モダンジャズ屈指の名ギタリストとして知られるジョー・パスですが、彼は遅咲きのミュージシャンでした。1929年生まれの彼がギタリストとして活動を始めたのは40年代半ば頃。ただし、全く注目を浴びることはなく、にもかかわらず一丁前にドラッグの味だけは覚え、50年代はヘロイン中毒でシャバとムショの間を行ったり来たりとろくでもない日々を送っていたようです。ただ、そんな麻薬依存がある意味彼のキャリアを好転させることになるから人生わからないものです。きっかけは1962年の「サウンズ・オヴ・シナノン」。カリフォルニア州サンタモニカの”シナノン”と言う麻薬更生施設に入院していた6人のジャズマンの演奏をパシフィック・ジャズが録音。おそらくリーダーはピアニストのアーノルド・ロスだったと思われますが、むしろ無名のパスのギターが大きな注目を浴び、その翌年1963年7月に今日ご紹介する初リーダー作「キャッチ・ミー」のリリースにこぎつけます。
メンバーはピアノ&オルガンがクレア・フィッシャー。彼もまたパシフィック・ジャズが当時猛プッシュしていた存在で、前年の「ファースト・タイム・アウト」で気鋭のピアニストとして注目を浴びていました。ベースがアルバート・スティンソン、ドラムがコリン・ベイリーですが、”Mood Indigo””But Beautiful””You Stepped Out Of A Dream”の3曲ではラルフ・ペーニャがベース、ラリー・バンカーがドラムを務めています。
アルバムはロジャース&ハートのスタンダード”Falling In Love With Love”で始まります。ミディアムテンポの軽快なリズムに乗ってパスが歌心溢れるギターソロを披露します。パスはギターの腕を我流で磨いたそうですが、それでここまで弾けるようになるのだから大したものですね。一方、クレア・フィッシャーはバックでピアノではなくオルガンを弾いています。2曲目ガーシュウィンの"Summertime"、3曲目エリントンの”Mood Indigo”はどちらもゆったりした演奏。フィッシャーもピアノソロで盛り立てます。4曲目はタイトルトラックの”Catch Me”で唯一パスの自作曲。意外にもオルガンをバックにしたソウルジャズ風の曲で、パスが見事な速弾きを見せます。
続いて後半(B面)。"Just Friends"もオルガンをバックにしたソウルフルな演奏です。6曲目”Walkin' Up”はビル・エヴァンスの「ハウ・マイ・ハート・シングス」に収録されていた曲。パスのギターソロに続き、フィッシャーがエヴァンス風のピアノソロを聴かせます。7曲目"But Beautiful"はスタンダードのバラードで、この曲ではパスがアコースティックギターを弾いています。8曲目”No Cover, No Minimum"は再びビル・エヴァンスの曲。彼のデビュー作「ニュー・ジャズ・コンセプションズ」に入っていたブルースですが、正直こんな曲あったっけ?と思うぐらいエヴァンスの中でも地味な曲です。ラストは定番スタンダードの"You Stepped Out Of A Dream"をスインギーに演奏して締めくくり。以上、ジョー・パスのパシフィック・ジャズ作品としては翌年に発表した「フォー・ジャンゴ」の方が有名ですが、デビュー作の本作も悪くない出来だと思います。