ネットにつなぐたびに、自分の閲覧したウェブサイトや購入した物品の情報が、知らないうちにネット接続業者(ISP)に解析される――。この「ディープ・パケット・インスペクション」(DPI)という技術を用いた広告の配信が、物議をかもしている。
DPIが認められると、たとえ利用者本人が知られたくないような情報でも、ネット接続すればISPが把握、蓄積することになる。総務省はDPIを検討し、提言をまとめたが、利用者側からは「やめてほしい」との声があがっている。
■知られたくない情報も解析される恐れ
「Amazon」のようなショッピングサイトを訪れると、自分で検索したわけでもないのに「あなたにおすすめの商品はこれです」と表示されることがある。代表的なものが「行動ターゲティング広告」。サイトにアクセスした利用者に、サイト側で「クッキー」という技術を使って識別番号を付ける。以後、同じ利用者がアクセスするたびに、そこで検索や購入した商品の情報を蓄積していき、それを基にして本人の好みに合った「おすすめ商品」を提示するという仕組みだ。
これは特定のサイト上での行動履歴に限られる。一方DPIは、ネット上の利用者から伝送されるパケット(小さいデータの塊)をISPが解析、蓄積する。技術的には、閲覧したサイトや電子メールの中身などを解析することが可能だ。サイト単位ではなく、ネット通信中のさまざまな「振る舞い」を記録されるので、そこで得られた情報を言わば「ネット横断的」に広告へと応用できる。例えば、初めて訪れたサイトでも自分の「おすすめ」が表示されることも考えられる。
だが、必ずしも見られたくない情報をISPに握られ、広告に利用されることに嫌悪感を示す人も少なくない。2ちゃんねるを見ると、
「契約してるプロバイダがこれやったら即刻変えるわ」
「当然のように悪用され、尚かつ情報のだだ漏れが起こるな」
「通話先の人が録音するのと、途中で盗聴して録音するのの違い 電話において前者は合法、後者は違法」
など、DPIに反対する声で溢れた。
■「容認した事実はありません」と総務省
総務省は、DPIを含む新しい情報通信技術に関するサービスの諸問題を検討するため、研究会を開催。2010年5月26日に「第二次提言」をまとめ、公表した。DPIについては、「今後の展開が期待される技術」としながらも、通信の秘密の保護との関連について検討。通信の秘密は憲法第21条で保護されており、電気通信事業法第4条第1項で「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない」と規定している。提言によると、DPI技術を活用した行動ターゲティング広告の実施は、利用者の同意を得ない限りは通信の秘密の侵害に該当するという。具体的には、ISPがパケットを解析するのは、通信当事者以外の第三者が積極的意志をもって通信の秘密を知りえる状態に置く「知得」に、また解析結果を広告配信に利用するのは、発信者や受信者の意思に反して自己または他人の利益のために用いる「窃用」にあたるためだ。
だが通信の秘密は、通信当事者の同意があれば侵害とはならない、とも書かれていた。こうなると、同意があればDPI技術を利用してよいと読み取れなくもない。総務省はDPIによる行動ターゲティング広告を容認したのだろうか。総務省消費者行政課に取材すると、「そのような事実はありません」と明確に否定した。
同課によると、そもそも「提言」は、DPIの課題を研究会で検討した内容を整理したものに過ぎず、この段階で「容認した」という類のものではない。それを踏まえたうえで、「同意」の内容について大変厳しい解釈を示していると主張する。例えばサイト上での周知だけ、契約約款に規定を設けるだけでは「同意あり」とはみなさないという。一方で、ISPと新規契約する際の契約書に、「行動ターゲティング広告への利用を目的として、DPI技術を使って通信情報を取得することに同意する」という欄を設けた場合は、「個別かつ明確な同意」として認められるという。仮に同意した後でも、「やはりDPIの使用はやめてほしい」となれば簡単に中止を求められる「オプトアウト」の機会を提供するよう、ISPに求めるとしている。これらは、「一部の法学者から『厳しすぎる』との声があったほど」(消費者行政課)高いハードルだという。
原口一博総務大臣は6月1日の記者会見で、「いかなる状況についても、通信の秘密が侵害されてはならない」と強調。消費者行政課でも、提言は解釈を示したもので、今後さらに慎重に検討を重ねていきたいと繰り返した。総務省へのパブリックコメントも、DPIの使用に反対する意見が多く寄せられたようで、今後も論議が続きそうだ。
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DPIが認められると、たとえ利用者本人が知られたくないような情報でも、ネット接続すればISPが把握、蓄積することになる。総務省はDPIを検討し、提言をまとめたが、利用者側からは「やめてほしい」との声があがっている。
■知られたくない情報も解析される恐れ
「Amazon」のようなショッピングサイトを訪れると、自分で検索したわけでもないのに「あなたにおすすめの商品はこれです」と表示されることがある。代表的なものが「行動ターゲティング広告」。サイトにアクセスした利用者に、サイト側で「クッキー」という技術を使って識別番号を付ける。以後、同じ利用者がアクセスするたびに、そこで検索や購入した商品の情報を蓄積していき、それを基にして本人の好みに合った「おすすめ商品」を提示するという仕組みだ。
これは特定のサイト上での行動履歴に限られる。一方DPIは、ネット上の利用者から伝送されるパケット(小さいデータの塊)をISPが解析、蓄積する。技術的には、閲覧したサイトや電子メールの中身などを解析することが可能だ。サイト単位ではなく、ネット通信中のさまざまな「振る舞い」を記録されるので、そこで得られた情報を言わば「ネット横断的」に広告へと応用できる。例えば、初めて訪れたサイトでも自分の「おすすめ」が表示されることも考えられる。
だが、必ずしも見られたくない情報をISPに握られ、広告に利用されることに嫌悪感を示す人も少なくない。2ちゃんねるを見ると、
「契約してるプロバイダがこれやったら即刻変えるわ」
「当然のように悪用され、尚かつ情報のだだ漏れが起こるな」
「通話先の人が録音するのと、途中で盗聴して録音するのの違い 電話において前者は合法、後者は違法」
など、DPIに反対する声で溢れた。
■「容認した事実はありません」と総務省
総務省は、DPIを含む新しい情報通信技術に関するサービスの諸問題を検討するため、研究会を開催。2010年5月26日に「第二次提言」をまとめ、公表した。DPIについては、「今後の展開が期待される技術」としながらも、通信の秘密の保護との関連について検討。通信の秘密は憲法第21条で保護されており、電気通信事業法第4条第1項で「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない」と規定している。提言によると、DPI技術を活用した行動ターゲティング広告の実施は、利用者の同意を得ない限りは通信の秘密の侵害に該当するという。具体的には、ISPがパケットを解析するのは、通信当事者以外の第三者が積極的意志をもって通信の秘密を知りえる状態に置く「知得」に、また解析結果を広告配信に利用するのは、発信者や受信者の意思に反して自己または他人の利益のために用いる「窃用」にあたるためだ。
だが通信の秘密は、通信当事者の同意があれば侵害とはならない、とも書かれていた。こうなると、同意があればDPI技術を利用してよいと読み取れなくもない。総務省はDPIによる行動ターゲティング広告を容認したのだろうか。総務省消費者行政課に取材すると、「そのような事実はありません」と明確に否定した。
同課によると、そもそも「提言」は、DPIの課題を研究会で検討した内容を整理したものに過ぎず、この段階で「容認した」という類のものではない。それを踏まえたうえで、「同意」の内容について大変厳しい解釈を示していると主張する。例えばサイト上での周知だけ、契約約款に規定を設けるだけでは「同意あり」とはみなさないという。一方で、ISPと新規契約する際の契約書に、「行動ターゲティング広告への利用を目的として、DPI技術を使って通信情報を取得することに同意する」という欄を設けた場合は、「個別かつ明確な同意」として認められるという。仮に同意した後でも、「やはりDPIの使用はやめてほしい」となれば簡単に中止を求められる「オプトアウト」の機会を提供するよう、ISPに求めるとしている。これらは、「一部の法学者から『厳しすぎる』との声があったほど」(消費者行政課)高いハードルだという。
原口一博総務大臣は6月1日の記者会見で、「いかなる状況についても、通信の秘密が侵害されてはならない」と強調。消費者行政課でも、提言は解釈を示したもので、今後さらに慎重に検討を重ねていきたいと繰り返した。総務省へのパブリックコメントも、DPIの使用に反対する意見が多く寄せられたようで、今後も論議が続きそうだ。
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