すずりんの日記

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小説「雪の降る光景」第1章Ⅰ~13

2006年02月28日 | 小説「雪の降る光景」
 彼らは散々暴行した挙句、はぁはぁと息を切らせながら、もう一度私を押さえつけ、傷口が開いてしまって真っ赤に染まっている右腕の裾をまくった。そして、私の右腕を地面に叩きつけた。
「どうだ。謝る気になったか?」
ハーシェルは、ポケットからタバコを取り出し、ライターでその1本に火をつけて大きく煙を吐き出した。
「震えた声で凄まれても、別に何も感じないがな。謝る気になったか、だって?まさか。」
地面とキスをしそうな口で、私は微笑んでみせた。彼はタバコをプカプカ吹かしていて、何も言わなかった。しかし、肩がかすかに怒りで震えているのがわかった。
「わからなければこうしてやる!」
彼はいきなり、私の右手の傷口を踏みつけ、思い切り体重をかけてきた。ぐっ!と私の口から音が漏れると、彼は、いかにも嬉しそうに、ゆっくりとしゃがみ込んだ。そして、くわえているタバコを、私の右の手首の辺りで揉み消した。
 手首の皮膚が、ジュッと音を立てて強張った。右の肩から指先一本一本までが、痛みを他に発散させないように筋肉を固くしていた。私は、顔を半分地面に押し付けたまま、開いた傷口の痛み―――タバコの方は大したことはなかったので―――が痺れて次第に麻痺してくれるのを待っていた。まるで意識を無くしたように、静かに待っていた。それが、ハーシェルに、勘違いをさせてしまったらしい。彼は、こう言った。
「こいつはもうおしまいだ。・・・いいか、おまえらがこいつの仲間でなかったらこのまま帰してやるところだが、あいにく俺は、こいつの仲間まで何もしないで帰してしまうほどお人好しじゃないんだよ!」
 彼のその言葉が、友人たちへ危害を加えようとする合図であることを私が感じ取った時、既に彼らは、私の仲間に暴力を振るっていた。
「やめろ!やめてくれ!やめないと・・・、やめないと・・・。」
やめないと、君たちが痛い目に遭うんだぞ。私の仲間は、そう必死で警告しているのに、バカな奴らだ。私はそう思いながら、ふつふつと沸き起こってくる怒りに、身を起こしかけていた。


(つづく)

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