欧州連合(EU)の欧州委員会が米国Googleの「Google Books」に対抗しようとしている。
欧州委は1月10日、欧州委が進める「Europeana」プロジェクトなど、欧州の文化遺産のデジタル化に関して有識者グループがまとめた最新レポート「The New Renaissance」を発表した。同グループはレポートでEU加盟国に、図書館やアーカイブ(公文書保管所)、博物館の所蔵コレクションのデジタル化を進めるよう呼びかけている。欧州委はこうした提言を取り入れて、EU内の文化施設のデジタル時代への対応を支援する幅広い戦略を実施する方針だ。
EuropeanaはEUのデジタル図書館で、現在1,500万点以上のデジタル化された書籍、地図、新聞、絵画、写真などの文化遺産を無料で公開している。これは、推計1,500万点の書籍をデジタル化済みのGoogle Booksと競合する規模だ。Europeanaは主に、著作権者が不明となっている「孤児作品」(orphan works)や絶版書を扱っている。
有識者グループは10日発表のレポートで、絶版書のデジタル化による活用は、本来は著作権者に期待されることだが、文化施設は、機を見て作品をデジタル化し、公開しなければならないと提言し、著作権者はその見返りとして報酬を得てしかるべきだと述べている。
欧州委は昨年、Googleに対し、Google Booksで著作権を侵害しないという保証を求めた。Googleは、欧州で販売中の書籍については、その翻訳版が絶版となっている場合にのみ、著作権者の承諾を得て、Google Booksで検索結果として翻訳版を表示すると説明し、出版社の理解を得ようとした。またGoogleは、書籍をデジタル化して提供する前に、書籍が絶版となっていることの確認を徹底することも誓約した。同社は現在、欧州の作品では、著作権が消滅しているパブリック・ドメイン作品、つまり1869年より前に出版された作品のみをデジタル化している。
欧州委の副委員長でデジタル・アジェンダ担当のネリー・クルース(Neelie Kroes)氏は、レポートの発表会見で、文化遺産のデジタル化における競争の要素を歓迎すると述べ、競争はより良い成果につながるだろうとの見解を示した。ただし、EU加盟国は、デジタル化予算をかなり増額する必要があると、同氏は付け加えた。
「Google Booksがわれわれとまったく同じことに取り組んでいるかどうかはよくわからない。われわれは、幅広い人々が幅広い作品に無料でアクセスできるようにすることを目指している。Europeanaは、収益性を追求するビジネス・モデルに基づいてはいない。いずれにしても、われわれは、新たなプレーヤーがGoogleに立ち向かうチャンスがあると考えている」と、レポートの著者の1人であるモーリス・リービー氏は述べている。
レポートでは、官民の協力に関して、デジタル化された作品の優先的利用を民間パートナーに認める期間を、最大7年間とすることが提唱されている。Google Booksでは、これに相当する期間は15年間となっている。
Europeanaは、全EU加盟国から寄贈を受けることから、標準ファイル・フォーマットに関して合意を取り付けなければならない。しかし、こうしたレベルの技術協力については、まだコンセンサスが形成されていないのが現状だ。それでも、レポートでは次のように指摘されている。「標準化され、明確に文書化されたファイル・フォーマットは、プロプライエタリなフォーマットよりも扱いやすい。ただし、オープンなドキュメントは、ソフトウェア会社の利益にかなうとは限らない」
Europeanaのデジタル所蔵コレクションでは、写真、地図、絵画に加え、博物館収蔵物を画像化したものが全体の64%を占める。34%がテキストで、その中には、ダウンロード可能な120万点以上の書籍全文のほか、1500年以前の最も初期の印刷書籍の珍しい原稿も含まれる。
(Jennifer Baker/IDG News Serviceブリュッセル支局)
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