ロータリーエンジンとモータースポーツ その２

1968年8月21日にレースは始まった。順調に走行。80時間走行した時点で、2台のポルシェとランチャに次いで4位。2台とも入賞かと喜んでいた矢先、81時間目に片山義美の乗るクルマがリアアクスルを壊し、後輪が脱落してコース上の端に止まった。当時、若く有能なドライバーである片山義美の顔がまるで10年も一度に年をとってしまったように見えたと、松浦は語る。
もう１台のコスモスポーツは、ヨーロッパのドライバー手によって総合４位に入賞した。81時間で１台がリタイヤしたとはいえ、ロータリーエンジンは健在であったことが、ロータリーエンジンの可能性と優秀性を実証する結果となった。
このレーシング・コスモスポーツのロータリーエンジンは、コスモスポーツの単室容積491ccの10A型２ローターエンジン、オールアルミハウジング、サイドポートを改良したもので、ペリフェラル・ポートとサイド・ポートの両方を使用したインテーク・マニホールド内にあるシャッターバルブで、低速域はサイド・ポート、高速域ではペリフェラル・ポートに切り替えるコンビネーション・ポートであった。このコンビネーション・ポートと日立製ウェバータイプのツインチョーク・サイドドラフト式キャブレターで130bhp/7000rpmを発生していた。
エンジン高を低くしなければならないことから、オイルパンは、約３cmしかなく、レース中の高いコーナリング横Gでオイルが片寄り、オイル切れを生じることから、それに対処するために、オイルパン内にバッファーパネルを設置した。
レース中、潤滑オイルで問題が発生した。それは、ロータリーエンジン固有の現象で、レース中にオイル量が増加し、噴出すことであった。これは、シールの潤滑のために少量のオイルを燃料に混入するために起こる現象で、混合気と一緒に吸入された潤滑オイルがオイルパンに溜まり、やがて噴出するのである。
これは、増量分のオイルをポンプで助手席前のオイル・キャッチタンクに吸出し、ピットストップのたびにタンクを交換することで対処した。
松浦は、「恥ずかしくて人に見せられるような作業ではなかった。その他、現地でいろいろ恥ずかしい思いをした中に、直結クーリングファンをエンジンに付けていたこともその一つで、10PS以上のパワーロスがあった。今にして思えばもったいないことでした。他にも沢山ありましたが、レース初体験、素人エンジニアならの恥さらしでした。 “レースとは何か、勝つためには何が必要か”、プロのレーシングエンジニアになるための多くをここで学びました。ロータリーエンジンのモータースポーツ技術者として私の原点です。」と当時を述懐する。