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小説キャンディキャンディFinal Story上・下巻 名木田恵子 (著) 祥伝社 (2010/11/1) の考察です
注:物語に関するネタバレがあります
キャンディキャンディのマンガ・アニメでは、舞台がポニーの家からレイクウッド、ロンドン、スコットランド、シカゴ、ニューヨークへと変わるたびにそれらの土地の風や匂いが感じられ、五感を刺激するような生き生きとした自然や背景描写が、キャンディの物語世界に更なる奥行きを与えていました。
ブログ主は、原作者の手による小説キャンディキャンディFinalSotryを読み、その自然描写の美しさに感銘を受けました。そして、マンガやアニメに見られた自然の美しさは、原作者の影響が大きかったことを改めて認識したのです。
キャンディの物語には、自然の小道具や設定も、重要なアイテムとして所どころで登場しますね。たとえば、キャンディの誕生日がある5月という季節の自然、秋のキツネ狩り、冬の航海、夏の湖、ポニーの丘(にせポニーの丘)、学園の森、アンソニーのバラ、バラの門、石の門、水の門---。
今回は、自然の小道具を通して見えてくるあのひとを考察していこうと思います。
ラッパ水仙(ダッフォディル)
キャンディの物語の中でバラと言えばアンソニーであり、レイクウッドを象徴していることは明白ですね。
小説でも、相変わらずバラはアンソニーへと、レイクウッドへと瞬時に読者を引き戻していきます。季節は日差しの暖かな5月~6月。そこにはキャンディの淡い初恋の少年がいて、時が止まったままの夢のような日々があり、人生のはかなさや美しさが象徴されているのです。
そして、小説には、もう一つ象徴的な花、ラッパ水仙(ダッフォディル)が登場します。ラッパ水仙の季節は2月~3月。日本にとって初春と言えば梅の花というように、イギリス人にとって春を告げる花。イギリスの初春は黄色い大きなラッパ水仙が咲き乱れるのだそうです。
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川沿いに咲くラッパ水仙
ブログ主は、小説の中でも、特に第二章冒頭の大人のキャンディの独白(上巻P230-235)に、とても重要な情報やテーマが盛り込まれていると考察しています(あのひと考察3 小説のテーマ、あのひと考察5 あの人はどんな人1 もご参照ください)。そこはレイクウッドからロンドンへ舞台が変わるところ、キャンディの恋が初恋から熱愛へと変わるところ、人生の大きな転換点なのですが、その舞台が大きく変わる場面転換に使用される花が、ラッパ水仙です。
キャンディとあのひとの家の庭ではラッパ水仙が満開に咲いています。
春といってもテラスに佇んでいると、まだ冷たい風が頬に痛い。
(中略)
庭のラッパ水仙(ダッフォディル)の香りが漂ってくる。わたしは胸いっぱいにその甘い香りを吸い込む。庭の木々の間が黄金の光を放っているように見えるのは、たくさんのラッパ水仙が満開になっているからだ。
(中略)
庭のラッパ水仙(ダッフォディル)の香りが漂ってくる。わたしは胸いっぱいにその甘い香りを吸い込む。庭の木々の間が黄金の光を放っているように見えるのは、たくさんのラッパ水仙が満開になっているからだ。
そして、物語の舞台はセントポール学院での日々へと転換します。
大晦日の船の上でテリィと出会い、春とともにキャンディとテリィの距離が近づいていく様子がそこには丁寧に描かれています。
3月が近づいた頃、学院の森を走り抜け、校舎に急ぐキャンディがテリィにつまずいてしまうシーン(上巻P317-318)からの抜粋を見てみましょう。テリィがケンカでひどい怪我をし、間違えてキャンディの部屋に入ってしまったエピソードの数週間後の出来事です。
あちこちに水仙のつぼみがふくらんだ草原を走りながら、キャンディはアニーのことを考えていた。
(中略)
とたん、キャンディは何かにつまずいて、前のめりに倒れこんだ。
(中略)
笑いながらテリィも起き上がる。キャンディは赤くなって、跳ねるように立ち上がった。
「つまずいただけよ!石ころみたいにどこにでも寝ころぶのね!」
「石ころは水仙の香りなんてかがない」
立ち上がったテリィの顔にはなんの傷跡も残っていなかった。
(中略)
とたん、キャンディは何かにつまずいて、前のめりに倒れこんだ。
(中略)
笑いながらテリィも起き上がる。キャンディは赤くなって、跳ねるように立ち上がった。
「つまずいただけよ!石ころみたいにどこにでも寝ころぶのね!」
「石ころは水仙の香りなんてかがない」
立ち上がったテリィの顔にはなんの傷跡も残っていなかった。
キャンディとあのひとの家に漂う香りが、過去の二人のエピソードへと自然にリンクしている様子がわかりますね。
バラは散ってこそ美しい---アンソニーはキャンディにそう言いました。そして、大人のキャンディはこう独白します。
アンソニーが生み出したばらの花----
わたしは今、その香りさえかぐことができない遠くにいるのだ。
わたしは今、その香りさえかぐことができない遠くにいるのだ。
ラッパ水仙は、長い冬が終わり春の訪れを告げる花として、イギリスでは希望や始まりを象徴する花なのだそうです。小説の中でもラッパ水仙は満開に咲き誇り、香りを放ち、黄金の光を反射しているのです。
アンソニーの死と対照的なテリィの生が、希望が、その花には込められているようです。