本日はおなじみ澤野工房からブリティッシュ・ジャズの名コンボ、ジャズ・クーリアーズの作品をご紹介します。ジャズ・クーリアーズと言われても大方のジャズファンはピンと来ないかもしれませんが、タビー・ヘイズについてはご存知の方も多いと思います。イギリス、いやヨーロッパを代表する名テナーで、50年代後半から60年代にかけて多くの名演を残しました。特にフォンタナ盤「ダウン・イン・ザ・ヴィレッジ」は名盤として広く出回っています。ジャズ・クーリアーズはそんなヘイズが同じくイギリスを代表するテナー奏者であるロニー・スコットと組んだクインテットで、1957年から59年までの短期間ながら英国のジャズシーンに大きなインパクトを与えたとか。本作は彼らのラストアルバムでメンバーはリーダー2人に加え、テリー・シャノン(ピアノ)、ケニー・ナッパー(ベース)、フィル・シーメン(ドラム)となっています。
全7曲、オリジナルは1つもなく全て有名スタンダードばかり。ある意味ベタな選曲で、一歩間違えると没個性に陥りがちですが、クインテットの素晴らしい演奏のおかげで耳の肥えたジャズファンも満足させる内容となっています。聴きモノは何と言ってもリーダー2人のけれん味のないテナーバトルですね。どちらも似たようなスタイルで正直どちらが吹いているのかわかりませんが、コクのあるトーンと淀みなく出てくるフレーズがたまらない魅力です。特にお薦めはアップテンポの曲で“If This Isn't Love”“Easy To Love”“Too Close For Comfort”“Love Walked In”と痛快なハードバップが堪能できます。随所に挟まれるテリー・シャノンのピアノソロもいいですね。スコットはテナー1本ですが、ヘイズの方はヴァイブも操るマルチ・プレイヤーで、“Autumn Leaves”では最初は華麗なマレットさばきを披露し、後半はスコットとスリリングなテナーバトルを繰り広げます。モダンジャズで2テナーと言えば、何と言ってもアル&ズートが有名ですが、このヘイズ&スコットも決して負けてはいませんよ。英国ジャズだからと侮るなかれ!ですね。
前回「ジャズ・クインテット60」」でも書きましたが、60年代のデンマークはデクスター・ゴードン、ベン・ウェブスター、ケニー・ドリューなど次々と大物ジャズメンが移住してきていて活況を呈していたようです。今日取り上げるサヒブ・シハブはそこまでビッグネームという訳ではありませんが、バリトン、アルト、フルート等を操るマルチリード奏者として50年代のハードバップシーンではそこそこ重宝された存在です。熱心なジャズファンならジョン・コルトレーンの「コルトレーン」、マル・ウォルドロンの「マル2」、アート・ブレイキーのベツレヘム盤などでの彼の演奏を記憶してらっしゃるのではないでしょうか?
本作は1965年、オクターヴという現地のレーベルに残された作品で、サヒブがデンマークで既に有名なグループだったレディオ・ジャズ・グループに参加して録音した作品です。メンバーは総勢17人にも及ぶので列挙はしませんが、比較的名の知られた所ではテナーのベント・イェディク、トランペットのパレ・ミケルボー、ベースのニールス・ヘニング・ペデルセン、ドラムのアレックス・リールあたりが参加しています。5本のサックスに加え、トランペット、トロンボーン、チューバにギター、ヴァイブも加えた重厚なアンサンブルによる力強い演奏が繰り広げられます。
全9曲。おそらく全てリーダーのサヒブの作曲でしょうか?前半4曲は曲風もマイナー調かつ演奏もハードで勝手に北欧風の穏やかな演奏を予想していると面喰います。私が好きなのは後半5曲(レコードで言う所のB面)ですね。どことなくラテン・フレイバー漂う“Mai Ding”は分厚いブラスセクションをバックにサヒブがブリブリ吹きまくる情熱的なチューン。続く“Harvey's Tune”はモーダルなコード進行を持つ軽快なナンバーでここではサヒブはフルートを吹いています。一転して美しいバラードの“No Time For Criers”ではサヒブがロマンチックなバリトン・ソロを聴かせてくれます。疾走感あふれる“The Cross-Eyed Cat”ではサヒブのフルートの後、ベント・イェディクの力強いテナーが聴きモノ。最後の“Little French Girl”ではサヒブが歌声まで披露しますが、これはまあご愛敬というレベル。以上、サヒブのマルチタレントぶりと北欧ジャズメン達のホットな演奏が堪能できる隠れた傑作ではないでしょうか?

本作は1956年、ジャスパーが本格的にアメリカに活動拠点を移す前にフランス・コロンビアに残した傑作で2つのセッション、全12曲を収録しています。メンバー構成はうち8曲がトミー・フラナガン(ピアノ)、ナビル・トター(ベース)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラム)から成るカルテット。残りの4曲がバリー・ガルブレイス(ギター)、エディ・コスタ(ピアノ)、ミルト・ヒントン(ベース)、オシー・ジョンソン(ドラム)から成るクインテットとなっています。いずれのセッションもアメリカのハードバップシーンから選りすぐりのメンバーが結集しており、ジャスパーのプレイもさることながら他のメンバーの演奏も一級品です。お薦めは冒頭ジャスパーの軽快なクラリネットが冴えわたる“Clarinescapade”、スインギーなフラナガンのソロと力強いジャスパーのテナーが素晴らしい“I Remember You”、メンバー全員がホットに燃える“Wee Dot”、バリー・ガルブレイスのスインギーなギターとエディ・コスタのパーカッシブなピアノが印象的な“They Look Alike”“Barry's Tune”あたりでしょうか?他の曲も粒揃いの演奏で、ヨーロッパジャズという括りは抜きにして同時代のハードバップの中でも屈指の名盤と言ってもいいと思います。

メトロノーム・レーベルに残された本作は1962年の録音で、メンバーはアラン・ボッチンスキー(トランペット)、ニールス・フーショム(テナ-)、ベント・アクセン(ピアノ)、ニールス・ヘニング・ペデルセン(ベース)、ビャーネ・ロストヴォルド(ドラム)から成ります。世界的に有名なのはベースのペデルセン(当時16歳だったというのが驚き!)だけですが、それ以外のメンバーも名手揃いで全編に渡って本場顔負けの熱きハードバップが繰り広げられます。
曲は全10曲。チャーリー・パーカーの“Billie's Bounce”(ここでのペデルセンのベースがまた凄い!)を除けば、メンバーのオリジナル中心ですが、楽曲の質も非常に高いです。特に“Around 3/4 Time”はボッチンスキーの高らかに鳴るトランペットソロに始まり、フーショムの滑らかなテナー、飛翔するアクセンのピアノ、それを支える重厚なベースとドラムと全てが揃った至上の名曲です。“Cuba Libre”もラテンテイストのホットな演奏。一方、バラードも素晴らしく、ビル・エヴァンスを思わせるベント・アクセンの耽美的なタッチが印象的な“More Peace”、2管のロマンチックなソロが胸に沁みる“Ballad Nr.2”と名曲揃い。それ以外の曲も捨て曲なしの充実ぶりで、ヨーロッパジャズという枠を飛び越えて同時代のモダンジャズの中でも屈指の名盤ではないでしょうか?ジャケットも最高にクールですね。
最近ヨーロッパのジャズを取り上げることが多いですが、今日はスタン・ゲッツがスウェーデンのジャズメン達と共演した「インポーテッド・フロム・ヨーロッパ」をご紹介します。ゲッツとスウェーデンと言えばゆかりが深く、1955年にも名盤「スタン・ゲッツ・イン・ストックホルム」を残していますし、本作を録音した1958年からは2年以上にわたってスウェーデンに移住してしまいます。ただ、当時のゲッツは重度のジャンキーで本国アメリカでは麻薬絡みのトラブルで服役したりと散々だったので、逃避先として北欧を選んだという裏の事情もあるようです。ただ、演奏内容はそんなドロドロしたものを一切感じさせないもので、ゲッツの伸びやかなテナーと現地ジャズメン達の見事なアンサンブルを楽しめる作品となっています。
サポートメンバーはベニー・ベイリー(トランペット)、オーケ・パーション(トロンボーン)、エリック・ノールストローム(テナー)、ラーシュ・グリン(バリトン)、ベンクト・ハルベリ(ピアノ)、グンナー・ヨンソン(ベース)、ウィリアム・ショッフェ(ドラム)。曲によってピアノがハルベリからヤン・ヨハソンに代わり、テナーにもう1本ビャルネ・ネレンが加わります。うちベイリーのみがアメリカから移住してきた黒人トランペッターですが、後のメンバーは正真正銘メイド・イン・スウェーデンです。オーケ・パーションやラーシュ・グリンは他でも活躍しているので、名前を聞いたことのあるジャズファンも多いかもしれません。
曲は全7曲中5曲が有名なスタンダード。“They Can't Take That Away From Me”“Speak Low”などお馴染みのナンバーが揃いますが、5管の重厚なアンサンブルをバックに繰り広げられるゲッツの自由自在なソロに加え、前述のパーションやグリンのソロも素晴らしく、十分深みのある演奏に仕上がっています。ハルベリ作のファンキーな“Bengt's Blues”、グリン作の“Stockholm Street”らメンバーの自作曲も良い出来です。それにしても本作でのゲッツのテナーはいつになく絶好調。とめどなく湧き出てくる滑らかなアドリブと澄み切った音色の美しさはまさに唯一無比。60年代に入るとボサノバ路線に転じるゲッツですが、やはりこの頃が最高ですね。