を受けたのでしょう。ただし、演奏自体がボサノバかと言うとそんなことはなく、きちんとジャズ要素は残っています。レイニーとホールのギターは時にボサノバテイストを交えながらも基本はバップフレーズを駆使していますし、何よりズート・シムズのアーシーなトーンのテナーはジャズそのものですよね。なお、レイニーとホールのギターは音色だけで聴き分けるのはほぼ不可能ですが、ステレオの右側から聞こえてくるのがレイニー、左側から聞こえてくるのがホールとのことです。

ボサノバカバー以外だとR.Ellenとか言う謎の人物が書いたスインギーな"Betaminus"、唯一の歌モノスタンダード"How About You"、ジム・ホールのオリジナル"Move It"と"All Across The City"が収録されています。"All Across The City"はホールの代表曲でビル・エヴァンスとのデュオ作品「インターモデュレイション」でも演奏されていましたが、ズートのバラードプレイが聴ける本作のバージョンもおススメです。"Morning Of The Carnival"だけはテナー抜きですが、それ以外の曲はどれもズートのよく歌うテナーに名手2人のギターが絡む展開。特にスインギーな"A Primera Vez"で見せるズートのソロは最高です。名義上のリーダーはジミー・レイニーですがタイトルが現すようにジム・ホールとズート・シムズのプレイも対等の役割を果たしており、彼らの魅力が存分に味わえる作品だと思います。

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ア・ジャズ・ポートレイト・オヴ・チャーリー・マリアーノ

2025-03-07 19:38:52 | ジャズ(その他)

本日はチャーリー・マリアーノの幻の名盤を取り上げたいと思います。レジーナ・レコードと言うマイナーレーベルに1963年に吹き込まれた作品で、10数年前にたまたまCD化されていたものを買ったものです。チャーリー・マリアーノは白人アルト奏者として50年代は西海岸で活躍しベツレヘムに名盤を残していますし(「チャーリー・マリアーノ」参照)、何より日本人ピアニスト秋吉敏子の旦那として日本のジャズファンの間では大変有名ですよね。残念ながら2人は1967年に離婚してしまうのですが、この頃はまだ仲が良く、夫婦で活動して「トシコ=マリアーノ・カルテット」等の作品を残しています。

録音時の1963年もマリアーノは日本に在住していたようですが、本作はアメリカ帰国中にニューヨークで録音さたようです。メンバーですが主に3つの構成に分かれており、まずパターンAが、後にウェス・モンゴメリー作品で名を馳せるドン・セベスキーがアレンジを手掛ける13名の金管楽器(トランペット、トロンボーン、フレンチホルンが各4、チューバ1)を従えたミニオーケストラ編成。パターンBはこれまたドン・セベスキーが指揮する弦楽オーケストラ(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ハープ等)入りの編成。さらにギターのジム・ホール(ギター)も加わっています。パターンCはオーソドックスなスモールコンボで、マーヴィン・スタム(トランペット)、ジャッキー・バイアード(ピアノ)、リチャード・デイヴィス(ベース)、アルバート・ヒース(ドラム)を従えたクインテットです。

全9曲。順番はバラバラなのですが、説明がややこしいので楽器編成ごとに解説します。まずオープニングですがパターンAの"I Feel Pretty"で始まります。当時映画も大ヒットしていた「ウェストサイド・ストーリー」の挿入曲で、レナード・バーンスタインの書いたポップなメロディをマリアーノがゴージャスなブラスアンサンブルをバックに軽快にソロを取ります。次のブラス入りは6曲目の”Portrait Of An Artist"で、本作のハイライトと言っても良いナンバー。ドン・セベスキーが書いた組曲風の曲で、最初と最後はメランコリックなバラードですが、中間部はアップテンポに転調し、マリアーノが情熱的に吹きまくります。他はラストトラックの”The Song Is You"もおなじみの有名スタンダードをシャープなブラスアンサンブルで料理し、マリアーノも負けじと熱いソロを繰り広げます。

続いてストリングス入りのパターンB。こちらの注目は2曲目の"The Wind”でしょうか?西海岸の名ピアニストであるラス・フリーマン作曲で、チェット・ベイカーやシェリー・マンのアルバムでも演奏されていた哀愁漂うバラードをストリングス入りで雰囲気たっぷりに演奏しています。なお、この曲は後にキース・ジャレットも取り上げ、さらには何とマライア・キャリーの1990年のセカンドアルバム「エモーションズ」で歌詞付きで歌われました。マライア渋いチョイスですね。他にも4曲目”Goodbye"や7曲目”Deep In A Dream"と言った有名スタンダード曲がストリングス編成で演奏されていますが、こちらは正直やや辛気臭いかな。ジム・ホールのギターソロもちょっとだけ聴けたりはするんですが・・・

最後にクインテット編成のパターンCで、まずは3曲目"To Taiho”です。このTaihoとは、当時の大横綱である大鵬のことです。そう、巨人・大鵬・卵焼きのあの大鵬です。上述のようにこの頃マリアーノは日本に住んでいたので、大鵬の相撲を観戦してインスピレーションを受けたのでしょうか?ただ、曲自体はややスピリチュアルな雰囲気のモードジャズって感じで、ちょっとよくわからない変な曲です。それよりもおススメは5曲目”The Shout"。タイトル通りのファンキーなシャウトナンバーで、マリアーノ→マーヴィン・スタム→ジャッキー・バイアードとエネルギッシュなソロを繰り広げます。このスタムと言う人はスタン・ケントン楽団出身の白人トランぺッターですが、なかなかブリリアントなソロを聴かせてくれますね。8曲目"Pretty Little Nieda"はスウェーデン出身で西海岸で活躍したトランぺッター、ロルフ・エリクソンの曲で、ややミステリアスな雰囲気を持った佳曲です。以上、個人的にはパターンBのストリングスはイマイチですが、パターンAのブラスセクションとパターンCのクインテットはなかなかの出来で、掘り出し物の隠れ名盤だと思います。

 

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