2012年3月8日に開催された@IT情報マネジメント主催カンファレンス「大量・多種類のデータを、いかに“価値”に還元するか? ROI最大化、収益向上に寄与するビッグデータの真意と活用の鍵」。その基調講演では、野村総合研究所 ICT・メディア産業コンサルティング部 主任コンサルタント鈴木良介氏が、国内外のさまざまなビッグデータ活用事例を紹介した。前編「Amazon、Google、NTTドコモの事例が示すビッグデータの可能性」では、鈴木氏が紹介した米Amazon、米Google、NTTドコモのビッグデータ活用事例をまとめた。後編では引き続き鈴木氏が示したビッグデータ活用事例を紹介するとともに、そこから見えてきたビックデータ活用の課題をまとめる。
※前編記事:Amazon、Google、NTTドコモの事例が示すビッグデータの可能性
→http://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/1203/22/news04.html
●小売店舗の販売促進、カジノのフロアマネジメント事例
「ITの登場により、この10年で格段に進歩したのは、フィードバックを個人単位で行うこと。ECサイトでのリコメンデーションはその典型例だ」。鈴木氏がそう示す通り、ビッグデータの販売促進への活用事例としては、Amazon.comのリコメンデーション機能が有名だろう。商品の購入・閲覧履歴や、同じ商品を購入した人の行動履歴などを掛け合わせてお勧めの商品を提示するサービスだ。
これまでWeb上でのリコメンデーションは多くあるが、実店舗でのリコメンデーションに取り組んでいる事例として鈴木氏が紹介したのが「Shopperception」である。Shopperceptionは、店舗の陳列棚にマイクロソフトのKinectセンサーを設置し、棚のどの部分に消費者が手を伸ばしているのかを分析する。店舗のバックヤードでそれをリアルタイムに把握できるため、陳列棚の最適化に生かすことができる。
「こうしたデータも昔から取ることができたデータだ。店舗内にカウンターを持った調査員を配置して手作業で集計していた。そうしたデータをITの進化により気軽に低コストで取得できるようになってきた」(鈴木氏)
また、鈴木氏は米国のカジノでのフロアマネジメントへのビッグデータ活用事例も紹介した。リアルタイムに顧客ごとの掛け金や収益情報をモニタリングし、例えば「30分以内に一定金額負けが込んだ顧客にはスタッフがマッサージ券を持って話しかけ、一服を促す」というサービスを実践し、顧客にリフレッシュして再度ゲームにトライしてもらうことで総収益を増やしているという。このモニタリングシステムは米国ラスベガスのIGT(インターナショナルゲームテクノロジーズ)が提供する高度なIT技術を活用しているが、「カジノのような高収益モデルの業種であれば、それほどの投資をしても十分取り戻すことができる」(鈴木氏)という。
※関連記事:武蔵ホルトが語る、カテゴリーマネジメントの導入効果と実践の勘所
→http://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/1003/24/news01.html
●南アフリカでの携帯電話通話の需給調整
スウェーデンの通信機器大手Ericssonは、南アフリカで「Dynamic Discount Solution(DDS)」サービスを開発している。もともと通信施設がほとんどなく、固定電話の利用も少なかった新興国で、急速に利用者が増えた携帯電話。通信インフラが脆弱なのにもかかわらずユーザーの利用は増加するため、混雑して使えないといった問題が発生していた。この問題の解決策としては、インフラを強化するか、電話をかけることを抑制するかという2つの方法が考えられるが、DDSは両方の良いとこ取りをしようというソリューションだ。
DDSの仕組みは、ユーザーが電話をかけようとすると、画面に現在の利用料金の割引率が表示される。インフラが混雑しているときには割引率が低くなり、逆にすいているときには割引率を上げる。トラフィックが集中する時間は通話料金を高くし、そうでないときには安くすることで需給調整を見事に行った事例だ。
「新興国のケースだからと笑い話の1つとして紹介していた事例だが、最近笑い話でもなくなってきた。スマートグリッドはじめ、『スマート○○』と呼ばれる製品やサービスはすべからく『需給調整をダイナミックに賢くやろう』という話に行き着く。需給調整をするための強力な武器である『プライス』をうまく活用しようという示唆は、いろいろな業界に応用できるだろう」(鈴木氏)
●事例から見えるビッグデータ活用の課題
○人材問題と一般的な日本企業の文化の問題
ビッグデータ活用の課題として鈴木氏がまず挙げたのが、人材の問題だ。ビッグデータの取り扱いに関するリテラシー、スキルを備え、そこからパッションを得ることのできる人材は決して多くはない。事実、シリコンバレーでもデータ解析人材の争奪戦が始まっていると鈴木氏は指摘する。
「システムやツール類も重要だが、問題の根幹は数理モデリングに関する人材不足だ。300万行のデータを目の前に、ワクワクしてそこから何らかの可能性をすぐに感じられる人は非常に少ない。そうでない人が実際に手を動かそうとしても、少し前のMicrosoft Excelでは6万5000行しか開けない。Excelが駄目だったらどのツールを使っていいか分からない。だからそこから何かの取り組みをしようという気がなくなってしまう」(鈴木氏)
また、自社でできないのであれば分析を外部委託するという手もあるが、そもそもこれまで発注したことがないと同時に、多くの日本企業にはデータ分析にコストを掛ける文化がない点を鈴木氏は指摘する。「前年1円も払わなかったところに予算を付けるのは大変なこと。また、自社のデータを外出しする、というような企業文化の醸成も必要になってくるだろう」(鈴木氏)
※関連記事:ビッグデータ活用の成功を左右するのは「人」──米調査会社
→http://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/1202/15/news04.html
○個人情報の取り扱いとデータの誤用・不適切問題
「消費者の合意があれば何でもよいというものではない」と鈴木氏が指摘する通り、顧客情報などの個人情報を取り扱う場合には、当然のことながらプライバシーに関する配慮が必要だ。2011年に問題となった、スマートフォン保有者の位置情報、通話記録、電池残量をモニターするスマートフォンアプリ「カレログ」は記憶に新しい。前編で紹介したNTTドコモのように、携帯電話やGPSなどのデータを活用する際には匿名化するなどの施策が不可欠になるだろう。
※前編記事:Amazon、Google、NTTドコモの事例が示すビッグデータの可能性
→http://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/1203/22/news04.html
また、行動履歴によるリコメンデーションにも問題がないとはいえない。例えば過去Amazon.comで実際にあった事例では、2008年ごろに硫化水素自殺が急増し社会問題となった際に、ある住宅用洗剤をAmazon.comで表示するとお勧め商品に特定の入浴剤が表示されるという現象が起きてしまったことがある。実はこの現象は、その住宅用洗剤と入浴剤を混ぜ合わせると硫化水素が発生するという事実がインターネット上で知れ渡ってしまったことが原因の1つとなっていた。Amazonでは急きょそれらの商品同士がお勧めとして表示されないように対策を施したという。
「こうした現象は違法かといえば違法ではないだろう。しかし『有害か?』といわれたら言葉に詰まるし、健全な状態ではないことは確かだろう。アルゴリズム上のミスが場合によっては事業のトラブルになりかねない」(鈴木氏)
●データ分析の重要性はこれまでと比べて蓋然性の高い潮流
これからビッグデータ活用をしていこうとする企業のために鈴木氏は、「まずは取得しているのに活用していない死蔵データの分析というスモールな活用から始め、だんだんと応用に至ればいい。業務付随データは宝の山だ。データ活用の4強(Google、Amazon、Facebook、Apple)が持ち得ぬデータが大量に存在する」とアドバイスする。
また、「データをためやすい企業と、そのデータをマネタイズしやすい企業は必ずしも同じではない」とも鈴木氏はいう。これはつまり、データを取得しやすい業者がためたデータを、データを使いやすい業者に売るという、データ流通ビジネスの隆盛の可能性も秘めているということだ。
「“データ分析の重要性”を説きながらも看板倒れに終わったブームは幾つもあった。しかし、電子化・自動化が成熟した段階におけるデータ分析の重要性は、これまでと比べて蓋然性の高い潮流だ。一般事業者においては製品開発、販売促進、保守・メンテナンスなど、多様な業務プロセスでの効用が期待できる。逆に効用を得ていかない企業は、ビッグデータ活用を進める競合と比較して劣位に置かれることになるだろう」(鈴木氏)
※関連記事:企業のデータ活用動向、まずは基幹システムと顧客情報から
→http://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/1201/31/news03.html
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120413-00000099-zdn_tt-sci
※この記事の著作権は、ヤフー株式会社または配信元に帰属します
※前編記事:Amazon、Google、NTTドコモの事例が示すビッグデータの可能性
→http://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/1203/22/news04.html
●小売店舗の販売促進、カジノのフロアマネジメント事例
「ITの登場により、この10年で格段に進歩したのは、フィードバックを個人単位で行うこと。ECサイトでのリコメンデーションはその典型例だ」。鈴木氏がそう示す通り、ビッグデータの販売促進への活用事例としては、Amazon.comのリコメンデーション機能が有名だろう。商品の購入・閲覧履歴や、同じ商品を購入した人の行動履歴などを掛け合わせてお勧めの商品を提示するサービスだ。
これまでWeb上でのリコメンデーションは多くあるが、実店舗でのリコメンデーションに取り組んでいる事例として鈴木氏が紹介したのが「Shopperception」である。Shopperceptionは、店舗の陳列棚にマイクロソフトのKinectセンサーを設置し、棚のどの部分に消費者が手を伸ばしているのかを分析する。店舗のバックヤードでそれをリアルタイムに把握できるため、陳列棚の最適化に生かすことができる。
「こうしたデータも昔から取ることができたデータだ。店舗内にカウンターを持った調査員を配置して手作業で集計していた。そうしたデータをITの進化により気軽に低コストで取得できるようになってきた」(鈴木氏)
また、鈴木氏は米国のカジノでのフロアマネジメントへのビッグデータ活用事例も紹介した。リアルタイムに顧客ごとの掛け金や収益情報をモニタリングし、例えば「30分以内に一定金額負けが込んだ顧客にはスタッフがマッサージ券を持って話しかけ、一服を促す」というサービスを実践し、顧客にリフレッシュして再度ゲームにトライしてもらうことで総収益を増やしているという。このモニタリングシステムは米国ラスベガスのIGT(インターナショナルゲームテクノロジーズ)が提供する高度なIT技術を活用しているが、「カジノのような高収益モデルの業種であれば、それほどの投資をしても十分取り戻すことができる」(鈴木氏)という。
※関連記事:武蔵ホルトが語る、カテゴリーマネジメントの導入効果と実践の勘所
→http://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/1003/24/news01.html
●南アフリカでの携帯電話通話の需給調整
スウェーデンの通信機器大手Ericssonは、南アフリカで「Dynamic Discount Solution(DDS)」サービスを開発している。もともと通信施設がほとんどなく、固定電話の利用も少なかった新興国で、急速に利用者が増えた携帯電話。通信インフラが脆弱なのにもかかわらずユーザーの利用は増加するため、混雑して使えないといった問題が発生していた。この問題の解決策としては、インフラを強化するか、電話をかけることを抑制するかという2つの方法が考えられるが、DDSは両方の良いとこ取りをしようというソリューションだ。
DDSの仕組みは、ユーザーが電話をかけようとすると、画面に現在の利用料金の割引率が表示される。インフラが混雑しているときには割引率が低くなり、逆にすいているときには割引率を上げる。トラフィックが集中する時間は通話料金を高くし、そうでないときには安くすることで需給調整を見事に行った事例だ。
「新興国のケースだからと笑い話の1つとして紹介していた事例だが、最近笑い話でもなくなってきた。スマートグリッドはじめ、『スマート○○』と呼ばれる製品やサービスはすべからく『需給調整をダイナミックに賢くやろう』という話に行き着く。需給調整をするための強力な武器である『プライス』をうまく活用しようという示唆は、いろいろな業界に応用できるだろう」(鈴木氏)
●事例から見えるビッグデータ活用の課題
○人材問題と一般的な日本企業の文化の問題
ビッグデータ活用の課題として鈴木氏がまず挙げたのが、人材の問題だ。ビッグデータの取り扱いに関するリテラシー、スキルを備え、そこからパッションを得ることのできる人材は決して多くはない。事実、シリコンバレーでもデータ解析人材の争奪戦が始まっていると鈴木氏は指摘する。
「システムやツール類も重要だが、問題の根幹は数理モデリングに関する人材不足だ。300万行のデータを目の前に、ワクワクしてそこから何らかの可能性をすぐに感じられる人は非常に少ない。そうでない人が実際に手を動かそうとしても、少し前のMicrosoft Excelでは6万5000行しか開けない。Excelが駄目だったらどのツールを使っていいか分からない。だからそこから何かの取り組みをしようという気がなくなってしまう」(鈴木氏)
また、自社でできないのであれば分析を外部委託するという手もあるが、そもそもこれまで発注したことがないと同時に、多くの日本企業にはデータ分析にコストを掛ける文化がない点を鈴木氏は指摘する。「前年1円も払わなかったところに予算を付けるのは大変なこと。また、自社のデータを外出しする、というような企業文化の醸成も必要になってくるだろう」(鈴木氏)
※関連記事:ビッグデータ活用の成功を左右するのは「人」──米調査会社
→http://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/1202/15/news04.html
○個人情報の取り扱いとデータの誤用・不適切問題
「消費者の合意があれば何でもよいというものではない」と鈴木氏が指摘する通り、顧客情報などの個人情報を取り扱う場合には、当然のことながらプライバシーに関する配慮が必要だ。2011年に問題となった、スマートフォン保有者の位置情報、通話記録、電池残量をモニターするスマートフォンアプリ「カレログ」は記憶に新しい。前編で紹介したNTTドコモのように、携帯電話やGPSなどのデータを活用する際には匿名化するなどの施策が不可欠になるだろう。
※前編記事:Amazon、Google、NTTドコモの事例が示すビッグデータの可能性
→http://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/1203/22/news04.html
また、行動履歴によるリコメンデーションにも問題がないとはいえない。例えば過去Amazon.comで実際にあった事例では、2008年ごろに硫化水素自殺が急増し社会問題となった際に、ある住宅用洗剤をAmazon.comで表示するとお勧め商品に特定の入浴剤が表示されるという現象が起きてしまったことがある。実はこの現象は、その住宅用洗剤と入浴剤を混ぜ合わせると硫化水素が発生するという事実がインターネット上で知れ渡ってしまったことが原因の1つとなっていた。Amazonでは急きょそれらの商品同士がお勧めとして表示されないように対策を施したという。
「こうした現象は違法かといえば違法ではないだろう。しかし『有害か?』といわれたら言葉に詰まるし、健全な状態ではないことは確かだろう。アルゴリズム上のミスが場合によっては事業のトラブルになりかねない」(鈴木氏)
●データ分析の重要性はこれまでと比べて蓋然性の高い潮流
これからビッグデータ活用をしていこうとする企業のために鈴木氏は、「まずは取得しているのに活用していない死蔵データの分析というスモールな活用から始め、だんだんと応用に至ればいい。業務付随データは宝の山だ。データ活用の4強(Google、Amazon、Facebook、Apple)が持ち得ぬデータが大量に存在する」とアドバイスする。
また、「データをためやすい企業と、そのデータをマネタイズしやすい企業は必ずしも同じではない」とも鈴木氏はいう。これはつまり、データを取得しやすい業者がためたデータを、データを使いやすい業者に売るという、データ流通ビジネスの隆盛の可能性も秘めているということだ。
「“データ分析の重要性”を説きながらも看板倒れに終わったブームは幾つもあった。しかし、電子化・自動化が成熟した段階におけるデータ分析の重要性は、これまでと比べて蓋然性の高い潮流だ。一般事業者においては製品開発、販売促進、保守・メンテナンスなど、多様な業務プロセスでの効用が期待できる。逆に効用を得ていかない企業は、ビッグデータ活用を進める競合と比較して劣位に置かれることになるだろう」(鈴木氏)
※関連記事:企業のデータ活用動向、まずは基幹システムと顧客情報から
→http://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/1201/31/news03.html
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120413-00000099-zdn_tt-sci
※この記事の著作権は、ヤフー株式会社または配信元に帰属します